第十一話 襲撃される村②
村を襲った魔物は、一匹だけではない。
その言葉に兵真はゾッとする。寝転んでいたリンフレッドもすぐに飛び起き、ナナフサと共に兵真たちのもとへ戻ってくる。
直後、木の茂みや民家の陰から、10はいるだろう数の鎧熊が次々と姿を見せた。
「い、一体相手すんのに油断すりゃ死にかねないレベルだったってのに、これは、ちょっと……」
「ちょっとどころかとんでもなくヤバイんじゃねぇかこれ、どうするよリン?」
「逃げるしかないよな。この間のグランハンドほどの相手じゃねえし、逃げるくらいなら簡単に……」
「うーん、逃げるのも駄目みたいね」
レイニーの言葉に振り返ると、前方に見えるのと同数の鎧熊がこちらへ向かってくるのが見えた。
「……囲まれちまった訳か。レイニーさん、ブラストマジックでこいつらまとめてドカーンとかできたりしません?」
「できれば良かったんだけどねぇ。前か後ろかどっちか片方なら打てるんだけどそれでも打ち漏らしは出るだろうし、仕留めきれるかも自信は持てないかな。ごめんねヘイムちゃん」
「駄目なら仕方ないっすよ。何か別の方法を……」
別の方法とは言ったが兵真には何も思いつかない。ないこともないが強行突破はそう呼べるものではないだろう。犠牲を出さないどころか全滅の可能性さえある。
しかし他に思いつく物は何も無い。仲間たちも同じなのかただ黙ってじりじりと迫ってくる鎧熊を睨むだけだ。
くそ、何が勇者だ。行く先々で死のピンチの連続。こんなのちっとも勇者御一行の旅じゃねぇ。兵真が己への理不尽に悪態を吐き始めると、鎧熊がそれに呼応するかのように走り出してきた。
もうどうする事もできない。兵真が覚悟を決めて目を閉じようとする、と、その時。
「……助太刀する!」
突如、どこからともなく黒色がかった紫の鎧で全身を包んだ男が現れ、鎧熊から兵真たちを守るように立った。
左手に白銀に輝く長剣を持ち、右手に同じく白銀の盾を持った男は、迫り来る鎧熊を剣の一振りで両断していく。
いきなり現れ兵真たちの目の前に迫っていた危機を払いのけていく男にぽかんとしていると、いつの間にか周囲の鎧熊は一匹残らず殲滅されていた。
「……危ない所だったな。怪我はないか?」
「え、あ、ああ、はい。無事、です」
剣を収めて兵真に手を差し伸べ、頭部を覆う兜の仮面のような部分を手で押し上げると男の凛々しい顔立ちと赤い瞳が姿を見せた。
兵真たちの無事を確認すると男は満足そうに少しだけ笑い、すぐに険しい顔に戻った。
「無事か。ならば良い。奴らはこのあたりの人間では太刀打ちできるような相手ではなかったからな。君達が強くて良かった」
「え? つ、強いかな俺たち……ま、まあ旅してるんでちょっとは強いかもしれないっすけど」
かなり苦戦はしたものの、男の話ではこの近辺に出るような魔物とは一線を画す強さだったのだとか。
たとえ一匹だけであろうと倒せた事自体が誇っていい。そう賞賛され兵真は素直に褒められ、ちょっと照れながらも男の言葉を受け止める。
「……この先の倉庫に村の者たちは避難させてあるのだが、私は急ぐ身でな。襲われている人々を見て我慢できず、やるべき事を放り出してしまった。すまないが、彼らに窮地は脱したと告げてきて欲しい」
そう言って兵真に頼み込むと男は仮面を下げ、足早に村から去ろうとする。
「ま、待ってくれ! せっかく助けてくれたんだし名前くらい教えてくれよ! 俺は尖崎兵真って言うんだけど!」
助けてくれた相手の名も知らないというのは兵真には我慢ならない。こちらから名乗れば向こうも返さざるを得ないだろうと自らの名を名乗った。
すると男はやれやれと首を振って口を開く。
「名乗られては、返さぬわけにもいかないな。……カインだ。カイン・ロイネス・ガイスト。一応、騎士だな」
名乗り、カインは今度こそと兵真たちから離れていった。
「ありがとな、カイン! いつか絶対俺達が魔王を倒して、こんな風に魔物に苦しめられる人がいない平和な世界にしてみせるからな!」




