第十六話 四天王、フレーシス&フロステール
フレーシスの言葉に続けるように兵真たちの背後から声がした。振り向けば兵真たちの入ってきた場所から、右手に白色の宝石の嵌った、黄金に輝く手甲を付けた魔術師風の女が姿を現した。
「おっそい。あんた今まで何やってたの?」
「ごめんねフレーシス。カインってばヘマやらかしちゃったみたいで、一緒に許して貰えるよう頼んでたら遅くなっちゃった」
「つまり迷ってたのね。向こうと比べたらあったかいしまあいいんだけど、ホントの話してよ」
「違うってば。私本当の事言ってるのよ?」
「そう。でも迷ったんでしょ?」
「……うん、ちょっとよ」
兵真たちが突然の登場に身構えていると女は兵真たちの横を素通りしフレーシスと親しげに話し始めた。
話の内容から、フレーシスが待っていたのは恐らく彼女だろう。無事会えたことは良いのだが良くないこともある。
「ヘイム、今あいつカインって」
ムツミの言葉に兵真は頷く。女は兵真たちにちょっとした恐怖を植え付けた人物と同じ名を口にした。とはいえ、よくある名前だ。偶然、同じ名前だっただけかも知れない。
いやいやしかし二度ある事は三度あるということわざもある。このままここに留まる判断をするのは危険かもしれない。
「ああ、逃げよう」
「それでね、カインの報告によるとあのお方を殺そうとしてる人がいるらしいのよ。……珍しい服を着た剣士と青髪の拳法家と狼とメイドと赤色の魔術師、らしいわ」
「へえ、じゃあ珍しい服の奴の名前はきっとヘイマね」
間に合わなかった。こうなる事を既に予感していたのか兵真が剣を抜くより早くムツミの光の槍が飛んでいく。
だが、フレーシスたちを貫く事無く槍は砕け散った。
「よく知ってるわねフレーシス。正解よ。で、あの子たちはお友達?」
「敵に決まってるでしょ。あの人を殺そうとする、ね。……この石ぶっ壊す前にあいつらぶっ殺すから手伝って」
女が手甲を嵌めた腕を盾のように構えると、そこからバリアのようなものが発生し、槍は壊れてしまったのだ。
先に攻撃を仕掛けたのはこちら側ではあるが、向こうも殺る気はマンマンのようだ。問われたフレーシスの言葉に女はもちろんと頷く。
「一応名乗っておきましょう。私は四天王が一人フロステール。同じくこの子はフレーシス。あのお方の命を狙う以上、私たちは容赦しないのでそのつもりでどうぞ」
「ちょっと、こんな奴らに名乗る必要なんかないでしょ、敵よこいつら」
「いやいや、ここまで一緒に来たんでしょ? だったらお礼として、冥土の土産にこのくらいは教えてあげないとよ」
フロステールの言葉に渋々了解の返事をすると、フレーシスの魔法陣が発生し、闇の手が襲い掛かる。
しかし、それが兵真たちの誰かを握り潰すより先にムツミの放つ光の槍が闇の手を貫き、対消滅を果たす。
「あの手はわたしが止めるから、ヘイムたちであいつら仕留めて!」
「わ、わかった!」
兵真、リンフレッド、ナナフサで四天王二人へ接近する。途中闇の手が幾度も迫るがムツミの光の槍によって雲散霧消する。
「チッ、自分を助けてくれたヘイマに何の恩義も感じてないくせに邪魔ばっかり……!! お前だけは絶対何が何でも私がこの手で殺してやるからな……!!!」
フレーシスが鬼のような形相でムツミを睨みつける。だが、その間に肉薄した兵真の剣が横薙ぎにフレーシスの腹部へ、
「うおっ!?」
届かない。フロステールの手甲から放たれるバリアが剣を防ぎ、兵真を弾き返した。
ならば、とリンフレッドとナナフサとで三方向からの同時攻撃を仕掛ける。
「クソ、駄目かッ!?」
「うわっ!」
「ォン!?」
しかし、その全ての攻撃が無意味に終わる。バリアは前面のみではなく、全体へ張れるという事がわかっただけだ。
「残念だったわね。私の魔導障壁はそんなヤワな攻撃じゃあ傷も付けられないのよ」
「ヘイマとは仲良くやれるかもと思ったけど、あの人を殺すつもりならそうもいかないわ。みんな纏めて、私がここでぶっ殺してやるから」
一旦三名は距離を取る。ムツミの援護によってフレーシスの攻撃はなんとか無力化できているが、このままでは膠着状態が続くだけだ。
それに、まだ向こうは何か隠し玉が用意してあるかもしれない。早くどうにかしてバリアを破らなくては一気に不利に傾く可能性もある。しかし、どうすればいいのかは兵真にはわからない。
「みんな、避けて!!」
頭を悩ませているとレイニーが叫ぶ。それと同時に頭上で爆裂音が響き、何事かと動揺しながら三名はムツミとレイニーの元へと退避する。
そこまで戻って振り返れば、天井を覆いつくすほど巨大な鉱石がフレーシスとフロステールを押し潰さんと迫っていた。
「ッ……!? お前ら……!!!」
「フレーシス、駄目ッ!! 離れないで!」
兵真たちへ迫ろうとするフレーシスを抱き締めて抑え、フロステールは天に右腕を掲げバリアを張る。
凄まじい形相で兵真たちを睨みながら何かを叫ぶフレーシスの声は、巨大鉱石が降り注ぐ轟音で掻き消され、二人の姿さえも確認する事はできなくなった。
「……ふぅ、どうだったかしら? アタシの活躍」
フレーシスの声もフロステールの声も聞こえなくなり、一息ついてレイニーは誇らしげに皆に問う。どうやら、あの鉱石はレイニーがブラストマジックで破砕させて叩き落した、ということらしい。
「いきなりドカーンって音がしたからビックリしたけど、結果的には四天王の奴らも倒せたし、すっごい助かりましたよ、レイニーさん!」
「あれ、結構ヘイムって大人な事言えるのね。一歩間違えばあんたもぺしゃんこだったのに」
「そう言うなよムツミ。誰も怪我もしてないんだしいいじゃないか。リンもナナフサもそう思うよな?」
「ああ、俺もヘイムと……」
と、リンフレッドが口を開いた直後、周囲がグラグラと揺れる。驚きながら上を見れば、ブラストマジックによって砕かれた部分より亀裂が広がり、天井が崩れ始めていた。
「……俺もヘイムと同意見なんだけど、このままだとそうも言ってられなさそうっすね」
「ォーン……」
「言ってる場合じゃねえ! 逃げるぞ!!」
のんきに上を見ながら呟くリンフレッドに兵真が叫ぶと一気に落盤が始まる。
兵真たちは凄まじい落石の中を全速力で引き返していった。




