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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第二十九話 氷河の迷宮 第四層③

 作戦を説明し終え、兵真達は広間の中央に陣取る。階段側の通路に二人、そこから左の通路に二人で大蛇が現れるのを待つ。

 右の通路は見ない。同じ場所から出てくるというフェイントは連続で行えば警戒されるし、何より大蛇自身の体にも大きな負担をかけるようなので連続で行うとは思えなかったのだ。


「ッ! 来たぞ、ヘイム!」


 兵真の考えは的中していた。リンフレッドの見ていた左側の通路に大蛇の横顔が現れ始めている。


「よし、作戦開始だッ! みんな、やるぞッ!!」


 ムツミとレイニーは黙って頷き、通路入口の左側へと駆け出す。

 兵真とリンフレッドの二人はそのまま中央へ残り、緊張の面持ちで構える。

 向こうも兵真たちの姿を発見するや否やすさまじい速度で迫り来る。

 あとほんの数秒後には開かれた顎に二人が飲み込まれる、という距離で大蛇は突如ガクンとその場で止まった。

 この場にいないナナフサだ。大蛇の後を追いかけ、注意が兵真たちに向いた瞬間を狙って床に縫い付けるように剣を大蛇の尻尾に突き立てたのだ。

 この巨体相手ではそう長くは持たせられないだろう。せいぜい、持って数十秒。

 だが、それだけあれば十分だ。動きが止まったのを確認し、大蛇の左半身側で待機していたムツミとレイニーの魔法が降り注ぐ。

 狙いは傷口、最初にナナフサが切り開いた場所。

 ムツミの光の槍が直撃し、肉を抉る。レイニーのブラストマジックで吹き飛ばされた無数の破片が裂傷を更に拡げ魔力を打ち消す鎧を切り裂いていく。

 ダメージを受け、大蛇のターゲットが兵真たちからレイニーへと変わる。首を捻り、二人へと死の顎が迫る。


「お前の相手は!」

「俺達だぁッ!!」


 だが、立ちはだかる兵真達がその行動を許さない。

 リンフレッドの跳躍から放たれる全力の踵落としが開かれた大蛇の上顎へ直撃し、衝撃で勢いよく顎が閉じられる。

 ヒットした部分を覆う鱗は砕かれ、そこに兵真の剣が突き立てられる。

 一息に下顎を突き破り床まで貫き、大蛇の行動を完全に封じにかかる。

 当然、大蛇は暴れる。だが兵真は決して剣を離さない。リンフレッドも大蛇の頭に幾度も拳を叩き付けて援護する。


「ムツミ! レイニーさん! そう長く抑えてられそうに無いッ! 早いとこトドメをッ!」

「わかってるわ!」

「ヘイム、もう少し耐えてて!」


 二人の魔法が豪雨のごとく大蛇の横腹をより深く深く切り裂いていく。それに呼応するように前後を押さえつけられた大蛇の体がのたうつ。

 ムツミ達の放つ魔法の量も凄いが、大蛇の抵抗もまた凄まじい。まるでそれは荒れ狂う海の様。

 大蛇が完全に止まるのを待ち続ける兵真だったが、それよりも先に尾が広間へと侵入する。ナナフサの拘束が解かれてしまったのだ。

 ムツミ達の攻撃でもはや大蛇の体の肉の大半はグチャグチャのミンチ状になっているが、それでも決して抵抗は緩まない。

 そして、限界が訪れた。

 兵真の拘束も解かれ、大蛇は頭を持ち上げて突き刺さる剣ごと兵真を振り払った。

 大蛇の顎から剣が抜かれ、兵真はムツミ達とは逆方向へと飛んで行く。

 しまった、このままではムツミ達が! 兵真は手を伸ばすが、それは決して届かない。


「……ッ! ムツミ……!!」


 床に叩き付けられ、これから起こるであろう光景に兵真は立ち上がる事も忘れて絶望した。

 が、それは杞憂に終わる。

 拘束から逃れた大蛇だったが、ムツミ達へ襲い掛かりはせず、むしろのた打ち回って彼女たちの反対側、通路も何も無い壁へと激突したのだ。

 間に合わなかった、と兵真は思ったが、どうやらギリギリのところで間に合ったということらしい。

