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俺の日常は何かがおかしい  作者: 一条 夜月
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第2話「馬鹿は馬鹿でもやればできる馬鹿なんだが結局何もしないから馬鹿のまま」


南谷城高等学校には3つ図書館がある。

一つは創業当時から改修工事が何度も行われつつも昔の面影を残した古き良き第1図書館。

こちらは自習室はなく、本気で本を読みたい人用の図書館だ。

二つ目は我ら文芸部の部室、第二図書室。

旧校舎1階と2階には跨り作られているものの、なぜか”室”でその上第二だけは漢数字で表記されている謎の多い部屋である。

利用者もなぜかいない。

蔵書量は申し分ないのに、利用者が0だったのを知って俺たち文芸部の部室にさせてもらった。

そして、3つ目が最新の図書館、第3図書館だ。

冷暖房完備・蔵書量は3つの中でトップ・検索エンジン有り・自習室や隣には休憩室も隣接してある夢のような図書館である。


校内人気も高く、利用者が多いため机は基本的に相席……のはずが俺の探し人は4人がけのそのテーブルをたった一人で悠々と使っていた。

周りの生徒の様子を見ると怖くて一緒に座れないみたいだ。


……何が怖いんだろう?

とりあえず話しかけてみるか。


「ええと、君がプライド高いツンデレ男子……じゃなく、みおつくしクン?今時間あるかな?」

「……陸奥 文月、か。

僕に何の用だ。僕は見た通り、忙しいんだが」

「あれ?なんで名前知ってるの?」


俺名前言ったっけ?

ないよね?

あれ?


「貴様は一度でも僕に勝ったからな」

「やだなーあんなのマグレだよマグレ。というかここで話したら周りの子に迷惑かかっちゃうからさ、外行こうよ!」

「だから、僕は今勉強中だと」

「その勉強は今しなきゃいけない?何よりも大事?違うよね?

だいたい勉強なんてほどほどにすればいいんだよ、うん。

俺はもう二度としないけどね!

ほら行こう!」


彼の腕を引っ張ろうと手を伸ばす。

その手は彼にパシン、と乾いた音を立てて拒まれた。


「僕に、触れるな」

「……ごめんね?えっと、じゃあ君の勉強が一段落するまでここで待ってていいかな?」


彼の向かいの椅子を引き、そこに座る。

まぁ、初対面の人間にいきなり身体に触られるのは嫌だよな。


「……好きにしろ」

「ありがとう、みおつくしクン。

ちなみにみおつくしってさ、これであってる?」


ここに来るまでに書いておいたメモを彼に見せる。


『澪標』


古典に出てくる言葉で掛詞などによく使われるものだ。

彼はそれを受けとると隣に何事かを書き込む。


あれ?やっぱり間違えてたかな。


「澪標 那岐、だ」


スッと返された紙には丁寧にフルネームを漢字で書いてくれていた。

ツンデレ、という俺の予想はあながち間違いでは無かったらしい。


その場で持ってきていた文庫本を取り出し、読もうと思ったら澪標クン……長いな、那岐でいいや。

那岐はいつの間にか手早く荷物を片付けていた。


「あれ?もういいの?」

「貴様のせいで集中力が切れた」

「あらら、ごめんね?」

「構わない。さっさと用事とやらを聞いて家で勉強する事にする」


ガタンと立ち上がり颯爽と図書館を後にする彼を俺は慌てて追った。

もちろん、メモも忘れずに。


休憩室へ行くとすでに那岐はコーヒーを片手に窓際の席に着席していた。


……にしても、絵になる。


男として少しばかり悔しく思いながらイチゴオーレを購入して俺も彼の前に座る。


「で?話はなんだ」

「イチゴオーレうまし……じゃなく、あのさ、文芸部に入らない?」

「ぶんげいぶ?そんなものがこの学校にはあったのか?書物研究部があるのに?……そもそも、僕は勉強で忙しいから部に入るつもりはない」

「あー、えっと文芸部っていうのはさ、日本文化及び伝統芸能研究部の略でね?あんまり知られてない理由は単純に部員が俺を含め3人しかいないからなんだ。

んで、だめかな?入ってくれない?

