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6 慟哭

お父さんは倉庫の中で倒れていた。

沢山の武器が置かれていたのに、そこにはほぼ無くなっていて、もしかしたら騎士団が持って行ったのかもしれない。頭の片隅でぼうっと考えて、お父さんの傍に片膝をついた。そっと口元に手をやってみても、何も感じない。ああ息、してないんだと思って、ぎこちなく背中辺りを見た。

一振りの剣がお父さんを貫いていた。

(…まだ、新しい)

時間はそう経っていない。考えなくても分かる、コレをやったのは、ほぼ間違いなく騎士団だ。だけど、それが分かってどうするというのだ。僕は自嘲気味に笑った。ここに来るまでに沢山の村人を見た。その誰もが、声を掛けても返ってくるものはなかった。最初に向かった自分の家には、お母さんが血を流して倒れていて、今日の夕飯の為だったのだろう野菜と、それからブドウ酒だけがごとりと床に転がっていた。

もしかしたら、騎士団が戻ってくるかもしれない可能性があった。お父さんの言葉を思い出す。


―お前はお前が信じた道を行きなさい


僕の信じた道。僕が信じる道。僕は奇跡的に生き残った。僕だけが、この村の生き残りだ。

ならば、僕は生きなければならない。

「…お父さん、これ、借ります」

ぐ、と背に刺さる剣を引き抜く。ずるりと体から引き抜く感覚にこみ上げてくる吐き気があったが、押し殺した。武器は、必要だ。何はともあれ、身を守る術は必要だ。この五年間、決して怠けていたわけではない。もう、守られる10歳のままではいられないのだから。

倉庫を出れば雨が降り出していた。早く動かなければ。火が水にうたれて消えていく。この火は魔術の類だったようだ。どうりで、他所に燃え移らないわけだ。

魔術は自然を操る力のこと。身に流れる魔力と呼ばれるエネルギーが、変換されることで魔術となる。恐らく、使い手に炎の魔術使が居たのだ。コホコホと咳き込み、倉庫を振り返る。

ピクリとも動かないかつての勇者。

15年間を育ててくれた人。


唇を噛みしめて村を離れる。土砂降りの雨になってきて、大分村を離れてから、洞穴に身を寄せた。そういえば、ここは昔、シロと隠れて作った秘密基地だった。子供ながらの知恵と体力を振り絞って、喧嘩をしたときとか、嫌なことがあったとき。一人になりたいときに、昔は身を寄せていた。懐かしい、あの頃は。

とても、幸せで。

「…あ」

楽しかった。家族四人で、村人たちと、苛められることも少なくはなかったけれど、誰もが笑っていた。シロと一緒に遊んで、おかえり、って声が僕らを迎える。

些細な日々。

「あ、…あぁああああ」

どこで、間違えたのだろう。


「あああああああああああ、ああああああああああっ…!!!」


押し殺すことができなかった嗚咽が、泣き声が、次から次へと唸りになって、叫びになって振り絞られる。涙が止まらない、痛い、胸が軋んで苦しい。

その泣き声だって、雨音が何もかも掻き消してしまった。僕は胸から下げたペンダントと、お父さんの血が拭いきれない剣を抱えて、泣き疲れて眠りにつくまで涙を流し続けていた。


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