(3)
「そもそも、何でお前は鬼を退治しに来た」
「退治しろと仰せつかったもので」
「誰に?」
「島の人達」
「何故?」
「鬼は悪い奴らだから」
「どう悪い?」
「俺達島民を苦しめたり困らせたりしているから」
「どんな風に?」
「作物を毟り取ったり、人を喰らったり、まあ、いろいろと」
「なるほど」
鬼は一旦そこでお茶を口に含んだ。合わせて俺も茶を喉に流し込む。
しかし何度飲んでもうめえ。
「いいだろ。このお茶」
「はい。うますぎます」
「過ぎるか」
「過ぎてますね」
「俺は悪い奴に見えるか?」
「え……?」
唐突すぎるだろ。今茶の話だったじゃねえか。
「正直に。感覚的にでもいい」
そう言われたらこうなる。
「見えないっす」
「そりゃ何より」
とてもじゃないが、目の前の存在が害悪とは思えない。
「じゃあ何で鬼が悪い奴だって思ってた?」
「悪い奴らだって教えられたから」
「作物を奪ったり、人を喰ったりするのは悪いよな」
「悪すぎます」
「確かにすぎる。ところで、お前は鬼がそんな事をしている所を実際に見た事はあるか?」
――ねえな。
「ないって顔してるな」
「ないっすね」
そうだ。ない。実際に鬼の悪影響を己の身で体感した事はないし、見た事もない。鬼に会ったのも今初めてだし。
――あれ?
何か、おかしいぞ。
「今の所、退治する理由はあるか?」
「……ないっすね」
ない。だって鬼の悪事を俺は立証も証明も出来ない。ただ伝聞的に”鬼は悪い奴”という刷り込み教育だけで鬼は退治しないといけないものだと思ってきた。ただそれだけ。
退治する理由は何か。それは、鬼は退治しなければいけないものだと教えられてきたからだ。それ以上もそれ以下もない。
いや、だが待て。
「……俺だけじゃないっすよね。ここに来たの」