このままだとこの部、潰れちゃうんだよね」

「貴様の成績が落ちたのはそのせいか?」


若干軽蔑の色が混じっているのは気のせいだろうか。

気のせいじゃないんだろうなー……。


「あのね、その部のせいっていうか、俺元々こういう人間だから。勉強なんて大っ嫌い。

いつも赤点ギリギリだぜ?」

「なら、入学当初のあの点数は?」

「……死ぬほど嫌だったけど、そうするべき、いやそうしざるを得ない状況だったから」

「……なぜ?貴様ほどなら勉強など苦にもならないんじゃないのか?」

「それ、聞きたいの?どうしても?

それなら部に入ってくれない?」


出来れば他人にはあまり話したくない内容だ。

あまり楽しいものじゃないしな。

そしてこういう言い方をすると相手はだんだん聞きたくなってくるものだし!!


「わかった、そんな姑息な手を使ってでも僕にその部に入ってもらいたいのなら一つ、条件がある」


姑息とか言われた……!

くっそう!!


「うぐぐ、なんだよ、俺が出来る範囲ならなんでも聞くぞ」

「クロスワードパズルで僕と勝負しろ」


……は?


「いや、それ途轍もなくそっちに有利じゃね?」

「そうでもない。貴様、国語だけは点数良いだろう?」

「なぜ知ってる」

「国語教師と仲が良くてな。解答用紙を見せてもらったが……国語に関しては貴様は僕の次点だった」

「え、そうなの?」


まじかよ、国語は1位かなーとか思ってた恥ずかしッ!

あーけど、1問しくったしなー……。

国語は勉強しなくてもそれくらいはとれる。

日々色々手当たり次第本を読んでるおかげだな。

え?他の教科?

……いつも最下位ですけど何か?

いくら国語が良くても他の教科が足引っ張りすぎてもうどうしようもないのが俺の現状ですよ?


「貴様が間違っていた理由は深く考えすぎた。違うか?」

「当たり」

「クロスワードパズルなら単純だから考えすぎることもない語彙力勝負だ。何も問題あるまい?」


問題ありすぎる気がする。

国語以外は俺さっぱりぽんだし?


「えー……まぁいいや。今持ってんの?クロスワードパズル」

「いや、持っていない。

だが国語教師なら持っていたはずだ。それを借りてくるから貴様は決戦場所を考えろ」

「決戦場所て……部室の第二図書室じゃだめ?」

「まぁ、そこでいい。先にそこで待っていろ。国語教師ごと連れて行く」

「ハイハイ」


やだなぁ……なんかものすごく面倒な事に……。

クロスワードパズルって勉強かな?勉強じゃないよね?ギリギリ勉強じゃないよね?


