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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第十三話 ディザーム

 カインの言葉通りに倉庫に避難していた村人たちは皆生きていた。中には怪我をした者も少なくなかったが、命に別状があるほどではない。

 ムツミの治癒魔法でその傷の治療をすると皆一様に兵真たちに感謝を述べた。

 カインにも礼をしたいと言われたが既に去ってしまった事を告げると落胆してしまった。こちらに関してはいずれまた兵真たちが会うことになるはずなのでその時礼を言うと約束しておいた。

 感謝の気持ちとして一晩泊めて貰い、村の人々から心からのもてなしを受けた兵真たちは次の朝、すぐに次の町へと歩を進めた。今はその道中の森林地帯である。


「ジメジメしててヤなとこねぇ、おまけに薄暗くて不気味だし」

「確かに、早いとこ抜けたい気分になるっすね。リン、今ってどの辺とかわかるか?」


 レイニーの言葉に兵真は頷く。一応人が通ったであろう道には草が殆ど生えていないので道に迷うという事はないのだが、湿気が多い上に頭上を見上げれば視界に入るのはたくさんの木々とその葉。

 村で礼として貰った周辺の地図を広げたリンフレッドに問うと、バッチリだと言いたげに親指を立てて返事をする。


「おう、今はだいたい折り返し、ってとこかな。このまま道に沿って歩けば問題なく町が見えてくるはずだぜ」

「そうね、とびっきり強い魔物とか出てこなければね」

「ムツミ、不安にさせるようなこと言わんでくれよ……」


 ムツミの茶々入れにおいおいと兵真がツッコミを入れる。まあ、ムツミの言葉もわからないわけではなかったが。

 平原なんかの視界の開けた場所なら奇襲の心配は薄いし強敵との遭遇は避けやすいのだが、視界不良の森などではどこから敵が現れても不思議ではない。

 今の所魔物との遭遇自体なく安全に進んでいるが、兵真の経験から言わせて貰えばこういう森の中には計り知れない強さの魔物がいるものなのだ。……経験とは言ってもゲームでの話だが。


「ああ強い魔物で思い出したが、この辺りには確かに出会うと危険な魔物もいるみたいだから、気をつけて行こうぜ」


 マジかよ、と最後方で地図を眺めながら歩くリンフレッドの言葉に振り向く。他の仲間も兵真に合わせてリンフレッドを見た。


「ウォーン……」

「わたしそれ聞いてないんだけど」

「アタシも初耳だわ」

「あれっ、昨日村でやってた歓迎パーティの時に村長さん言ってたから、みんな覚えてると思ってたんだけど」


 そうだっただろうか、とリンフレッドの言葉に皆首を傾げた。そういえばあれよあれよと酒を勧められ流れに任せて飲んでしまって記憶がおぼろげだが、言われてみれば言われていた、かもしれない。


「そんなのちゃんと覚えてるなんてすげーなリン。お前も結構酔ってなかったか?」

「まあ、俺は酔っ払ってもその時の会話とか結構覚えてられるタイプだかんな」

「そんな特技があったのか……。ところでさリン、その危険な魔物って俺達よりも背が高くて茶色っぽい鱗を纏った黄色い目と長い牙が特徴的な二足歩行の恐竜みたいなヤツだったりする?」

「おお、ヘイムもなんだかんだ言ってちゃんと覚えてるんじゃんか。そうそう、ぴったりそれと同じやつだよ」

「……いや、俺は覚えてた訳じゃねーよ」

「うん? どういう……」


 兵真の言葉に疑問を持ちリンフレッドが兵真の顔を見ると何故かリンフレッドの後方、少し上の方に視線が行っていた。

 首を傾げてリンフレッドが振り向くと、すぐ近くの木の陰から兵真たちよりも背が高くて茶色っぽい鱗を纏った黄色い目と長い牙が特徴的な二足歩行の恐竜みたいなヤツがこちらをじっと見ていた。


「ああ、そういう……」


 リンフレッドが冷や汗を流し半笑いでその姿を確認すると、魔物は鋭利な牙の並ぶ大きな口を開けて大地を砕くようなおぞましい咆哮を上げてこちらへと向かってきた。


「リン! 他にアイツの情報は聞いてねぇのか!?」

「あるぞ! アイツの名前はディザーム! 全長は8メートルほどで体重は約2トン! 強靭な顎で何でも噛み砕き強固な鱗で生半可な攻撃は通さないとにかく強い魔物だ! この辺りの森に魔物がほとんど姿を見せないのはコイツから隠れるように生きているためでそのおかげでここを通る人はディザーム以外の魔物に襲われる被害がなく比較的安全に通る事ができ」

