第三話 リンフレッドとナナフサ
青年は兵真の手を取ると改めて懇願してきた。
「お願いだ、俺を魔王討伐の旅にお供させて欲しい!!」
その真剣な青年のまなざしに兵真はおもわずたじろぐ。
「い、いや別にいいんだけど、それより何の証拠も無しに俺の事勇者って認めちゃっていいのか? いや俺が勇者じゃないってわけではないんだけど」
「ははっ、そんなの確かめるまでもないよ。エメット・ウルフを従えてるんだから、それだけで十分強い人だってわかるもの」
「エメット……ウルフ?」
青年は兵真の後を付いてくる犬を見ながらそう言う。それに釣られるように兵真も犬を見た。
「知らないのかい? ああ、別の世界から来たって言ってたもんな。エメット・ウルフっていうのはこの近くの森に住む銀色の毛並みの狼の名前で、人の言葉を理解できるほど賢く、強く、そして恩義に厚くて……」
「ああわかった、その辺でいいから。それより、なんでそんなに俺の旅に付いて来たいのかの方が知りたいんだけど」
青年の言葉を遮りながら、兵真内心驚いていた。コイツ犬じゃなくて狼だったのか、と。
言われてよく見れば体毛は白なのかと思っていたが、一応銀に見えないこともなかった。
もしかしたら、さっきの鳴き声は自分は犬ではないと主張していたのかもしれない。そう思った兵真は後で謝ることにした。兵真も時折「ひょうま」とか「しょうだいざき」と呼ばれてからかわれた事があるのでそういう名称にはちょっと敏感なのだ。
「俺の目的? ……一言で言うと、復讐かな」
「親を殺された、とかか?」
「いや、ちょっと違う。近くの町に俺の親友が住んでたんだ。……で、魔王が現れたのと同じ頃にそいつは行方不明になって、両親は魔物に襲われて……」
「友人のために、か。いい話しじゃないか」
「それだけじゃあねぇ。町に直接現れた魔王の野郎は、あいつの彼女までも殺しやがったんだ! あんな奴、俺は絶対に許してなんかおけねぇんだ!!」
固く拳を握り締めた青年に、兵真は手を差し出す。
「お前の気持ちは伝わってきたよ。改めて、兵真だ。一緒に魔王を打ち倒そうぜ。えっと」
「ああ悪い、名前も言ってなかったよな。俺はリンフレッドだ」
兵真の手を握り返し、リンフレッドと名乗った青年は笑顔を返す。
「よろしく頼むぜ、ヘイム!」
「兵真だ!!!!!!!」
リンフレッドと共に兵真は村で旅の準備を始めた。
村の人々と仲の良いリンフレッドは旅の必需品などを安値で売ってもらっていたので、兵真の財布的にも非常に助かった。
「さっきはごめんな。お前の名前、この辺りだと珍しくって言いづらくってさ」
「そんな気にしないでくれよ。別に悪気があったわけじゃないならそれでいいし、なんだったらこのままヘイムって呼んでくれてもいいぜ。なんか、カッコイイし」
「そうか? だったら俺の事も気軽にリンって呼んでくれ。これから一緒に旅する仲間なんだしな」
「ああ。俺たちで絶対に魔王を倒そうな、リン!」
「ウォン!」
買い物も一通り終わり、村のそばの草原でリンフレッドと談笑しながら荷造りをしていると犬、もとい狼が存在を主張するように吼えてきた。
「……ところでヘイム。こいつの名前ってもう決めてたりするのか?」
「一応、決めてはあるんだよな。有名所から取ったんだけど」
「へぇ、なんて名前なんだ?」
この狼も兵真たちの旅に同行させる事にした。リンフレッドの話では動物と侮る無かれ、非常に強いらしく、試しに予備として購入した剣を持たせて兵真が戦った所翻弄されっぱなしであった。
現状の三名の中で最も強く、兵真への恩返しとしてまだまだ付いてくるつもりマンマンの様子なので置いていく理由も無かったのだが。
「ナナフサ、って名前なんだけど、どう思う?」
「おおっ、あんまり聞いた事はないけどカッコいいんじゃないか!? 俺はアリだと思うぜ! で、その当のナナフサさんはどうよ?」
「ウォン!」
どうやら気に入った様子だ。他にも名前の候補はあったのだが、兵真としてはナナフサの大きさ的に違う気がしたのでこちらを気に入ってくれてよかったと思う。
「そんじゃあ、当面の目的地はスタールまでいってそこで仲間集めって事でいいかい、ヘイム?」
「おう! 流石に二人と一匹じゃあ魔王を倒すのに心許ないもんな」
スタールと言うのは先程リンフレッドの話の中で出てきた魔王に襲撃された当初は荒れたという話だが、今では魔王の現れる以前以上の活気を取り戻しているということで、仲間を集めるならココという話らしい。
「でも、いいのか? リンにとっては嫌な想い出の多い町なんじゃないのか?」
「心配してくれるのはありがたいんだけどさ、ヘイム。昨日今日の出来事ってわけでもないし、町に行くくらいなら大したことないさ」
気にするなとリンフレッドは手をひらひらさせて返す。確かに恐れているようには見えなかったものの、ただの強がりでないといいのだが、と兵真は心配する。
すると、そんな兵真の心中を知ってか知らずかリンフレッドは話題を変えた。
「……ところでよぉヘイムさんや、仲間にするのはどんなのがいいと思うね?」
「……おいおい、そりゃ決まってるだろ。男まみれのパーティなんてむさ苦しくって花が無ぇ。男は今の数だけで十分だから、できるだけとびっきりの美人さんを引き入れようじゃありませんか」
周りに誰かがいるわけでもないがひそひそと二人で話し合い、お互いの考えが同じ方向を向いていることを確認すると、二人はバシーンと手を取り合った。
「いやぁ流石はヘイムさん! 勇者だけあってわかってるねぇ!!」
「リンさんあんたもよぉく分かってらっしゃるッ! やっぱこういう旅には美少女が欠かせねぇよな!」
「そうと決まれば!」
「ああ!!」
「「いざ行かん、スタールの町へ!!」」
手早く荷物をまとめると、二人は肩を組み意気揚々とスタールへ向けて歩き始める。
そのなんとも欲望丸出しの会話をナナフサはただ呆れ気味な顔で黙って見つめ、二人の後を追うようにとぼとぼとついていった。