 大蛇は衝突した壁を大きく崩壊させ、しばらくの間砂浜に打ち上げられた魚のように跳ねていたが、すぐに動かなくなる。

 その下にじわじわと赤黒い血溜まりが生まれ、しばらくしてそれが拡大を止めると、兵真はようやく理解が追いつく。


「…………。お、終わった、のか」

「みたい、だな」


 吹っ飛んだ兵真を起き上がらせに来たリンフレッドの相槌を聞き、兵真はとうとうこの大蛇との死闘に打ち勝ったのだと実感を得る。

 安堵した様子でムツミとレイニーも兵真の元へ駆け寄ってくる。遅れてナナフサも通路から飛び出してきて元気な姿を見せた。


「ふう、一時は危ないかと思ったけれど、どうにかなったわね」

「ヘイム、大丈夫?怪我とかしてない?」


 床に思い切り体を叩き付けていたのを見たのかムツミが心配そうに兵真を見る。


「へーきだよ。俺いつの間にか結構頑丈になってたみたいで全然問題ないし」

「そう? なら、いいけど」

「まぁ、平気じゃない事があるとしたら……」


 兵真は階段のある通路の方へと目をやる。いや、恐らく「あった」の方が正しいのだろう。



 兵真の予感は正しかった。戻ってきてみれば降りてきた階段は崩れ、もはや戻る事など不可能な状況だ。


「やっぱりな」


 完全に粉砕され、掘り返す事もできそうにない。絶望よりも先に、兵真の中には仕方ない、という諦めの気持ちが支配していた。

 最初の大蛇の攻撃を止められなかった時点で、兵真達はもう戻る事などできなかったのだ。


「そんな……。折角、みんなで頑張って倒したのに……」


 他の面々も戻る事はできないのは薄々分かっていたようだが、ムツミはそうではなかった。酷く落ち込んでいる。


「本当は帰って休みたかったけど、こうなったらそうもいきそうにないわねぇ」

「仕方ないっすよ。ここはあんなデカイの相手で誰も欠けなかった事を喜んどきましょう」

「ウォン」


 涙を滲ませていたムツミだったが、大分楽観的な他のメンバーに憤りを覚える。


「な、なんでみんなそんなに軽く考えてるの……? もしかして、クリネラの町の誰かが助けに来てくれるのを待つって言うつもりなの!?」

「いやいやまさかそんな事はしないよ」

「じゃあどうするってのよヘイム! 氷河の迷宮はここで行き止まり、階段も破壊されて戻れない、こんな状況でどうしてそんな平然として……!」

「落ち着こうよムツミ。確かにここが行き止まりだったら俺らもこんな余裕ないって。でもさ、ホラあれ」


 まくしたてるムツミを遮って兵真は後ろを指差す。

 ムツミはそれにつられて視線を上げていくと、先程討伐した大蛇が見え、その先に。


「あ……」


 大蛇の最期の足掻きで砕かれた壁。その崩落した向こう側に扉があるのが見えた。


「隠し扉、ってヤツだな」

「その慌てっぷりだとムツミは気がついてなかったみたいだけど、あの先に別の上に戻るルートみたいなのもあるかも知れないし、まだ慌てなくても大丈夫だよ」


 文字通り、まだ別の道があった。それに気付いてムツミは萎縮する。


「ご、ごめん……。ヘイムが吹っ飛んで、怪我してないか心配で、よく見てなかった」

「ふぅ、やれやれ幸せなうっかりさんだ事だぜ」


 リンフレッドが笑ってそう言うと、顔面めがけて光の槍が飛んだ。


「うおおっ危ねぇよっ!」

「急所は外れてたと思うけど」

「いやいや今のは避けなきゃ額ど真ん中にいってたって!」

「うん、だから「と思う」って」

「思ってただけって事かそれ!?」

「はいはいコントはその辺にしとこうぜリン。茶化したお前が悪いんだし」

「いやそれはそうだけどさ……って、ま、待てってヘイム!」


 そう言うと兵真は歩き出した。ムツミとレイニー、ナナフサも後に続き、リンフレッドも慌てて付いて行く。

 隠された扉の先に何があるのか、それはまだわからないが、もはや戻る事はできない。

 迷い無く、兵真達はその先へと進んでいくのだった。

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