第二十一話 帰還
「……とまあそんなこんなで俺たちはコイツを持って帰ってきたわけなんだけど」
兵真たちはクリネラへと戻り、夢追う雪狐亭にやって来た。そして空いていたテーブルに青い悪魔の首を置いて客達に見せている。
「ここで聞いた話だと何人束になって挑んでも敵わないって話だったから、あんた達が戦ったのはこいつじゃあないんだろうけど、一応聞いておきたくってさ。……めちゃくちゃ強い魔物ってのはコイツの事じゃないよな」
青い悪魔との戦いを兵真に聞かされた客は皆呆然としていた。誰一人として顔は青い悪魔の首に向けられまるで石になったかのように微動だにしない。
その反応にまさかな……と兵真は恐る恐る問うと、誰からともなく言葉が漏れる。
「嘘だろ……。俺らが全員で挑んでも傷一つ付けられなかったブルータイラントをお前らが倒したって言うのか……?」
「へ、へえ。ブルータイラントって言うんだコイツ……」
どうやら、これが件の魔物だったようだ。兵真の言葉を皮切りにどよめきが広がり、そして次第にそれは歓声へと変わり始める。
「マジかよ、ブルータイラントを五人で倒しただって?」
「いや、その内一人は犬……狼か? まあともかく四人と一匹の方が正しくないか?」
「そんな事どうだっていいだろ! ブルータイラントを倒せたって事はあの迷宮を安全に探索できるぐらいの力があるって方が重要だろうが!」
「そうか! って事はあの迷宮の最深部に何があるのか知る事ができるかもしれねぇってんだな!?」
「なるほどなぁ、そいつはちょいと燃えてきたぜぇ!!」
「……っつっても、俺達にどうにかできるワケじゃねぇのは変わらねぇけどな」
徐々にこのまま迷宮へと突撃をかけるのでは、と思えるほどの熱気に包まれて盛り上がり出した酒場の中は、最後の男の言葉で急速にクールダウンした。
うん、まあそうなんだけどさぁ……と立ち上がり拳を突き上げていた男達は静かに椅子に座り直してうなだれる。そして場を盛り下げた張本人である男が兵真たちの前へと出てくる。
「ま、そんなわけで俺らは何もできねぇが、あんたらには迷宮に挑めるだけの力があるみてぇだ。俺もそんな無力な一人だが、迷宮の奥に何が眠ってるのかは興味があるからよ、あんたらも探索が進んだらたまにここに顔を出して力無い俺達の代わりに迷宮内の様子を教えに来てくれや」
力にはなってやれねぇが話相手にはなってやるぜ、と男は笑って戻って行った。
その顔にはやはり迷宮を自分の足で探索できない事への無力感が現れていたが、少しだけ暗さは薄れていたように見える。
それはもしかしたら気のせいではないのかもしれない。他の男達も皆ため息をついて酒を飲み始めていたが、その顔にはどこか光が取り戻されているように兵真には見えた。
決して自分達では敵わない魔物を倒した兵真たちは、彼らの希望の光となったようだ。
それを自覚した兵真たちは、絶対に迷宮の奥底まで辿り着いてやる、と今まで以上に心に強く決めるのであった。




