夏姫とHalloween~表舞台~
とりあえず、表向き的な話です。
「ハロウィン?」
唐突に言われた聖の言葉に、夏姫はきょとんとしてしまった。
「そう、ハロウィンだ」
「仮装イベントだっけ」
夏姫の中のハロウィンとはそんなイメージしかないが。
「元は古代ケルトに由来してね……」
長い聖の薀蓄が始まった。
古代ケルトでは十一月が新年だったそうで、つまりは大晦日に近いものがあるとか。
その時に死者の霊が親族を訪れる夜で、その他に悪霊が横暴し子供たちを攫ったり、家畜に害をなす日でもあったとか。死者の霊を導いたり、悪霊を払い去ったりするため焚き火が不可欠だとか。
そのあとローマ人がブリテン島を征服してから両民族のお祭りが合わさったとか。
正直どうでもいい。とりあえず南瓜をくりぬいて「ジャック・オー・ランタン」を作って、仮装して「|Trick or Treat《お菓子か悪戯か》」と言って回るとだけ覚えておいた。
ハロウィンの三日前くらいから夜に南瓜をくりぬいて作るつもりらしく、残業するように言われた。
「ついでに十月に入ってからこちらの店に来る際は獏をしっかり出すこと。獏に色々な衣装を着せて散歩がてら来ること」
「は?」
「ペット用衣装も今回仕入れたからね。その宣伝だよ。特別手当も出すから。それから、二週間前から毎日こちらに出勤して欲しい」
「イベント週間ってこと?」
「そういうことだよ」
そんなわけで、夏姫と獏にハロウィン参加が決まった。
「あぁ、師父から聞いてる」
紅蓮のところで報告したらそんな答えが返ってきた。
「ハロウィンだけはあの店、表も裏も忙しいからな。裏の方は魔術師が前日まで押し寄せる。表は……今回どうするか俺も分からん」
「あっそ」
書類の決裁を待ちながら、夏姫は黙々と仕事をしていた。
獏の服は本当に色々だ。
南瓜型、魔法使いっぽいもの、ピエロっぽいもの、その他なんでもありといえた。
毎日不服そうにそれを着て歩く獏に少しばかり同情する。夏姫も店に行けば、いつもよりも五割以上酷いゴスロリを着せられる。
「早くハロウィンなんて終わればいい」
同感、といわんばかりに獏が頷いていた。
あっという間にハロウィン週間となった。
そしてハロウィン当日。
「マスタ、トリックオアトリート!!」
店に着いた夏姫に開口一番で魔青が言った。
そんな魔青に夏姫はお菓子ではなく、可愛いチョーカーを渡した。
魔青は聖が創った使い魔故、飲食というものをしない。なれば、こういったものの方がいいだろう。
「わぁぁぁい。マスタ、ありがと」
ペンダントトップは王冠をかたどった小さなものだ。昨日、帰りがけに露店で見つけたものだ。
獏も物欲しそうに見ていたので、王冠をかたどったペンダントトップを首輪につけてやる。それだけで獏もご機嫌になっていた。
「聖、これ持ってっていい?」
午後から夏姫は紅蓮たちのところに書類を頼まれた。色々と対策を練っていた方がいいだろう。
そんなわけで、くりぬいた南瓜で作ったパンプキンパイを持って行くことにしたのだ。それからドラジェ。
「……考えたね」
「そりゃ、対策練らないと」
どんな悪戯をされるか分かったものではない。
「夏姫さん、Trick or Treat?」
何故ここにいる、そういいたくなる女性、葛葉に言われた。
「葛葉さん……」
「さぁ、夏姫さん! 今日はハロウィンですのよ!」
ひょいっとパンプキンパイをホールで手渡す。
「あらまぁ……用意は万全でしたのね。どちらかといえばTrickがしたかったのですけど」
そう言って手に持っているのは、ミニスカートのワンピースだった。
「兄様が今出かけてますから、兄様が戻ってくるまでこの服でいるという……」
持って来てよかった、そう心のそこから思った。
「じゃあ、総括責任者に書類渡して帰る」
「えぇぇぇ!? その格好を兄様に見せませんの?」
「どうして見せなきゃいけないわけ?」
そう言いながら、樹杏いる部屋に向かう。
「山村さん、本日のその格好は……」
驚きながら夏姫と葛葉を出迎えたのは、樹杏の秘書であり一番の側近である冬太だった。
「ハロウィンらしいので」
「紅蓮様了承の元、ということでしょうね」
「そいうことです」
黙って書類を渡した。
「ということで、Trick or Treat!?」
初めて見かける男にいきなり言われた。
「初めまして、夏姫ちゃん。紅蓮の友人」
「では、我々もTrick or Treat?」
冬太がにっこり笑って乗ってきた。
どん、持っていた籠ごとドラジェを樹杏の机の上に置いた。
「皆で分けてください」
黙って書類を見ていた樹杏がため息をついていた。
戻ってきて黙々と店内業務をこなしていたら、紅蓮がやって来た。
「夏姫! Trick or Treat?」
その言葉を受け、夏姫はコインを一つ紅蓮に渡した。
明日にでも裏話あげたいと思います。