夏姫とクリスマス その2
十日からクリスマス強化フェアと化し、外にいくにもサンタコスが強要されるようになった。
四条院コンツェルンに書類を持って行くにも、サンタ。しかも小さな白い袋を担ぐのも仕様となっている。
誰がこれを決めたと問い詰めたくなってきたが、問い詰めるだけ無理なので諦めている。
夏姫が書類を持って行くと、紅蓮が別のサンタコスを着せたがるのも仕様なのか? と言いたくなってきて、思わず鳩尾に一発拳を入れてしまったのは許して欲しいところである。
そのうち、獏が自主的に持って行ってくれるようになり、夏姫としてはかなりありがたい。獏も樹杏や冬太に時折「ご褒美」を貰ってくることもあり、夏姫と獏はWin-Winなのだが、魔青一人がむくれていた。
店側のクリスマスフェアはお買い上げいただいた方にクッキープレゼントというごくありふれたものであったが、ペット用のものも用意し、小型犬であればお店に入れるということもありかなり人気である。
しかも、獏は撫でられても大人しいため、子供にも大人気である。
一度紅蓮がサンタコスのまま夏姫を連れ出そうとしたが、獏に止められあえなく失敗していた。
そして、クリスマスイブ。
今回は、手伝いじゃなくミサに行けるかな? そんなことを夏姫は思いながら接客をしていた。
勿論、獏にもミサに行く前にご馳走を約束している。
首輪についたチャームを揺らしながら、獏は大人しくマネキンになっていた。
「このワンちゃんが着てる服、ください!」
「このバレッタをラッピングで!」
「この雑貨、色違いありますか?」
等々、ハロウィンよりももの凄い混雑している。
夏姫が「魔青」の手伝いのみというのも分かる気がした。
いっそのこと雑貨屋一本に絞ればいいのに、と嫌味を言いたくなるくらいだった。
「夏姫、お疲れ様」
本日の営業が終わり、着替えて一息入れていた頃にそれは起きた。
まず最初に反応したのは獏である。
ご馳走を食べていたにもかかわらず、うなり声をあげたのだ。
「獏?」
そして夏姫もその異変に気がついた。
逆を言えば聖が気付いていないことが不思議だった。
「夏姫さん! 出かけますわよ!!」
扉をぶち破るかのごとく、葛葉が入って来た。
「……これからミサに……」
「いいえっ! 今年は私に付き合っていただきますッ!!」
そう言って無理矢理夏姫の腕を掴んだ。
「ふふっ。今私と一緒に行くのと、兄様や白銀様手伝いの元お着替えする、どっちがよろしいですか」
わきわきと動く手を見て、夏姫はどん引きした。
そして、聖と紅蓮に手伝わせて着替えさせるとは、どんな拷問なのだ。
「……一緒、行くから」
葛葉の勢いに負けて夏姫は白旗をあげた。
あと一回くらい続きます