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7 歴史

重苦しい体を持ち上げて、朝露を目に捉えた。短く息を吐いて空を見上げれば、既に雨は上がっていた。

ふらりと立ち上がり、軋む体に眉を寄せる。

「………街は、騎士団が見張っている筈…」

これから、どうすればいいのか。

当てもない、見当もつかない。ただ―――確かめないといけないことがある。


どうして、騎士団が村を襲ったのか?


「…シロ」

唇を噛みしめる。

風の噂で耳にした。シロは、才能を生かし見る見るうちに昇給、現在では騎士団団長補佐のような立ち位置にいるという。さすがだ、と当時は思ったものだ。だが、今はそれが疑念に変わっている。シロが、騎士団に指示をしたのか?このことを止めなかったのか?シロも、来ていたのか?

僕は、遅すぎた。

「…王都に行こう」

危険だとは分かっている。王都こそ、騎士団の本拠地である。もし、彼らが村人の抹殺を考えていたとするならば、生き残りである自分がのこのこと出て行けば、そこまで考えて身がすくむ。それでも、僕は行かないといけないのだ。真実を―――知らないといけないのだ。


それが、生き残った僕の使命だと思うから。


……

………

…………


西の空が燃えていた。ふと立ち止まって夕日に染め上がった空を眺めれば、少し前を歩いていた上官が振り返る。

「どうした」

「いえ、何でもございません」

騎士団団長、名はグレン。15年前、英雄が世界を救った直後、騎士団に入り、騎士団団長まで上り詰めた男。切れ目の赤い瞳は何事にも屈しない鋭さを持ち、鎧の下には鍛え上げられた肉体がある。だが、その瞳を見る度、何て恐ろしい色を宿すのだろうと思うことがある。

赤目は、全てを憎むかのように冷徹だ。

「では行くぞ、シロ」

「…はっ」


短く応え、少年はもう一度、眩しく夕日を眺める。

そういえば、今日はやけに城内が騒がしい。何かあったのだろうか。思慮深い瞳をそっと伏せて、思わず息を吐いた。自分を落ち着かせる癖のようなものだ。かつて、幼馴染であり、親友も同じことをよくやっていた。

一度、息を吐く。億劫とした気持ちを吐き出す。

「この地に魔王が現れた―――これは、異例だ。我々騎士団は再度、魔王を倒すべく身を固めなければならぬ。シロ、貴様も承知しているように。」

「グレン騎士団長、異例…とは」

グレンは前を行きながら話を続ける。二人分の足音が廊下に響き渡っていた。

「そもそも、魔王とは闇の権化だ。我々人間は、古くから魔王と、闇と戦い続けていた。」

「存じ上げております。ですが、魔王は勇者によって倒されたのでは…?」

「…魔王は、何度も存在している。その都度、勇者によって滅ぼされる。我々は歴史を繰り返し続けているのだ」

シロは小さく、気付かれない程度に息を呑んだ。

確かに、自分達は魔王が勇者に滅ぼされ、平和になった、という部分しか知らなかった。だが、繰り返されている、とは。

つまり、魔王は繰り返し産まれ、勇者に何度も滅ぼされている―――歴史はそうつくられてきている―――と。

「この城の書庫に残っている記録には事実として記載されている。異例、というのは、魔王が生まれるタイミングというのが、百年単位を帯びているからだ」

「なるほど、故に………15年しか経っていないから…」

フン、とグレンは鼻を鳴らし、扉の前で立ち止まった。荘厳な扉だ。控える騎士が甲冑を鳴らす。

王の間。

王座。

「そういうことだ。…だが、異例だろうが何だろうが。


我々が魔王を殺す―――その事実は変わりはせぬ」


堂々とした物言いに。含まれた、有り触れんばかりの憎しみを宿す色に。ゴクリ、とシロは唾を飲みこんだ。


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