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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
17/20

#17

「新入り?」


食堂というのは意外と簡素なものだった。解錠師になったからと言って毎日豪華な食事がとれるわけじゃない。これは勉強でどうにかできる知識じゃなかった。だがそれにがっかりしているなんて顔はできなかった。

厨房が見えるカウンターのところで肘をついて私たちのことを迎えたのは、三角巾を頭に巻いた女性だった。黄色のエプロンをしていてしっかりとまとめた髪が清潔感がにじみ出ている。食事をする場においてはいい印象を与えることができているが、接客に関しては少し欠けている。

私が迷って居ると、イザベラが頷いた。

そもそも食堂に居る人間はいったいどの分類に入るのだろうか。解錠師団には所属していないだろうから、解錠師ではない。そもそも見ただけでその人がどれだけの魔力を持っているかどうかなんてわからない。


「そうなります。イザベラ、こっちが」


「ユニザよ」


迷った末に私は敬語を使うことをしなかった。それに対して彼女の細い眉が動いた。左の眉にピアスがついている。

彼女は三角巾からはみ出た自らの髪を指に絡めてため息を吐く。そのまま視線が私の後ろに立っていたディガに向かう。


「ディガ。これってお前の解錠師?」


「……これ?」


これ、と表現された。心外だ。しかも、こんな食堂に居るような人間に。

私は解錠師なんだ。調子に乗っているわけでも、自分の力を過信しているわけでもない。ただ、私とこの女では努力してきた量が違うのだ。私よりも年上だろうが関係ない。この人がここで面倒くさそうに接客しているときも私は勉強をしてきた。それなら少しくらい下に見られてもしょうがないのだ。私が彼女の立場ならそれが理解できる。

ディガは私の前に立ってカウンターに肘をついた。


「そうそう。なーんか生意気だよな。俺、嫌い」


それに対して私のほうをちらりと見た後、イザベラのほうを向いた。

彼女の表情はさっきから全然変わっていない。ユピィとは違う意味で眠たそうだ。ユピィはたれ目なので眠たそうでゆったりとしている雰囲気だが、彼女はただ瞼が重そうだ。少しだけ、マヒリーを思い出す。


「まぁ、うまくやるのも悪魔憑きの仕事だからさ。がんばれー」


思わず身を乗り出してカウンターを叩きそうになってしまった。

悪魔憑きの仕事ってなんだ。私たちに使われることだ。何で、なんでこの女はそんなことを言うんだ。

まるで、悪魔憑きも対等のようなことを。そんなことを言ってしまったら、悪魔憑きの価値が上がってしまったら、悪魔憑きが世にはびこってしまったら。

魔力の低い一般人が築いてきたこの世界が死ぬ。

なんでこんなことを考えないといけないんだ。私は、解錠師になるために必死に勉強してきた。それで学んだことは。学んだことは、無駄みたいじゃないか。まるで、小さな世界の小さな価値観だけを学んだようだ。


「ユニザ、大丈夫ですか……?」


イザベラの気遣いは本当にすごいと思う。出会ってまだ間もない私のことをこれだけ気にかけてくれる。それも、私が解錠師だから。私が悪魔憑きだったなら、イザベラはこれほど心配はしてくれない。

私は食堂の彼女を睨みつけて、席に着くことにした。ついてきたのはイザベラとディガ。ユピィは私たちのことを一瞥して、四人分の注文をしている。彼女にも気を使わせてしまっている。それと、ディガが私について来るなんて意外だった。もっと反抗すると思ったのに。

軽く視線を送ると、ディガは首を傾げた。

彼は相変わらず私を良く思っていないのだろう。初任務がどういう内容なのかはわからないが、彼と一緒でも必ず成功させる。私は決めたのだ。どんな悪魔憑きでも、私は任務を全うする。そのほかに道は無い。


「何か悩んでいるなら私に話してください。一方的で悪いのですが、私は、その……友達だと、思っていますから」


「とも、だち……?」


気が付けば彼女の瞳を凝視していた。まっすぐで、熱くて、それでいて優しくて。包み込んでくれそうだ。

イザベラが、友達。

私の、友達。


「お前、友達とかできたことねェーの?」


「貴方っていうやつは!! そんなくだらないことで私を煽る暇があったら早く席に着きなさいよ! みっともない!!」


テーブルを叩いて立ち上がる。

机のわきに立っていたディガは、そんな私を見て目を丸くした。そして首の後ろを掻く。

この食堂に今いるのは私たちだけだ。大きな音を出して迷惑する人間はいないとしても、非常識な行動だった。


「お前、言ってることがごちゃごちゃだな。俺たち悪魔憑きが解錠師であるお前たちと同席していいわけないだろ」


「……あ……」


確かに、それは正論だった。私は咳払いをして席に腰を下ろす。イザベラが少し困惑した後、小さく笑った。

そんなことは初歩だった。ここでもしも勝手にディガが席についていたらそれはそれで怒っていただろう。

そこでユピィが料理を持って戻って来た。相変わらずギリギリな服装だ。それを手伝いにディガがカウンターに足を向ける。

四人分の食べ物を運ばせてしまっているのは悪いが仕方が無かった。

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