……勉強じゃないことにしとこう、だって勉強だと思ったら一気にやる気なくなっちゃうし。



*****



「ってことで、チキチキ!!第1回!クロスワードパズル大会ー!!!」

「何が『ってことで』なんだよわかるように説明しろ」


おおう…天がお怒りだ……。

いやまあ、部屋に戻ってくるなり叫んだ俺も悪いけど。

とりあえずかくかくしかじかと説明をすると、やっと納得したように頷いて一つ咳払いをした。


「状況はわかった。で?なぜナチュラルに俺らを巻き込もうとするんだてめえ」

「えー俺たち友達でしょ?仲間でしょ?共に危機を乗り越えようぜ!」

「ああ、確かに俺たちは友達だとも。

しかしだな、よく考えろ文月。この部にはお前以上のバカがいる……!」


……あ。


「ん?文月以上のバカ…?まさか天お前…!!」

「ちげぇよ、お前だよ奏多!」

「お、俺は勉強してるし!!」


確かに勉強はしているかもしれない。

しかし事実としては非常に残酷な話だが……俺が底辺あたりを彷徨っているなら奏多はそう、底辺そのものだったりする。


「認めろよ、奏多」

「嫌だ!!認めてたまるか!!!」

「大丈夫だよ奏多、たとえ頭が悪くても奏多には他に良いところがたくさんあるから。ね?元気出して?」

「お前にだけは慰められたくない!!文月だけには言われたくない!」


失礼な。

そこまで言わなくたっていいじゃん……。


そのとき軽いノック音がして国語教師と那岐が入ってきた。


「ここか……本当に利用者がいないんだな」

「やっほー那岐!あと先生もようこそ、我らが部室へ!」

「先生はオマケなのか……」


対面の席に座ってもらって小休止。


「んじゃ、細かいルールとかは?」

「先生が今から配るプリントにあるクロスワードパズルを先に解けたほうが勝ち。それだけだ」

「えっと、こっちからでるのって……」

「貴様一人だ。もちろんヒントもなし。始まったら一言も喋るな」


ですよねー……くそ、腹括るしかないか。


「はい、コレ」


俺たちの前に問題が裏返して置かれる。

あー絶対難しいのだろうなーやだなー……。


「準備は良い?……よーいどん!」


うわ始まったよ。

んん……縦から埋めるか。


『問1 んから始まるチャドの首都は?』


……なにこれ雑学知識?

ンジャメナじゃなかったっけ?

お、マスぴったり。


『問2 ぐずぐずとしていつまでも疑い、決断せずに躊躇うこと。

○○○○の決断』


……なんだっけ?あー遅疑逡巡?

なにこれ雑学の幅、広っ!

ってかなんで俺知ってんの?!

怖い!!!

こないだ本に出たからかな?


『問3 いとうつくし、日本語に訳せ』


……マス目的にたいへんかわいい、かな?

ってか難易度急に下がったな!?


『問4 御来迎、読み方は?』


ごらいごう。

読み間違えやすい漢字だよねー、これ。


こんな感じで次から次へといろいろツッコミどころのある問題を解き進め約10分後。


「「出来ました」」


終わったぁぁぁあ!!って、同時か。


「この場合どうするの?」


傍観者に徹していた天が尋ねる。


「正答率で決める。」


むすりと那岐が言ったのを聞き、苦笑しながら国語教師が採点を始める。


「センセー!結果まだ!?」

「あのね、鴉くん。そんなすぐできないから……ん、できた」

「結果は!!」

「ちょっと落ち着いて、鴉くん」


なぜ本人じゃない奏多があんなにうるさいんだろう……。

まぁアホの子だから仕方ないか。

どうせまけてるんでしょーふーん。

こういう時に限ってどこか一箇所しくったりするのが俺だからな!!


「澪標くんの勝ち……って言いたいところなんだけどね?

残念ながら、陸奥くんの勝ちだよ。

おめでとう陸奥くん」

「うぇ?」


……まじで?


「陸奥くんは全問正解。

那岐くんは一問だけ間違ってた。

ごらいごう、なんだよね。これ。

んじゃあ先生もういかなきゃ、バイバイ」


そういって先生が立ち去る前に最後に指差したのは縦列第4問。

まじか……そこで間違えたのか我らが秀才!!

まぁ受験とかには出ないもんねー。

TVでもごらいこう、って言ってるところがあるくらいだし。


「……はぁ、やはりお前には勝てる気がしないな、陸奥」

「え、テストの総合点じゃ俺にいつも勝ってるじゃん、那岐」

「そういうことじゃない……って、那岐?」

「え、あってるよね?名前」

「文月……そういうこっちゃないと思うぞ」


何か間違えたかと思って首を傾げると天に呆れられてしまった。

んじゃあどう意味だよ……。


「……まぁいい。お前、入学時の自分の点数、覚えてるか?」

「いや?というか、あれ公開されたっけ?」

「頼めば出てくるんだよ」

「へぇ、まぁ多分満点だったから確かめなくていいかなーって」


だってあの時は死ぬほど勉強したし。

1日8時間も勉強するとかまじありえんもう二度としない。


「……あれ?文月って何?馬鹿なの?」

「馬鹿に馬鹿って言われたくねぇよ奏多!!」

「俺は馬鹿じゃねえよ!!」


なんだ唐突に失礼だな!?

何か変なこと言ったかちくしょう!


「つまり僕は最初から勝ち目なんてなかったわけか……」

「え、えっと那岐?」

「いいだろう、約束通りに貴様の部活に入ってやる」


不機嫌そうに言った那岐の発言に俺たちは顔を見合わせる。


「……やったぁぁぁあ!!」


部員1人目、無事に確保です。



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