「いやアイツの詳細なプロフィールが聞きたいわけじゃねーよ!!! なんでこのタイミングでそんなボケかますんだよ弱点だ弱点! どうすりゃアレ倒せるんだよ!」

「それは誰も倒した事がないからわからねぇだとよ! でも多分首と胴を切り離せば倒せると思うぞ!」

「チクショウそんなん俺だって思うわ!!」


 リンフレッドと兵真がコントを繰り広げている間にディザームは目の前まで迫ってきていた。

 巨体に見合わぬスピードを持つコイツから逃げるのはどのみち無理だったろうし、やるしかないと兵真たちは腹を括る。

 覚悟を決めたと同時、ディザームのアギトが兵真の腹目掛けて迫り来る。

 すれ違うように兵真はそれをかわしてそのままディザームの足へと剣を一閃。堅い鱗で覆われていると言っていたが入り方が良かったのかすんなりと刃は肉を切り裂いていく。


「おぉっ……?」


 もっと堅い感触があるものとばかり思っていた兵真は思わず間抜けな声が漏れてしまう。困惑して一瞬立ち止まったが悲痛に叫ぶディザームの声ですぐにその場を離れる。間一髪、兵真のいた位置に巨木のような尻尾が叩き付けられた。

 振り抜かれた直後、ナナフサがその尻尾へ飛び乗り、剣を突き刺した。痛みに暴れまわるディザームをものともせず刀身をすべて埋め込むと右へ左へ抉るように剣を動かし、尻尾を切断する。

 突然の自身の重量の変化についていけなかったのかディザームは転倒し、大地にその身を横たえてもがいている。

 無防備になったディザームの腹にムツミが魔法で作り出した光の槍を連射し、頭部にリンフレッドの拳が幾度も叩き込まれる。

 死んでなるものかとディザームも鼓膜が張り裂けんばかりの咆哮を何度も繰り返し、振り払おうとしたが徐々にそれも弱くなっていき、やがて完全に動きを止める。

 危険だ、と称されていた魔物は、兵真たちに一つの傷をつける事なく息絶えていた。


「……聞いてたより、だいぶあっけなかったな」

「ああ……」


 危険と聞いて四天王クラスの強さがあるのではと兵真は危惧していたが、なんてことはなかった。

 他の皆も同じような考えを持っていたのか釈然としない表情をしている。


「もしかして、危険ってのは何も戦う力のない一般人からの視点の話で、普通に戦える奴らからしたら大したことないとかだったのか?」

「いやヘイム、それはない。かなり力のある旅人でも何人も犠牲になってるって聞いたからな」


 ではなぜこうもあっさりと倒せたのだろうか。手負いだったのかとも兵真は考えたが、傷を負っていたようにも見えなかった。


「もしかして、アタシたちがすごく強くなってるとかかしらね」

「いやいやレイニーさん、そんなまさか……」


 レイニーの言葉に首を振りかけた兵真だったが、いや待てよと止まった。

 自分達の強くなれるだろうきっかけといえばせいぜいムカデや鎧熊を倒した経験くらいだったはずだ。

 と兵真思ったが、それはそれは勝利したものだけだ。敗北であっても経験は経験であるとすれば。


「……そうか、四天王との戦いか!」


 兵真は気付く。惨敗したとはいってもあれほどの強者との戦いがなんの経験にもならないとは言い難い。

 知らず知らずの内に兵真たちは四天王との戦いで多くを学び多くの成長をしていたのかもしれない。兵真をこの世界に連れて来た男がさらに成長を促すような力を与えてくれていたと言うのもあるのでなおさらだろう。

 その考えを話すと仲間たちはなるほど、と頷きを返した。


「なるほどな。そういやあれ以来拳の威力が上がったような気がしてたんだよ」

「わたしも、治癒魔法の傷の治りが良くなってたような、気がする」

「アタシはまだあんまり活躍できてないけど、二人がそう言うならそうなのかも知れないわね」

「ウォン!」


 どうやら、皆も口には出さなかったが自分達の力の向上を感じていたようだ。兵真もなんとなく剣の腕が上がっていたような気がしたのだが、それも気のせいではないと分かって喜んだ。


「つまり、あいつらに負けはしたけど何も得るものがなかったわけじゃあ無いって事だ。……ひょっとしたら、次四天王の奴らと戦う時には余裕で勝てるかもしれないな!」

「おいおいヘイム、油断すんのはよくないぜ?」

「わかってるって。まあ、これからもいろいろな敵と戦って経験を積めばいずれ四天王だって怖くなくなるのは事実だし、これからも頑張っていこうぜ!」

「おう!」


 戦いを重ねればいつか四天王にも届く。そう理解した兵真は希望を見出した。

 ようは経験値を稼いでレベルを上げましょうという話だ、兵真はそういうのが大好きだったのでとにかくやる気が上がる。

 そうしてディザームを打ち倒した一行は次なる町を目指し、再び歩き始める。

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