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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第二十話 氷河の迷宮 第一層

「はぁ。誰も彼も目から光が消えてたな」

「だな。ありゃあきっと心が折れた、って奴だろうな。見た感じ腕利きも何人かいたっぽいけど、そんな奴らの心を折るようなのが居るってなると、結構怖いな……」


 これ以上の情報には期待できそうも無いと兵真たちは夢追う雪狐亭を後にし、宿屋で一晩泊まるついでに作戦会議を行っている。

 作戦会議というか、そもそも兵真は本当に行くべきなのかどうかについて話し合いたい気分になっていたが。


「うーん、あの人達の様子を見てると、あんまり無茶をしたくは無いわねぇ」

「ォーン」

「わたしはヘイムが守ってくれるならまあ、行ってもいいんじゃないかなと思うけど」


 ムツミは行ってもいいと思っているようだが、やはり誰の顔にも不安の色が見える。

 酒場の男達の様子を見てレイニーは少し怯えた様子であるし、ナナフサもやる気はあるようだがどこか迷っているようでもある。

 リンフレッドは難しい顔で悩んでいる。腕を組み、ジッと床を睨み付けている。


「俺は……まあ、ここに来る前に迷宮に行くと決めた以上は、魔物がどこまで強いのか確認くらいはしに行ってもいいんじゃないかとは思うが、もしかしたら逃げる事すらできないような状態になったりするかもしれないし、最悪の事を考えるとどっちとも言えねぇ。……ヘイムは、どっちがいいと思う?」


 最終的な判断は任せる、とリンフレッドは兵真に振った。

 そうなるだろうなとわかってはいたが、やはりこういった選択肢を出されると兵真はとにかく悩む。

 眉間に皺を寄せ、本当にその判断でいいのだろうか、と幾度となく脳内で繰り返す。

 途方も無い時間を悩んでいたような錯覚に襲われながらも、兵真は答えを出した。


「……行こう。でもリンの言うとおりどこに退路を断たれるような罠があるかわからないから、細心の注意を払いながらだ。それととてもじゃないけど歯が立たない相手だったらすぐに逃げるのも忘れないように」


 兵真の言葉に、仲間は皆頷く。反対されるかもと兵真は思ったが、どうやらみんな兵真の意見をリーダーのものとして受け入れてくれたのか、そういった言葉は出てこない。


「わかった。ヘイムがそう決めたなら、付いてくぜ」

「ウォン!」

「そうよね、魔物が本当にとんでもなく強いのか確認もしないで怯えてるなんて、かっこ悪いものね」

「私も魔法でヘイムたちの援護するから、ヘイムもわたし達のことちゃんと守ってね」


 仲間たちの自分を信頼する言葉に、兵真は胸を張って答える。


「ああ! いざって時は、俺がみんなの逃げる時間を稼いでみせるぜ!」

「おいおい、何言ってんだよヘイム。お前一人残して逃げたりなんかしねぇよ。その時は俺も一緒に残るぜ」

「リン……」

「アタシも、二人を残して逃げるだなんてかっこ悪くてできないわね」

「みんなが残るんじゃ、わたしも逃げたりなんてできないかな」

「ウォンウォン!」

「みんな……!」


 いつの間にか強くなっていた、仲間たちとの絆に思わず兵真は涙をこぼしそうになる、が。


「って、それじゃ全滅するじゃねぇか!!」


 ハッと気付き、兵真がツッコミを入れると笑いが生まれた。それに釣られて兵真も呆れるように笑い、辺りを笑いが包む。

 こうして一行はリラックスして迷宮に行く事を決め、明日に備えて眠るのであった。


 その翌日。兵真たちは早速氷河の迷宮へと入った。

 クリネラより程近い場所にある迷宮の内部は天井も壁もかなりの広さがある。大人が五人は手を広げて立っても端から端まで届くかと言った所で、それが左右に分かれ道を作り、奥へ奥へと入り組みながら続いていく。

 どこまで続いているのかは分からないが、一行はひとまず迷宮の魔物がどれほどの強さなのかを知るために慎重に歩を進めている。


「思ったより、魔物が出て来ねぇもんだな……」

「油断するなよリン。こんだけ通路がデカイんだからもしかしたら巨大ロボットとか出てくるかもしれないぞ」

「ロボット……って、何? ヘイム」


 直線の通路では遠くまで目を凝らし、曲がり角では魔物が待ち構えていないか慎重に確認しながら奥へと進み、かれこれ一時間が経とうとしているが、魔物はいっこうに姿を見せない。

