第十五話 魔鉱山②
魔鉱山を進む兵真たちは、順調に魔物を殲滅していっている。
魔物はやはり予想していた通り、兵真たちよりも弱いかったのもあるが、もう一つの理由がある。
兵真たちと行動を共にするフレーシスは、その外見とは裏腹に戦う事が出来たのだ。それもかなりの強さ。
闇の魔法を使い、魔方陣から召喚された闇の手が魔物を握り潰し、引き裂くと、魔方陣の中に腕が引っ込んで消えていく。
ほとんどの魔物は兵真たちに近付く事も敵わずフレーシスの遠距離からの魔法で絶命する。兵真たちは撃ち漏らしの掃除の方や背後や側面からの奇襲の防衛がメインだった。
そんな調子で幾度か魔物を倒しては進み倒しては進みを繰り返し、周囲の魔物の気配が消えたので一旦休憩をする事にした。
「いやあ、それにしても強いよな、フレーシス。その魔法って誰かから教えてもらったの?」
「これは大事な人に教えてもらったの。……私、今より小さい時に奴隷として、汚いオッサンに買われたの。そいつの家に行ってすぐ、服を脱がされて、何されるのかわかったから必死に抵抗して、近くにあった酒のビンでとにかくそいつの頭を殴って殴って突き刺して」
フレーシスの話を聞いて兵真はしまった、と思った。明らかに地雷だ。聞いてはいけない話題だった。
語りたくない過去だろうと考え止めようかとも思ったが、フレーシスはなぜか楽しそうに語り続ける。
「ほんとはまだそいつの息はあったんだけど、しばらく動けなさそうだったから逃げたの。何日か逃げ続けたんだけど、すぐに追いつかれて。もう駄目かと思った時に、あの人が助けてくれたの」
「えーっと……その、あの人ってのが魔法を教えてくれたんだ」
「ええ。私の一番大事な思い出で、私の一番大事な人」
フレーシスは当時を懐かしむように惚けた顔でそう呟き、腕の中の人形を愛おしそうに抱き締める。
しかしそんなフレーシスには気付くことなく兵真は暗い過去を語らせてしまったと気まずい気持ちとなり、話題を少しでもずらす事にした。
「そ、そっか…………。え、えーーと、そうだ! 実は、ムツミも君と一緒で元は奴隷だったんだよ。俺が売られていたムツミを助け出して、笑い方を忘れちゃったって言うんで、いつか俺が自然に笑えるようにしてやるって約束したんだよ」
「助け出したって言うか普通にお金出して買ったんでしょ」
境遇に近い物はあると考え、兵真がムツミの名前を出すと即座に本人からツッコミが返ってきた。
それはともかく、どうやらフレーシスの興味を惹く話題だったようだ。
「そうなの? じゃあムツミ、あなたもヘイマの事は大事にしておくことね。きっと彼はあなたの事を真剣に愛してくれるから、あなたも彼を真剣に愛してあげるといいわ」
「えっ、いや、わたしそういうのはちょっと」
「ふふ、本人の前で素直になれないのもわかるけど、時にはちゃんと伝えた方がいいのよ。ヘイマは真面目そうだし、浮気なんかしないであなたのだけを……」
「だから、わたしヘイムの事はそういう風に見てないの。嫌いかって聞かれると嫌いではないけど、でも好きか嫌いか聞かれても嫌いではないけど好きってほどじゃないから」
「…………あなたのこと、助けてくれた人なのに、好きじゃ、ないの?」
「そうよ。コイツの事はそういう目で見てないの」
「…………」
「お、おいおいフレーシス、そんな怖い目でムツミを見るなよ。確かに本人はこう言ってるけどさ、これからちょっとずつ俺の事好きになって最後は俺の事愛してくれる予定だから今はこれでいーの! な、ムツミ!」
「わたしはそんな予定立ててないけど」
「いやあ、そこはそろそろ全く感情が篭ってなくてもいいからはいはい愛してますよー、くらい言って欲しかったんだけどなー! アハハハハ!!」
ムツミが兵真の事を好きでない、とフレーシスが聞くと途端に殺気が溢れた。
ナナフサがその不穏な空気に反応しビクリと震えたのを見て、兵真が場を和ませようとコミカルに会話に割って入るとなんとか殺気は消えてくれたようだ。
「…………そう、まあ、ヘイマがいいなら、今はそれでいいって事にしとく」
あまり納得してはいない様子でそう言って、フレーシスは人形を強く抱いて俯いた。
ムツミとの会話以降、フレーシスはずっと不機嫌だった。
魔物が発見されれば魔法で攻撃してはくれるのだが、先程以上に魔物への攻撃が苛烈で破壊的になったように見える。
一撃で絶命した魔物へそれ以上攻撃をしたりはしていなかったのだが、死骸に対し何度も闇の手が叩き付けられたり鉱山の壁を削ったりしている。
八つ当たりというやつだろう。兵真にもよくわからないが、ムツミが兵真に対して恋愛感情を持っていない事を非常に不快に思っている様子だ。
まあ、言い方を変えれば兵真とムツミの恋を応援してくれている、ということにもなるのでそこは兵真としては嬉しいのだが、こう暴れられるとその内自分たちに牙を剥くのではと兵真は少し不安になる。
「……あ、多分、ここが私の目的地」
考え事をしながら歩いていると、フレーシスがぽつりと言った。見れば、その通路の先の場所は薄緑の光を放っているように見える。
どうやらそこが最深部のようだ。道中の分かれ道などはすでに探索済みなので、ここまでの魔物はすべて殲滅したと考えてもいいだろう。
「待てよ、まだそこに魔物がいるかもしれないだろ――!」
一足先に駆け出したフレーシスを追って兵真たちも後に続く。
すると光の放たれるその空間が、かなりの広さを持っていることを確認する。
そして右を見ても左を見ても、視界には薄緑の輝きを放つ不思議な鉱石が壁面から顔を出している。上を見上げれば、巨大なシャンデリアのようにその鉱石がぶら下がっているのも見えた。
光の正体はこれか、と納得して再び視線を前に戻すと、そこには一際美しく輝く鉱石とフレーシスの姿があった。
それを確認してからハッともう一度周囲をくまなく見回す。どこかの陰に魔物が潜んでいるかもしれないと注意深く見るが。
「そう怖がらなくっていいわ。この石は魔を討つ石、そこらの魔物じゃ光の届く場所に近付くこともできないから」
フレーシスの言葉を聞いて兵真たちは安堵する。しかし。
「そう。そしてそれはつまりあの方に容易く致命傷を与える凶器でもある」




