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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第十九話 雪の街クリネラ

 氷河の迷宮を目指し馬車に揺られる兵真たちは、盗賊に出会わないようにと祈っていた。

 しかし、それは決して敵わない相手だからではない。実力差は兵真たちが圧倒的に上だという事実は既に確認済みだからだ。

 戦いとなれば負けることはない。ないのだが。


「……?」


 首を傾げて不思議そうにナナフサは兵真たちを見ている。ナナフサを除き兵真たちは皆、とても暗い表情になっているのだ。

 盗賊が相手でも何の問題もない事はナナフサが証明してくれた。だが、その光景は兵真たちにちょっとしたトラウマを残していた。

 首を刎ねられた三人の盗賊の頭をナナフサが「自分が仕留めたんだぞ」と証明するかのようにくわえて持ってきたので、皆それを直視してしまった。

 その上血の滴る三つの首の内一つはまだ微かに動いていた。口をゆっくりと動かしながら揺れる瞳でこちらを睨んできたのだ。

 魔王に仕える四天王たちも人間と同じような姿をしていたが、その力を見て人とは似て非なるモノだとすぐに認識できたのだが、盗賊はただの人間。

 人を襲う悪人ではあったがそれでも自分達と同じ種族の生物がショッキングな最期を迎える瞬間を見てしまってはなんとも陰鬱な気分になる。


「ま、まあその、あんたらのおかげで俺は助けてもらえた訳だからな。感謝してるよ。……だから、あんまり気に病むなよ」

「……はい」


 いたたまれない空気を察してか、馬車を走らせながら行商人がフォローをしてくれる。兵真がそれに暗い声で返事を返す。

 まあ、皆気分はかなり沈んではいるが旅を止めたいと思うほどではないらしいので、それは兵真にとっては内心ホッとしている。

 その後、またしばらくの間沈黙が場を包んだのだが、突如として馬車の走行が止まった。


「なっ、何だ!? まさかまた盗賊が……!?」


 いきなりの停止に兵真は怯えたが、どうやら兵真の心配するような案件ではなかったらしい。行商人が苦笑いをしながらゆっくりと馬車の中に顔を出す。


「いやいや違うさ。目的地だよ」


 その言葉を聞き、いつの間にか兵真は自身が肌寒さを覚えている事に気付き、馬車の外へ出る。仲間たちもそれに続くように歩き出す。

 すると一行の前に、雪の降りしきる街が姿を現した。


「ここが氷河の迷宮に挑まんとする奴らの集まる街、クリネラだ。……あんた達が強いのはある程度わかったが、迷宮の中の魔物はとんでもない強さだって噂だから、行くならここでしっかり準備は整えておけよ」


 くれぐれも気を付けるようにと付け加え、行商人は商品の買い付けがあるからと告げ、ここで別れる事となった。

 互いに同行を許可してくれた事と護衛として身を守ってくれた事を感謝し合い、馬車が街の中へ吸い込まれていくのを見送ってから兵真たちも動き出す。


「さて、そんじゃ酒場あたりにでも行って氷河の迷宮の情報収集と行こうか」


 兵真の言葉に仲間たちは頷きを返し、酒場を目指すことにした。

 本当なら兵真としては新しい街に着いたらまず最初に装備を買い換えたいのだが、魔鉱街で手に入れた装備はどれもこれも最高級の品だと言う話を行商人から聞いていたので、それは必要ないと判断したのだ。

 とは言えどんな品が並んでいるのか気にはなったので、酒場を探す途中に武器屋を発見した兵真は軽く品揃えを見てみたのだが、その言葉に嘘偽りは無かった。全て今の装備と比べて見劣りするものばかりだったので潔く諦める。

 そんなこんなで一行は迷宮に挑む者達の集う酒場、「夢追う雪狐亭」へとやってきたのだった。

 未知の迷宮に挑む者が集まる、そう聞いて兵真は活気溢れる場所をイメージしていたのだが。


「……いらっしゃい」


 やる気の無い店主の返事に始まり、店に入ってきた兵真たちを暗い目で一瞥してから酒を飲んでため息を吐く客たち。店内も彼らの心情を表すように薄暗かった。

 その光景に困惑しながらも、兵真はとりあえず近くの一人で酒を飲む男の傍に寄って行く。


「なあ、俺達氷河の迷宮に挑もうと思ってここで情報を集めようと思ってたんだけど、なんでみんなこんな暗いんだよ?」


 兵真が話しかけると男は面倒臭そうにゆっくり顔を向け、ヘッと笑って答える。


「決まってるだろ、どいつもこいつも諦めたんだ。……あんな場所、二度と行くもんかよ」

「諦めたって、迷宮攻略を? 確かに迷宮の魔物は強いって聞いてきたけど、そこは人間の知恵ってやつを駆使してさ……」

「したさ。出来うる限りの全ての手を尽くした。ここの奴ら全員で徒党を組んで挑んだ事だってあった。だけどな、魔物一匹倒せやしなかったんだよ。何人も何人も死んで、ここに今残ってるのはその残党、命からがら逃げてきた臆病者だけだ」

「……迷宮の魔物、そんなに強いのか」

「ああ、そりゃあもう笑えてくるくらいだったぜ。笑って、泣けるくらいだ。……行くなら止めたりはしねぇけどな。やめさせようとしても皆俺達の事を馬鹿にして、迷宮に行って、大事な仲間を失って。そんで生き残りはここで俺達みたいに飲んだくれに転向するのさ」


 まあそうなった時は暖かく迎え入れてやるよ、と乾いた笑いと共に言って、これ以上は話すつもりは無いと兵真から視線を逸らす。

 その後も何人かに話しかけはしたものの似たような調子で、結局得られたのは氷河の迷宮内の魔物の強さが桁違いであるという情報だけだった。

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