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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
4/20

#4

「んぃ!?」


眠っていた者が顔が上げた。

彼女の柔らかそうな桃色の髪が滑り落ちて、その間から茶色の瞳がのぞく。大きな瞳に気圧されかけるけれど、彼女はすぐにその瞳を細めて大あくびをした。

周りを見渡して自分の状況に気付いたのか私たちを見上げて気まずそうな顔をする。


「……私はイザベラと言います。先ほど悪魔憑きを収容している施設に移動するチーム分けを行いました」


簡潔に状況を理解しきれていない彼女に内容を伝えるイザベラがすごく頼もしい。それとは別にアンナとツキノは少女の様子を面白そうに眺めている。

私は仕方が無く彼女の手を付けられていないワイングラスを割って中から彼女のマスターキーを取り出した。

確かに、緑色の宝石。同じチームだ。


「あー……なるほど、わかった。私はマヒリー」


彼女は大きな瞳をこすり、よろよろと立ち上がるともう一度あくびをかました。

眠たそうにしている彼女は意外にも状況の理解が早かった。それにしても、あの場の空気で眠るとは思わなかった。神経が図太いだろう。いい意味でも悪い意味でも。

そんな彼女の肩を叩いて歩き始める。


「マヒリー、自己紹介は後よ。私たちが一番最後なの。急がないと」


背中を押しているのはイザベラだ。

背の低いマヒリーはツキノと同じくらいの身長で、もしかしたらそれよりも低いかもしれない。彼女を入れてようやく五名になった私たちはやっと悪魔が収容されている施設への扉の前まで来た。


「はっはじめまして!! ユノクトリ帝国解錠師軍のナラナ・カロと申します!! 今日は皆様を案内させていただく立場ですので、どうぞよろしくお願いします!!」


ナラナはそういいながら頭を下げ、そしてもう一度ぎょっとしたように目を見開いてから帽子を取ってもう一度礼をした。なかなか礼儀正しい少年だ。

貧弱そうな体つきをしているせいで、ひどく情けなく見える彼は金色の髪のカールした毛先を指でいじりつつ視線を泳がせた。

優柔不断なのかはきはきしない彼にイライラして来るが、彼も一応は私たちの先輩になる。だから文句を言うために口を開くことはで計無かった。

先ほど適当だと考えていたアンナさえもが口を閉じている。上下関係の分かるやつらしい。


「遅れて申し訳ありません。ナラナさん、早速お願いできますか?」


イザベラは先陣を切って話を進めてくれる。それに比べてツキノはアンナやマヒリーはぼけっとしているばかりでいまいち緊張感がたりていないと思う。これからこの人たちと仕事を共にするかもしれないとなると気分が重たかった。

だがツキノはナラナと話しているイザベラをじっと眺めていた。二人を眺めながら何を考えているのは分からない。もっとだらけた人間かと思ったら周りをしっかりとみている。

警戒心が強いというか、抜け目がないというか、隙がないというか。彼の独特の雰囲気はあまり好めない。


「わかりましたっ。でっでは私についてきてください……」


ナラナは相変わらずおどおどしながらも扉を開けて私たちを促した。長い通路が続いている底へ足を踏み入れる。全員が入ったところでナラナが後ろ手に扉を閉めた。

青白い光が廊下を照らし、この先にある悪魔を収容している施設の不気味さを表しているようだ。

私は気を引き締めつつ首元のスカーフを緩めた。息苦しい。


「わかっていると思いますが、悪魔憑きは大変危険です。戦争の兵器となっているくらいですので……。気を抜かないようにお願いします」


「わかっています」


私はきっぱりとナラナに言い返した。

そんなことはこの世界に住む人間のほぼが知っている。悪魔憑きは人間では無い。兵器だ。戦争に使われ、国を守るために戦う兵器。

私は後ろを振り返ってあくびを繰り返すマヒリーと落ち着かない様子のアンナを睨んだ。


「なっなんだよユニザ!!」


「……別に、大丈夫かしらと思っただけよ。アンナ、マヒリー。貴方たち緊張が足りていないと思うわ。悪いけれど」


私の視線に顔を真っ赤にしたアンナがかみついてくる。

マヒリーはそんなアンナと私を見比べて首を傾げた。私はそんな彼女の髪留めがずれていることに気が付いたのでそれを直してあげた。マヒリーは不思議そうな顔をしたけれどすぐにその小さな口を開いた。


「あ……ユニザ、ありがとう」


私が先ほど緊張感が無いと貶したのにもかかわらずあっさりとそんなことを口にするものだからなんだか毒気が抜けてしまった。同じようで首を振ったアンナは足で床を踏み鳴らして息を吐いた。

マヒリーのふわふわとした口調で喋られると怒る気持ちが消える。

そんな様子に初めてイザベラが口元を緩めた。私たちの応対をまるで母親のような目で見た。それに対してツキノは面倒そうに自分の黒髪を撫でた。


「ねぇ、そろそろ行かない? ナラナさんも急ぎたいだろうしさ」


「そうですよ。ユニザ、マヒリーとアンナはそういう人間なのです」


ナラナが閉めた扉の前で談笑をしているのをナラナは相変わらずおどおどと見ていた。早くしてほしいならば言えばよかったのに。

私はイザベラの優しい口調に戸惑いながらも頷いて釘をさすためにもう一度アンナだけ睨んでおいた。

マヒリーはなぜか自分の隣にいる。よたよたと眠たそうに歩くのですごく危なっかしい。


「でっではみなさん進みますよ……」


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