プロローグ
少年の本心は平穏な生活を望んでいた。
「これから目立つことなく平穏な生活を送ろう」
と彼は意識して生活を送ろうとしたことも度々あった。しかし困っている人を見逃すことができない性分が仇となり不特定多数の人物のトラブルに巻き込まれてしまう事が多々あった。多数のトラブルを解決することにより依頼人からは、
「ありがとう」
の感謝の言葉を聞くたびに少年は、
「いいことをした」
と一種の快感じみた反応により人からの依頼を断れずにいた。
思春期となった彼は、他の人々の自分に対する扱いに嫌気が差し他県の高校に進学した。何もかもを捨て去った上で平穏な高校生活を送るという本心が彼の中に秘めていたからである。
これから学習していく学舎は、亡き養父の紹介によるものである。県内の偏差値としては5本の指に入るレベルであり、それなりの教養を有した学生が入学する高校であった。
桜舞い散る校庭の中で新入生はたくさんの上級生に迎えられながら入学式に臨んでいく。少年はその一人であり冬の置き土産であるそよ風を浴びながら体育館に向かっていった。これからの生活の希望と新しい生活に対しての思いが背筋と顔の表情に現れていた。
入学式は一学年全員が参加し学校長による一言二言で終わる内容を10分に引き伸ばした長ったらしい言葉を述べていた。少年が見る一年生の生徒は希望に満ちた表情の者、不安げな表情のもの、校長のお話を早くから嫌悪の表情を表す者など様々な人物がいることが見て取れた。少年はここから何もない状況から新しい高校生活ができると期待していた。
しかし少年はある疑問を抱いていた。それはある訓練や経験を積んだ者だからこそ把握できるものである。彼はさり気なく他の生徒をチラリと見ながら、
「……なぜ俺と同じ裏稼業の匂いをする奴が一年生の中に複数いるんだ?」
と眉間にシワを寄せながら沈黙の時間を過ごした。そしてこれが彼の1年間に渡る平穏期間の終わりの前触れであった……。