 実はどこかに隠れていて背後から奇襲を仕掛けるつもりなのではと後方も常に警戒しているが今の所ネズミ一匹現れない。

 ひょっとしたら今日は定休日だったのでは、と兵真が下らない事を考えながら歩いていると、目の前に壁が現れた。行き止まりだ。


「あちゃー、こっちはハズレの道だったか」


 引き返そうと兵真が振り返ると、レイニーが上を見上げていた。


「……そうね、大ハズレだったみたい」


 もう一度振り返り、レイニーの視線を追うと、壁の上部に青い色の顔が生えている。しかも、その顔は首を曲げて兵真たちを見ていた。

 いや、あるのは顔だけではなかった。悪魔のような顔に続くように、壁にはうっすらとその巨体が浮かび上がっているのだ。

 全員が嫌な予感を覚え一歩後ずさると壁にヒビが入り、ボロボロと崩れ、天井に頭が衝くほどの巨大な青い悪魔が全身を露わにした。


「……マジかよ。迷宮の第一層に居ていいようなサイズじゃねぇぞ」


 通路の広さからもしやと兵真は思っていたが、まさか現実のものになるとまでは予想していなかった。

 太刀打ちできるかは定かではないが、向こうもどうやら逃がす気はない様子だ。青い悪魔は兵真たちに狙いを定めている。

 幸いこちらは壁を背負っている訳ではない。不利と分かればいつでも逃げられる状況だ。しかし逃げるにしても多少なりとも傷を負わせて動きを鈍らせるべきだろうと考え、兵真は剣を抜く。


「ちょっとヘイム!? やる気なの!?」

「ああ、正し歯が立たないと分かったら逃げるの最優先で! 無茶はしない程度にどこまでやれるか確認するぞッ!」


 兵真の言葉に従うように各自武器を構えた。そこに悪魔のちょっとした車ほどあるであろう拳が凄まじい速度で迫り来る。しかし、兵真たちの誰にもそれは見切る事ができた。

 その一撃を容易に回避し、兵真とリンフレッドは悪魔の背後に回りこみ、兵真が右足へ斬撃を、リンフレッドが左足へ強烈な突きを叩き込むと、悪魔がよろめく。

 それを確認した兵真とリンフレッドは即座に離れ、同時にレイニーがブラストマジックを使い悪魔の足元を爆破させると、仰向けに転倒した。

 両腕を使って起き上がろうとする悪魔にムツミの掲げた手の先に生み出された二つの光の槍が放たれ、両腕を貫き迷宮の床に縫い付ける。

 最後に、完全に動きを封じられた悪魔の首めがけてナナフサの剣が振り下ろされ、それはいともたやすく切断された。

 それまで拘束から逃れようともがいていた悪魔は斬首されると、完全に動かなくなった。


「……あ、あれ? もう終わりか?」


 暫くの間兵真は油断無く剣を構えていたが、いくら待てども突如動き出したり首だけが暴れ出したりなどする気配も無い。すでに悪魔の首から生気は感じなくなっていた。

 あまりに話と違う。クリネラの戦士が束になってかかっても誰一人として歯が立たなかったと聞いたのにまるで歯応えの無い敵だった。そのあまりのあっけなさに兵真は困惑する。


「……間違いないな。もう死んでる」


 ナナフサがくわえて持ってきた悪魔の首を調べたリンフレッドが告げる。それを聞き、兵真たちはホッとして武器を納めた。


「強敵だって聞いてたのにね。それがこうもあっさりと死ぬなんて……もしかしたらわたし達、ものすごく強くなってたりしてね」

「だめよムツミちゃん、油断したらいつ足元をすくわれるかわからないわよ」


 ムツミの言葉をレイニーが窘めるが、兵真は内心、いやいやこんなデカイのを簡単に倒せたんだし、もしかしたらムツミの言う通りなんじゃ? と思った。

 だからと言って調子に乗るのがいい結果を招く事は少ない。ひとまず兵真はムツミへの肯定は心の中に留めておく。


「まあなんにせよ迷宮の魔物相手の力試しもできたんだし、今回は一旦コイツの首を持って帰って酒場の人らに見せてみよう。もしかしたらあの人達もコイツは簡単に倒せていたのかもしれないし」


 そう兵真が提案すると、皆賛成だと頷く。一度酒場まで引き返す事が決まった。

 こうして、兵真の初めての迷宮探索は終わりを迎えるのだった。

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