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8 邂逅

「………し、しぬ………」


日が陰り、光が遮断されていることは幸いだ。森の中でたまらず木に寄りかかり、腰を下す。はぁ、と息を吐けば視界はクラクラと回った。

そもそも、王都までの距離は約1週間もある。その間、街や村はあるものの、騎士団がうろついているとなると油断もできない。最小限の食糧と水だけを得ても、未だ緊張状態のままで、歩き続けるには負担が大きかった。


常に万が一を考え、最善を選ぶ。


騎士団の狙いが分からぬ以上、身の上が知られれば危険だった。というのも、村といっても住民登録は行われており、データは全て王都が保管している。彼等が一人ずつ顔を見ている…とは思えないが、それこそ、万が一、がある。用心深すぎるだろうか、とは思うが、これは普通の事だ。

村人は一人残らず殺されていた。子供も、大人も。

(的確に急所を貫かれている者がほとんどだった)

つまり、彼らは目的があって、村人を殺して回ったのだ。

また吐き気が催してきて、ぐ、と堪える。


(ああでも、やばい…)

理由は分かっている。疲労だ。

ここまでずっと歩いてきた。休息だって必要最低限しか取らなかった。そもそも、僕はまだ子供だ。吐き出した息が熱っぽい気がするのは、おそらく気のせいではないだろう。


――ガサッ、と茂みが揺れた。


思わず身を固くする。人を避けるあまり、街道を避けていた。人の手入れがされていない道には獣も出るし、時折だが、魔物も出ることもある。握りしめた剣の柄を握るが、碌に力も入らなくて絶望した。僕は揺らぐ瞳を何度も瞬かせて、歯噛みする。

(こんなところで、)

死にたくない、死にたくない。思うのに、否応なく、目の前は真っ暗に染まっていく。


だれか、たすけて。


声にならない悲鳴に惹かれるように手を伸ばした。


……

………


香ばしい臭いが鼻孔を擽った。

これは、何だっけ。…ああ、そうだ、お母さんがよく作ってくれたシチューの香りだ。お母さんが作ってくれるシチューはミルクの甘みが強くて、香りを嗅ぐだけで胸がいっぱいになって、腹は鳴った。大好きなシチューだ。


ゆっくりと目を開いた。


見知らぬ天井が広がっている。そろりと腕を動かしてみればちゃんと動いて、擦り傷が多かった腕には簡単に包帯がされていた。何度か見詰めてから、横に視線を滑らせる。やはり、見たことがない部屋。

(………どこだ!!?)

そこで、思考がはっきりとしてきた。肌が泡立つような感覚に、掛布団を投げ出して飛び起きる。胸元に手を当てればペンダントは確かにあって、ほっとした。だが、持っていた剣もなければ、着ているものだって新しい服だ。揚句に手当もばっちりされている。混乱して、とりあえず一つ息を吐いてみた。


――と、勢いよくドアが開いた。


「ヒッ」

思わず情けない短い悲鳴が出たけれど、僕は悪くないと思う。扉の先に立っていたのは、

骨だった。

骨、ガイコツ?とりあえず骨だけで形成された…魔物だ。カタカタと音を鳴らして、骨自体も驚いたみたいで立ち止まってしまった。何だこの状況、あれ、もしかして、と僕は息を詰まらせる。

これから料理される?

先程の良い香りは、紛れもなく現実だった。というか、骨が持っているお皿から匂っていた。

先に、我に返ったのは骨の方だ。


「…まぁまぁ!!!目が覚めたのね!!!」


「………え?」

言葉が通じた?いやそもそも言葉があるのか、…というかどこから言えばいいのか、口調にツッコミを入れるべきなのか。結局何も言えないで身を強張らせている僕に遠慮なく近づいてくる骨は近くの台に料理を置いて、僕に笑いかけた。怖い。骨がカタカタ言っているだけなんだけど。

「良かったわぁ、大分疲労していたみたいだし。ああ、熱は下がったみたいね!」

「……ッ!!」

骨がモロに額に当たる衝撃に最早息が止まりそうになる。というか熱って通じるものなの、あんた骨じゃん。恐怖で顔色が失せていくだろう僕の表情を何と間違えたのか、骨は「ごめんなさいね!」と叫んで一歩後ろに引いた。ああでも距離を取ってくれるのはありがたいけれども。

「自己紹介もしないで驚いてしまったわよね!アタシ、スカルっていうのよ。皆スカルって呼んでくれるから、そう呼んでくださると嬉しいわ」

「そのまんまかよ!!!!」

骨!!!!!

とうとう声に出して叫べば、「あら、喋れたのね、良かったわ」とこれまたおかしな返答が返ってくる。けど、急に叫んだものだからクラクラして、軽く咳き込んだ。優しく背中を叩いてくれたけれど、骨の感触がリアルに感じ取れて背筋が冷えた。

「お腹もすいているでしょう、召し上がって」

「いや、…えっと、その………あの………」

狼狽えて、とりあえず、どこから何を言えばいいのか迷っている、と。


「スカルーーーー!!!君ってやつは!!!!魔王様が目覚めたら知らせろと言ったろー!!!」


今度は耳を突き抜けるような甲高い声が聞こえてきた。僕は、うぅ、と眉を寄せ―――今、何ていった?

聞きなれないような、だが、よく聞いたことがある単語。言葉。






魔王様?

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