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2 眩かった日々

夕日が眩しく世界を包む下で、泣き声が響いている。わぁわぁと、子供がうるさいぐらいの声で泣きじゃくっている。近くの子供たちは困ったような表情を浮かべながらも、手を出そうとしなかった。すると、バタバタと駆け足で駆け寄ってくる音が聞こえてきて、同時に「こら!!!」と叫び声が耳を突く。

「お前ら!!!苛めんな!!!」

「うっわ、シロだ!!」

「逃げろ!!!」

子供たちが声に体を竦ませて四方へ逃げていく。それを追うこともせずに、シロと呼ばれた少年は肩を竦めた。

それから、くるりと嗚咽を漏らす方へ、…すなわち、僕に近寄って手を差し伸べた。マメが多い指が目の前に出される。

「ほら、クロ。」

青い瞳が優しく、射抜くように僕を見ていた。


引っ張ってもらうようにして家に帰れば、シチューの良い匂いがした。僕の体は素直なもので、ぎゅるりと音を上げる。鼻孔を擽る香りは腹ペコの体に響いた。

シロが振り返って、小さく笑う。

「早く飯食おーぜ」


シロは僕よりも二個上の、幼馴染だ。それから、親友でもあり、共に住ませて貰っている…何ていうのだろう、同居人?

僕は産まれて間もない時に捨てられていたところを、シロのお父さんに拾われた。物心がついた時には、いつも僕らは一緒だった。

シロは文武両道頭も良いし腕も立つ。同じぐらいの子供の中でもひときわ目立つ子供だった。

反面、僕といえば。そこそこの魔力はあるけれど、腕はシロにも及ばないし、頭だって弱い。シロに比べて筋肉もつきにくいみたいで貧弱で、見ての通り気弱だ。だからか、一人でいると、よく村の子供が僕に手をあげてくる。村の子供たちは妬ましいのだ。シロの逸材が、羨ましくて、妬ましい。だからシロに誰よりも近い弱い僕を狙う。僕は何もできない。だって僕は弱いから。

「クロはもう少し、自分の身を守ろうよ」

シロはよく、僕の泣き声で駆け付けてくれてはそう言った。

「お前は決して弱くない」

嬉しいことを言ってくれると思う。だけど、駄目なんだ。僕は誰かを傷つけるのが苦手だった。ちょっとでも血を見たり、傷がついたり、どうしても苦手だった。僕は、所謂争いごとに向かない。


家に着いてドアを開ければ、新聞を読んでいたお父さんと、やっぱり、シチューを作っていたお母さんが目に入った。「ただいま」と2人で声を揃えれば、お父さんが顔を上げる。少し白髪が濃くなってきたお父さんは優しい笑顔で迎えてくれたし、シロと同じ産まれつきの白髪なお母さんは「おかえりなさい」と暖かく返してくれた。

お父さんは、かつて勇者と呼ばれる存在だった。

15年前、世界は魔王によって闇に包まれていた。しかし、闇が濃ければ光も濃く。その言い伝え通り、勇者がこの地に現れ、光を与え、闇を打ち破った。その勇者というのがお父さんだ。今はこうして村深くに隠居しており、全くそんなそぶりも見せないけれど。

手を洗ってきて、席について美味しいシチューを食べる。家族団欒のひと時の最中、シロが口を開いた。


「父さん、俺、騎士団に行くよ。騎士になる。」


それは、僕が10歳、シロが12歳のときだった。

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