第十話 襲撃される村
翌日、ナナフサとリンフレッドが目を覚ましたのを確認した兵真たちは、すぐに次の町へと旅立った。
グランハンドの攻撃で町のほとんどの機能は停止しており、ある程度無事だった宿屋も負傷者を運び込んで兵真たちは野宿となってしまっていた。
せめて武器の新調くらいは、と思っていたのだが、無事だった鍛冶師たちは皆作り上げた剣を持って散り散りに逃げていってしまい、それすらも不可能な状況だった。
鍛冶の町だというのに肝心の鍛冶師がいなくてはもうここにとどまる理由もないな、と兵真は判断し、現在視界の開けた大地を移動している。
「グランハンド……手も足も出なかったな……」
「ゥゥーン……」
グランハンドに一撃で昏倒させられた二人はムツミによって外傷は治療されたが、大分落ち込んでいる様子だった。
このまま戦意を喪失してパーティから抜けてしまうのではと兵真は危惧し始めた、のだが。
「次会った時はもっと強くなって見返してやろうな、ナナフサ!」
「ウォン!!」
兵真の心配をよそにリンフレッドもナナフサもすぐに気を取り直し、リベンジへと燃えていた。
「あら、強いのねあの子たち。アタシならあんなに強い子と戦ったら心が折れちゃいそうだけどなー」
「……ってことはレイニーさん、もう帰りたかったりします?」
「ああそうじゃあないのよ、あのくらいの強さの魔法使いだったら、って話。まあそんな子がいてもこの中ではアタシが年上みたいだし、おねーさんみんなの為に頑張っちゃうけどね」
レイニーの言葉に兵真は不安を覚えたが、すぐにそれは否定された。
レッドレインというあだ名の由来を聞いた時はとにかく危険な人物なのではと思っていたが、もしかしたら本当はとてもしっかりした人なのかもしれない。
「わたしだったら、逃げたくなるかな。自分と同じ土俵で戦うヤツがあんな化け物みたいなのだったら、恐ろしくて戦うなんて考えもしないと思う」
「うん、まあグランハンドの時も逃げてたもんね、ムツミ」
「あれは……その、みんなが怪我したら治癒魔法使わないとだし、そのわたしが動けなくなって魔法使えなくなってたらまずいし……次からは、ちゃんと戦うから」
「うん。今度からはあんまり離れすぎないようにね」
本来ならムツミの行動はもっと叱責されてもいいような気がするのだが、兵真はムツミの行いを咎めたりはしなかった。
ムツミの言葉に一理あると考えたのもそうだが、やはり初恋の相手に似ているからというのが大きかった。
まあ本人に反省の色がなければそれでは問題があるのだが、ムツミの言葉は申し訳ないと思っているようだったので兵真は不問にした。兵真はムツミにだだ甘だった。
「さてヘイム。ここから次の町までは実は結構かなりの距離があるみたいなんだ。なんでこの近くの村によってそこで一旦休もうと思ってる」
「ああ、わかった」
リンフレッドの提案に兵真は頷く。
そうして一行は進んで行き、特に何事もなく村が見えてきた。
「ラッキーだったなリン。あの辺も本当は魔物とかがいっぱい出るんだろ?」
「ああ。……でもそこまでラッキーでもなかったかもな。なんか村の様子がおかしい」
リンフレッドの言葉に訝しげに村の方を見ると、人が走り回っているのが見える。
何かの動物と一緒に走っているようだが何事だろうかと見ていると、動物が人に飛び掛った。
「!!! やばいぞヘイム、あの村魔物に襲われてる!」
リンフレッドの言葉を聞き、兵真たちは走り出した。このままでは魔物に村が滅ぼされてしまう。急がなくては!
兵真たちが村まで辿り着くと、村の中は無残な状態だった。魔物の牙が民家の壁を抉り、そこらじゅうに血の痕が残されている。
しかし人間の死体は見つからない。あまり大きな血溜まりもないので骨も残らず食い尽くされたという事ではないだろう。
遠くで見た人間もまだ死んでしまってはいないようで、血痕は残っているが姿はない。いつの間にか魔物から逃げ出せていたのだろうか。
「た、助けてくれ!」
兵真が死人が出ていない様子に安堵すると同時に声が聞こえた。声の方向を見れば、先程魔物に襲われていた男だ腕を噛み付かれたのかダラダラと血が流れている。
そして駆け寄ってくる彼のすぐ後ろに鎧を纏った、男より一回りも大きな熊のような魔物、鎧熊が追従しているのも見えた。
「ナナフサ、リン! やるぞ!」
兵真は叫んで男めがけて振り上げられた鎧熊の腕へと剣を抜き放ち切り上げる。刃が腕に食い込み、切断には至らないものの男への攻撃は食い止めた。
レイニーが男を受け止めてムツミが傷の治療に当たるのを横目で確認し、力任せに剣を押し込む。
先程以上に深く刃は肉を裂くが、やはり腕を断つ事はできなかった。しかし鎧熊を押し返す事に成功する。
押し返された鎧熊がよろめいたのに合わせナナフサが首へと一撃を叩き込む。半ばまで食い込んだものの、絶命には至らぬ様子でナナフサの剣を振り払いさらに後退する。
「よしリン! やっちまえッ!!」
鎧熊の背後には既にリンフレッドが待ち構えていた。その気配を感じ取ったのか鎧熊が振り返るがもはや遅い。リンフレッド渾身の裏拳が頭部へと直撃する。
鋼の如く硬質な拳が叩き込まれ鎧熊の頭部にめり込む。頭蓋を陥没させるには至った、が。
「くっ、まだ仕留めきれてねぇっ!」
リンフレッドが飛び退くと同時に鎧熊の豪腕が一瞬前までリンフレッドのいた位置を切り裂く。
しかし、運悪くリンフレッドの飛んだ先には血溜まりがあり、着地の際に滑って転倒してしまい、それを見た鎧熊がリンフレッドへと牙を剥き出しにして襲い掛かる。
このままではリンが危ない! そう思い兵真とナナフサは走るが、距離が遠すぎる。
届かないとは。兵真がそう諦めかけた時、背後から何かが飛んでいく。それは、鎧熊の頭に突き刺さる。
光の槍だ。ムツミの攻撃魔法であるそれがリンフレッドの攻撃で陥没した部分を貫いたのだ。
鎧熊は動きを止めて一度だけビクリと大きく震え、そのまま横に倒れて動かなくなった。
「……つ、次からはちゃんとやるって言ったしね。間に合った?」
兵真が振り向くと、ムツミは肩で息をして兵真に問うた。どうやら男の治療を一時中断してリンフレッドの援護に回ったようだ。
「……最ッ高のタイミングだったぜー! ごめんな、俺のドジでみんなヒヤヒヤさせちまって」
リンフレッドは死の窮地から脱し、緊張が解けたのかその場で大の字になって寝転ぶ。冷や汗まみれのその顔をナナフサはペロペロ舐め始めた。
「マジで最高だったよムツミ。超カッコよかった。後でめっちゃ撫でて褒めたりしようか」
「そういう気持ち悪いのはいいから」
「はい」
軽い冗談つもりで兵真が言うとムツミはまた治療に戻ってしまった。
ひとまず村で暴れていたらしき魔物は倒したので一安心というムードになり始めた頃、レイニーに背中を支えられていた男が呻きながら口を開いた。
「ま、待て……! 村に出た、ヤツは、一匹だけじゃ、ない……!」




