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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第二十五話 氷河の迷宮 第三層

 その後特に魔物と遭遇し戦闘になるような事も無く、兵真達は更なる階段を発見し、第三階層へとやって来た。

 あまりにもかわいそうな背中をしていたので去り際のサキュバスに今度クリネラの冒険者を連れて来ることを約束したらとても喜んでいたので、心残りが無いではないが兵真はサキュバスの事はひとまず忘れて周囲の警戒を怠らない。

 ここも上と同じく巨大な魔物が動き回れるようなスペースはない上にやはり全くと言っていいほど魔物と遭遇しないので本当に意味があるのだろうかと疑問に思い始めてはいるが。


「迷宮自体は広い割に魔物がぜんっぜんいねぇな……」

「だよなあヘイム。なんか1つの階に1体って感じでしか出て来ないし、マジでそれだけしかいなかったりしてな」

「二度も続けてそうだと、なんか俺もそんな気がしてきたな……」


 確かになあ、とリンフレッドの言葉に唸る。

 その階層を守るガーディアンのような存在、と考えれば道を塞いでいたしブルータイラントなんかはまさにその通りの存在だと兵真は思う。

 ただそう考えた場合はさっきのサキュバスがあの階のガーディアンという事になってしまうのだが。

 まあ確かに戦いはしなかったものの長い時間足止めはできていたわけだし守護するという点ではできてはいたのだろうか。

 いや、そもそもここに来る前に聞いた話では氷河の迷宮は魔物が溢れかえっているという話だったはずだ。だとするとあまりにも数が少なすぎる。

 他の迷宮探索者がブルータイラントを倒す事ができていなかった以上は少なくとも第一層は魔物が沢山いてもいいはずなのに、他の魔物と一切出会っていない。

 突如その事に疑念を抱いた兵真は仲間達にもその違和感を伝えようと口を開くが――


「おやおや、こんな場所へ可憐な少女がたがいらっしゃるとは、何の用かね?」


 突然の声に驚き視線をやると、兵真たちの目の前にいつの間にか金髪で二本の角を生やし、青い色の肌と背後から覗く蝙蝠の翼が特徴的な黒いスーツを着た男が立っていた。


「なっ、何だお前は!?」

「はっはっは。先に質問をしたのはこちらなんだけどねぇ」


 まあいいだろうと兵真の驚愕に男は答えを返した。


「僕はインキュバス。人間の女性と交わる事によって力を得る、夢魔さ。そして僕の瞳を見た女性達は……」


 自己紹介と共にインキュバスは兵真の後ろに視線をやる。

 すると、虚ろで僅かにうるんだ瞳をしたムツミのレイニーが、自らの服に手をかけ始めている姿が見えた。


「御覧の通り、僕だけしか見えなくなって僕に恋焦がれ、自分達から僕を求めるようになるのだよ。どうだい、この僕の魔眼。羨ましいと思うだろう?」

「よっし魔物出てきたしさっくり殺すか。リン、ナナフサ、できるだけ即死させないようにして痛覚をもって生まれた事を後悔させてやろうぜ」

「えっ何だね君たち外道か何かかね!?」


 ナナフサがサキュバスの時と対応違いすぎない? というような目で訴えかけてくるができるだけ気付かないフリをして兵真は剣を抜いた。


「うっせえ女の子操って自分の意のままにあんなことやこんなこととかお前の方が外道だろうがこの野郎! 死ねとまでは言わねえがその目玉だけは抉り取ってやるからさっさとこっち来て死ね!」

「言ってるじゃないかね!?」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! 俺がこの場でたたっきってや……」


 兵真の剣幕に圧倒され困惑の色を隠せないインキュバスに兵真がまさに斬りかかろうとしたその瞬間、リンフレッドに肩を掴まれる。


「待てヘイム、冷静になるんだ」

「な、何だよリン、なんで止めるんだよ!? も、もしかしてお前自分の好きな子が自分以外の奴に寝取られるの大好きなシュミだったのか!? 悪いけど俺にはそんな趣味ねぇぞ!!)

「俺だってそんな悪趣味な性癖ねーよ。だがなヘイム、あれを見るんだ」


 リンフレッドに促されるがまま、兵真は視線を後ろへ向ける。

 するとインキュバスの魔眼に魅了され、上着を脱ぎ捨てたムツミとレイニーの姿が視界に入る。


「……な、わかるだろ? ヘイム」

「わかってる! このまま放っといたらあのインキュバスにムツミとレイニーさんが……! だから早くあいつを!」


 兵真の反応にリンフレッドは首を振り、ため息を吐いた。


「そうじゃない、そうじゃないぜヘイム。そこよりちょっと過去、でもって今よりちょっと未来の事を考えるんだ」

「ど、どういう事だ……?」


 もったいぶったリンフレッドの言葉に、いきりたった兵真は徐々に落ち着きを取り戻した。そしてそれを確認し、話を聞ける状態になった所でリンフレッドは続きを話す。


「つまりな、このまま二人が裸になるまで待つ。そしてそれからあいつを倒す。すると俺達は二人の裸を見つつ魔眼に操られた二人を助けた事によって感謝までされる。これぞ一石二鳥ってヤツだろ、ヘイム」

