夏姫と初売り 前編
い……一年ぶりの更新です。
一般企業が仕事納めに入るこの時期、夏姫はかなり忙しい。
ただでさえ、いまだ納得のいかないままに二足わらじどころか、三足わらじの状態だ。
そのうちの一つは、この仕事納めから年末年始休暇というものに入るらしいが、残り二つにそんなものが関係しているかなど、まったくわからない。
「年末年始? ファンシーショップは一応大晦日までやるよ。ただし十五時閉店で。魔術屋は分からない」
あっさりとそうのたまったのは魔術の師匠であり、雇い主でもある変態呪術師聖。
聖と二人、そんな話をしていたのは、クリスマスイベントが終わり、片づけ作業中のことだった。
そこから年末まではあっという間に時間は過ぎるわけだが。
二十五日までは魔術屋兼ファンシーショップの店員になっていたため、二十六日以降は数日だけだが毎日、もう一つの仕事場である四条院コンツェルンに顔を出す。
「ミニスカサンタはもうお終いか」
「……サンタクロースは本来男性。女性サンタというだけで邪道だと思うけど」
「今時そんなことを言うやつがいるか。俺の目の保養……」
四条院家の次期当主という若き男、紅蓮の言葉を遮るように、書類を投げた。
「重要書類を投げる馬鹿がいるか!」
「重要なものをあたしに渡すなと言われていなかったっけ? 次期当主殿」
「あのパーティのあと大変だったんだぞ! 少しくらい俺をねぎらえ!」
あのパーティとはクリスマスイブに行ったパーティだろう。馬鹿馬鹿しくなり張り倒してさっさと逃げてきた。
「知らない」
「んなわきゃねぇだろうが! お前が出てったあと『さっきの方とのご関係は!?』ってさんざん聞かれたんだぞ!」
その話は葛葉から聞いている。葛葉がこともなげに「私の親友ですの」と答えたということも。
こいつらときたら余計なことしかしない。それが夏姫の感想だった。
そんな話をしながらも仕事はみっちりとこなし、定時であがる。そのあとはまたしても魔術屋へと顔を出す。
新年のための準備があるという。
「……これは?」
二階にあるかなりの数の紙袋と雑貨の数々。
「福袋だよ。これから袋詰めをするからね」
福袋と言えば、夏姫は「余り物を詰めたもの」という認識があるが、どうやら違うらしい。
「一応このためだけに発注をかけたよ。君のセンスには期待していないから、とりあえず詰めて閉じてほしい。まぁ、三十一日の閉店後で大丈夫だからそれまではここに置いておくこと。今回からはペット用の福袋もあるから量が多く見える」
「……はい?」
何故ペット用の福袋が魔術屋兼ファンシーショップで扱うのか。意味が分からない。
「獏のおかげだよ。小型犬の小物関係が最近の売れ筋だし。今日は獏がいなくて残念がられたし」
もちろん君もね。そう笑う銀髪の変態に、夏姫は一瞬蹴りでもかましてやろうかと本気で思った。
「夏姫さんっ。明日の午前中に京都に帰らなくてはいけませんので、一緒に年越し蕎麦を食べましょう!!」
翌日、そろそろ魔術屋に行こうしていたところで黒髪の美女、葛葉に取り押さえられた。
「白銀様の許可は取ってあります! 美味しいところがあるんですのっ!」
……問答無用で店に連れていかれた。