夏姫とクリスマス その1
やっとハロウウィンが終わったと思ったら、次はクリスマスだと言われた夏姫は唖然とした。
「魔術屋にクリスマスって関係ある?」
「あまりないよ。まぁ、ファンシーショップのかき入れ時だし、周囲とのイルミネーションをあわせたりかな?」
ということは、別に夏姫も獏も手伝う必要はないんじゃないかと思ってしまう。
「あ、手伝いは必要だからね? 特別仕様の服も用意してあるし」
そう言って見せてきたのはミニスカのサンタコスだった。
「却下」
「これを却下すると、紅蓮の用意したホットパンツとチューブトップをあわせたトナカイコスになるけど、どっちがいい?」
マネキンに着せられていたトナカイコスは、足も出ていればへそも出ているという、とんでもない服だった。
これを冬に着るのか!? そう怒鳴りたくなる。
「……通常サンタで」
「それは却下だ! 葛葉も言っていたよ。『夏姫のその足を見せないのは何よりも罪』だと」
ふざけた言い分がまた出てきたようだ。
結局、いつものようにウィッグを被り、その上からサンタ帽子、そして長袖のトップスに膝上十センチくらいのサンタ服に着替えた。
しかも、膝を少し隠すくらいの長いヒールブーツの中は勿論、白いソックスだった。
「……いつもの服より動きづらい……」
ややタイト気味なスカートは歩く時も少し苦労する。
かしゃ、そんな音がどこからとも無く聞こえてきた。
「ま~~~お~~~~」
「マスタ、怒んないで! 紅蓮さんに頼まれたの!! マスタの服と魔青の服合わせてあげるからって」
絶対嘘だ! あの男は絶対に楽しんでる!!
おそらく騙されているであろう魔青は放っておくことにした。
気がつくと、獏の頭にもトナカイの角らしきものが載せられている。
「……獏、ごめんね」
もう、それしか言いようが無かった。せめてクリスマスにはご飯を豪勢にしてやろう、そう夏姫は誓った。
「そういえば、夏姫さん。クリスマスのご予定は?」
店に遊びに来た葛葉が唐突に訪ねてきた。
「仕事」
「仕事が終わったあとですわよ」
「獏とご飯」
その言葉に葛葉の口から盛大なため息が出た。
「ちなみに、昨年まではどうしていたのかな?」
「クリスマスミサの手伝い」
「は?」
聖の質問に当たり前のように答えると、二人が不思議そうな顔でこちらを見てきた。
「あたしが通ってた学校はキリスト教系の学校だったし、ちょっと離れたところに教会もあったから、知り合いのシスターに頼まれてずっと手伝いしてたけど」
正直に言うなら、シスターがそうやってわざと予定を入れててくれたというのが正しいが。
「夏姫さん! 今年のクリスマスはイルミネーションを……」
「混むからいや」
それにイルミネーションはこの周辺だけでお腹一杯である。
「……枯れてますわ」
そんな葛葉の呟きを夏姫は思いっきり無視した。
そして、夏姫のあずかり知らぬところで盛大な計画がなされていたのである。