表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

4 ペンダント②

街は村と違い、毎日祭りと疑いそうになるほどに賑やかだ。人も多く出店もほぼ毎日出ている。村とは違い、自然の心地は感じにくいけれど、街のにぎやかな雰囲気が僕は好きだ。

15年前、魔王が滅ぼされ、配下となっていた魔物は各々に散らばり、すっかり息を潜めてしまった。だが、完全に居なくなったわけではないようで、未だ力を持った魔物は出没しており、対抗すべく、騎士団は15年経った今も力をつけつづけている。騎士団は守るために存在し、騎士団は国の剣である。勇者の子として産まれたシロも、騎士団に憧れて村を出た。

僕は。

5年が経った今でも、人を傷つけることも、動物を傷つけることさえ苦手なままだ。このままではいけないとは分かっているが、全身が拒絶しているかのように体がたじろいでしまう。僕には、命を奪うことは出来ない。だから、僕はシロを追うように騎士団になる夢を抱くことはなかった。シロのことは尊敬している。シロは凄い。でも、だからといって同じ道を進むことは―――違う、と、僕は思う。

今は、僕が歩いていけるような道を詮索している途中だ。


お母さんは丁度出店で買い物をしていて、無事に見つかってほっとする。ブドウ酒のことを伝えれば、「あの人は子供を足に使って…」と呆れたように眉を寄せていた。ああこれは帰ったら、お父さん説教パターンだ、と小さく笑う。お母さんは僕にお礼を述べてから、お金を差し出してきた。

戸惑う僕にお母さんが告げる。

「これで何か買っておいで。夕飯までには帰るのよ」

「…!うん!」

意図を教えて貰って、僕は頂いたお金を握りしめて出店の間を走る。途中、振り返ればお母さんはまだ僕を見ていて、僕は力強く掌を振った。


出店で買ったフィッシュバーガーを手に、ふらふらと潮の香りを目指す。

街からは船が出ている。巨大な客船と、漁師の船だ。初めて海を見た時はどこまでも広がる青に驚きと、感嘆を飲みこまずには居られなかった。それから、僕は海が好きになった。街に出ればほぼ毎回、海に訪れるようにしている。海、とはいっても実際足を入れれるわけではなくて、海にほど近い場所から押し寄せては繰り返す波を眺めるだけだ。海の水を触ったこともない。舐めるとしょっぱい、と聞いたことはあるのだが、本当だろうか。涙のようにしょっぱいのか。もっと塩辛いものなのか。探求心が疼くけれど、僕はまだちっぽけで小さな子供でしかない。


適当な場所で腰をおろし、ハンバーガーに食らいつく。口の中に揚げられた魚の味がじゅわりと広がり、たまらずもう一口。

静かだった。

今日は客船も漁船も出払っているようだ。ただ、広がる海だけが僕の目の前にあった。

ふとペンダントに目を落とす。光の反射を受けて胸元で輝くペンダントは、傷こそついているものの、あまり汚れもないようで、あの埃っぽい倉庫の中でよくも輝きを保っていられると驚く。だが、もしかしたらお父さんが大事にしていたのかもしれない。

これは、何なのだろう。

お父さんは僕のものだと言っていた。ならば、僕のものなのだろう。


「……ご馳走様でした」


食べ終えてゴミを丸め、近くのゴミ箱に捨てる。チラリと海を振り返った。相変わらず静けさを保ったまま、波の音が聞こえる。

この海の向こうは、一体何があるのだろう。


「帰らないと」


もしかしたら、海の向こうに、僕が探している、僕の道とやらが―――あるのかもしれないと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