「リン、お前……」


 リンフレッドの話に、兵真は目を見開く。

 そして、がっしりとリンフレッドの両肩を掴み、震える声で呟いた。


「お前…………すげえよ、天才だ、天才だよ……! 三回言っとくわ、天才だよお前……!!」

「へへっ、おいおいよせよヘイム三回も言われると流石に照れるぜ」


 涙すら流さんばかりの感動を胸に、兵真はリンフレッドの肩をバシバシ叩いた。リンフレッドは鼻を擦り、照れくさそうにそれを受け入れていた。

 決して短くない旅を共にしてきただけあり今までも心よりの信頼を置いてはいた二人だったが、今この時、その信頼はより深く強固なものとなった気がした。

 ナナフサは、どうしようもないアホを見る目で黙ってそれを見ていた。


「すまない、ちょっといいかね」

「あ? 何だよ今友情を確かめ合ってるんだから邪魔すんなよ」

「お前も聞いてただろうけどあとちょっとだけ生かしておいてやるから、せいぜい楽しみでいる事だぜ」


 申し訳なさそうな表情でインキュバスが割って入ると、さらになんとも言いにくそうな顔をして続ける。


「その、君らの計画を全部言い終えた後で教えるのも何なのだがね。僕の種族の魔眼は確かに女性を操るが、別に意識が無くなるとかではなくて、だね。……つまりはあの状態でも普通に周りの話とか、聞けているのだよ」




「やべえぞリンどうやらあいつの魔眼は男にも効果あるみたいで心にも思ってない事を言わされてたみたいだ!」

「ああ俺も二人が全裸になって恥ずかしい目に会う前にヤるつもりだったのにすっかり操られちまってたぜ!」

「清々しいほどにクズだね君ら!?」


 二人は、全責任をインキュバスに押し付け始末する事にした。


「うるせぇこの勇者尖崎兵真様が聞く耳持たずで成敗してやるぜぇ!!」

「いやぁ絶対キミ魔王とかの方が向いてるよ!」


 インキュバスの言い分ももっともだ。

 それはさておき兵真の全力の一振りを紙一重のところでかわすとインキュバスはすぐさま両手を前に出して停戦を求める。


「わ、わかったもう全部僕が悪いという事にしていいし魔眼も解除するから! 頼むから殺さないでくれ!」


 言うが早いかインキュバスの言葉と共に兵真たちの背後でムツミとレイニーが倒れる音がした。


「す、済まなかった! 久しぶりの女性でちょっと張り切っていたと言うか……と、とにかく君達にはもう手を出さないから、これで許してくれぇ!」


 そう言いながらインキュバスは兵真たちの前から後ずさりしながら去ろうとした。


「待て! その前にここが全部で何階層あるのか教えてもらおうか!」


 この場から去るならまあいいかと逃げようとするインキュバスにトドメを刺そうとするのはやめて兵真は情報収集をする事にした。

 このままいつ終わるかもわからない迷宮探索を続けるのもそれはそれで楽しいかもしれないが、やはりゴールが明確な方がいいだろうと判断したのだ。

 サキュバスの時は他の事で頭がいっぱいですっかり忘れていたが、相手は意思疎通のできる魔物なのだ。こういう情報を聞き出しておいて損はないだろう。

 しかし、兵真の思いとは裏腹にインキュバスは首を横に振った。


「す、すまないがそこまでは知らない! ……ただ、下に進むなら気をつけたほうがいい。たまに何かとても大きなものが這いずるような音が聞こえるのだ」

「大きなもの……?」

「ひっ、……そ、それでは君達! 後は頑張ってくれたまえ!」


 兵真が聞き返すとインキュバスはびくりと震え、すぐにその場から去って行った。

 それを見て兵真とリンフレッドの二人ははぁーっと大きくため息を吐く。


「悪は、去った」

「……だな」

「へえ、良かったわね」

「ええ、そうね」


 二人の言葉に続くように放たれた声に、一瞬硬直する。

 そして、恐る恐る振り返ると、多少乱れはあるものの衣服を着直したムツミとレイニーが立っていた。今まで見たことのないような笑顔で。


「話は聞いていたわ」

「そっ……! そう! そうなんですよ! あのインキュバスが俺達をも惑わせて心にも無い事を……!!」

「ヘイムの言う通りっすよレイニーさん! 俺達はそんな卑怯な真似して女子の裸を見るような事なんて決して……!」

「見たくないの?」

「えっ……い、いや見たいか見たくないかと聞かれりゃそりゃあ見たいけどムツミの許可無くそんな事俺達はしないよマジで!」

「あら、見たいのね?」

「まっ、まー俺もヘイムとおんなじで見てもいいってなら見たいっすけどさっきのは全部インキュバスに言わされてて……」

「そんなに見たいなら、じゃあ見せてあげてもいいけど」


 ムツミの言葉にレイニーも頷き、兵真はリンフレッドと共に目を見開き、顔を合わせた。


「「ま、マジで!?」」

「ええ、もちろんよ」

「うん。見たいんだよね、どうしても」


 ムツミの確認に驚きを隠せずしばらく固まり、それから激しく二人は首を縦に振る。


「み、見たい!」

「すっごい見たい!」

「そう。ここまで頼まれちゃったら仕方ないわよね、ムツミちゃん」

「うん。ここまで頼まれちゃったらそれしかないもんね、レイニーさん」

「そっ、それじゃあ!!?」

「うふふ、見せてあげるわ……」

「わたし達の……」


「「本気の怒りを」」

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