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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第二十八話 氷河の迷宮 第四層②

「不味い、避けろッ!!」


 聞こえたか見えたかわからないが、兵真の叫びに合わせリンフレッドは咄嗟にそばにいたレイニーを抱え、兵真は大蛇に背を見せ固まっていたムツミを抱き、飛んだ。

 ナナフサは、と背中から着地した兵真が見渡すと、既に剣をくわえたナナフサが大蛇の顎ギリギリを掠るように走り抜け、すれ違いざまに一撃を叩き込んでいた。横腹が僅かに裂け、軽く血を流す。

 しかし受けた傷に大蛇は勢いを緩めず、そのまま階段の方へと全力で突っ込んで行く。

 激突の爆音が広がり、何かが崩れるような音を聞き、兵真は顔を歪める。


「しまった、退路を塞がれたぞ!?」


 直視してはいないが、確実に今ので階段を崩された。兵真はそう直感する。

 階段への道を塞ぐように詰まっていた大蛇の尻尾が進んでいく。あの大きさから階段を上がる事はできないので、左右どちらかの通路に曲がったのだろう。


「やべぇな、そこそこ離れてたのにあのデカさで一瞬のうちに喰らいついてきやがったぜ!! どうするよヘイム!?」

「どうするもこうするも、真正面に立たないようにしながら遠距離戦しかねえだろう! ムツミ、レイニーさん!」

「ええ、話してた通りのデカブツだし、アタシのブラストマジックの出番ね!」

「わたしも援護する! ……ナナフサ、危ないからこっちおいで!」


 大蛇の尻尾を追いかけようとしていたナナフサをムツミが呼び戻し、一箇所に固まる。

 巨体相手に纏まっていてはいい的のような気もするが、ムツミもレイニーも足は早くない。二人が狙われた際のフォローをする事を考えればこちらの方が良いだろう。

 引っ込んでいった尻尾の曲がり方からして大蛇の顔は階段から左側から出てくる。全員壁に張り付くように位置取り、大蛇の現れるのを待つ。


「…………ッ! 来た!」


 大蛇の口先が見えた。兵真の発見を合図に構えられていたムツミの光の槍が飛び、レイニーのブラストマジックが壁の一部を爆砕し散弾銃の如く大蛇の横顔に瓦礫を飛ばす。どれも確実に直撃していく。

 しかし、大蛇に傷をつける事は叶わなかった。光の槍は弾けるように消え、瓦礫は当たるが鱗を貫く事はなかった。

 直撃の衝撃はあったらしく動きは一瞬止まるが、すぐに動き出す。


「無傷ッ!? なんだアイツ、堅すぎるだろ!!」

「待ってヘイム、今の何か変だった!」


 今の攻撃でこちらの居場所は大蛇も分かっただろう。先制攻撃でダメージを与えられなかったのは無念だがすぐにここから離れようと兵真が動こうとすると、ムツミが手を掴む。

 その目は、何かに気付いた様子だった。


「な、何が変だってんだ? 急いでここから離れないと今度はアイツの攻撃が……!」

「わかってる! でも、今の攻撃でわたしの魔法、何かおかしかったの!」

「光の槍が……?」

「ヤバイぞヘイム、話してる場合じゃねぇ!」


 リンフレッドの言葉に前を見ると、大蛇は強引に首の向きを変えて兵真達に喰らいつこうと猛烈な勢いで迫っていた。

 ムツミの言葉は気になるが、今は回避だ。兵真はムツミの手を引っ張りそこから走って逃げる。


「うおおおおっ……!」


 大蛇の攻撃は単調だ。巨大な頭のこれまた巨大な口を目一杯開けて兵真達を丸呑みにしようとその巨体からは想像もつかない速度で襲い掛かるのみ。

 しかしその一つにして全ての攻撃が即、死に繋がるのだ。早め早めの回避が心がけられる。

 全員無事に退避し、大蛇はそのままの勢いで再び階段のある通路へ飛び込む。しかし今度は先程と少し違った。

 全身が通路に入りきる前に、尾で床を叩き付けたのだ。砕けた床が舞い上がり、兵真達の目をくらます。


「マジかよ……! ヘイム! 次はどっちから来るかわかんねぇぞ!?」

「リンは右見ててくれ! 俺は左を見る!」


 リンフレッドの恐怖の混じった叫びに兵真は即座に答える。そしてリンフレッドとレイニー、兵真ムツミとナナフサとで別れて左右の通路の入口付近で待つ。

 どちらから現れるかわからず、頼みの綱の魔法も効かずで、兵真は呼吸が荒くなりながらもある事を考えていた。


「ムツミの魔法……、そういえば、消えたよな。こう、すーっと溶けるみたいに」


 小さく呟き、先程の光景を兵真は頭の中に思い起こす。

 確かに、ムツミの放った光の槍が消えていた。そう、まるで力を無くしたように。

 考えてすぐに気がついた。そしてそのひらめきをリンフレッド達にも告げようと振り向くと、階段の方から進んでいったはずの大蛇が階段のある方の通路から顔を覗かせていた。


「なっ……!? リン、レイニーさんッ! 後ろだッ!!!」


 叫びながら、なぜ大蛇は同じ場所から出てきたのか、兵真にはすぐにわからなかった。

 しかし少し考えればすぐにわかる。方向転換をしたのだろう。

 あの巨体ではそんな事ができるはずがないという先入観があったのか、誰もその可能性に気がつけなかった。それだけの話だ。

 だがそれでも大分無理をしたのか大蛇の動きは先程よりも遅い。発見が早かったおかげもあり、二人は間一髪でかわし切り、兵真と合流した。


「お、驚いたぜ、まさか後ろから来るとは……。助かったぜヘイム」

「アタシからもお礼を言うわ、ありがとヘイム。……でも、魔法が効かないんじゃあこのままだとジリ貧よね。これは危険を承知で接近戦を挑むしかないのかしら」

「いや、その心配はいらないですよレイニーさん。アイツになんで魔法が効かないのか、俺分かったんで」


 兵真の言葉に仲間達は驚いた。そして次の攻撃を警戒しながら、その続きを黙って聞く。


「ムツミに言われて気がつきました。光の槍が消えたって。どういう事か考えたらすぐわかりましたよ。……多分、アイツの鱗は魔法を無効化する天然の鎧なんですよ」


 単なる推測だが、ほぼ正解だろうとも兵真は思っている。アイツに触れた瞬間、光の槍が消滅したのだから。


「魔法を無効化……。でも、それだとやっぱりアタシ達じゃあもうどうする事もできないんじゃあ……」

「それも心配ないですよ。俺は魔法を無効化する鎧、って言ったんですから。全身鎧で覆ってたって内側は魔法防御ゼロですよ」

「という事はあの蛇の正面に立って口の中を狙うの? それは、アタシ達がかなり危険そうだけど」

「そこも問題ないです。もっと安全に内側を攻撃する方法、ちゃんとありますんで」


 レイニーの言うように、口内に魔法を打ち込めば確実だろう。しかしそれは確実な危険も伴う。

 兵真は仲間を危険な目に会わせたくは無い。だからと言ってそのために出任せを言ったわけでもない。安全に魔法を大蛇の内側に通す方法はちゃんとある。

 恐らく、次にあの大蛇が姿を見せた時が決着となるだろう。

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