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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
16/20

#16

もっとも、そんな感情を隠すつもりはない。彼だって私が自分を嫌っていることくらい分かっているだろうし、私は感情を隠すことをあまり得意としない。

嘘をつきたくないからだ。嘘をついたって何の得にもならない。しかも彼の様な悪魔憑きにどんなひどい扱いをしても誰も何も言わない。

彼は、悪魔憑きは、人よりも下の扱いを受けて当然なんだ。


「こちらの角をー曲がりますー」


ユピィは私たちを振り返ってから角を曲がった。そして彼女は、転んだ。突然のことにイザベラも私も反応できなかった。いや、しなかった。悪魔憑きだから。

でも、ディガは違った。

ユピィの女性らしい体が傾き床に倒れこむ寸前、ディガは両腕で彼女の腰を掴んで引き寄せた。しかし少年のような体をしたディガに肉付きの良いユピィの体は支えきれず、そのまま二人で床に倒れこんだ。


「っぅ!!」


「ひゃあ!」


二人分の体重が床に叩きつけられる重苦しい音と、うめく声。

私はたまらず目を閉じたがすぐに開いた。


「あ、わわ、ご、ごめん、ありがとう、ディガ……」


やけにゆっくりとした動きでユピィはディガの体の上から体を起こした。

それなりに重かったはずなのに、ディガはそんなユピィを急かすことも叱ることも無かった。それどころか心配そうに見つめてくるユピィの髪を撫で、笑う。


「もーユピィ先輩って妙にそそっかしいよなぁ」


身軽に立ち上がったディガはユピィに手を差し出した。

彼の手を握って立ち上がった彼女は柔らかそうな頬を膨らませて反論しようとしたが、私とイザベラを見て頬をしぼませた。


「あ、ぁ、えっと、ごめんなさい。わ、私、最近よく転ぶんです……」


垂れ気味の瞳の上で眉が下がって、視線をさまよわせるユピィの口調は相変わらずふわふわしていて安定しない。でもかなり反省しているようで、先ほどまでの雰囲気から一転して暗い影を背負っている。

そんな彼女を責めたてることができずに私は言葉を飲んだが、イザベラは違った。

私の隣で金色の髪をかきあげて溜息を大げさに吐いて見せ、ユピィが曲がるといった角を曲がって歩き出す。

迷わず後を追う。


「……ちっ。んだよあいつ……」


すぐに私の右斜め後ろについたディガの舌打ちははっきりと届いた。足を止めてそれに対して文句を言うことも考えたけれど、結局何もしなかった。

迷わずユピィを助けたのは、少なくとも同じ悪魔憑きのユピィを守る意思はあるということだ。あの日、あれだけ簡単に解錠師たちを傷つけたディガが。

悪魔憑きを差別する解錠師を、世間を、悪魔憑きは差別しているのかもしれない。

確かに、そうやって国で管理して法と常識で縛りつけ、世界の人の思考を意図的に左右させて決めつけないと、この世界を支配するのは力を持った悪魔憑きだ。それを恐れて、こうやって悪魔憑きを下の身分にした。それは一種の戦略であり、そして逃亡である。だが、そうするほかない。それがもう常識となっている今、変えることはできない。

だから今こうやって悪魔憑きが私たちを差別して軽蔑しようが、関係無い。彼らに魔力はあっても社会的な力は無い。

だって、解錠市は勉強を重ねないと手に入れることができない身分なのだから。努力で勝ち取ったこの解錠師の資格も、ユノクトリ帝国解錠師団の中ではまだまだ下。いちいちディガや他の悪魔憑きの思考を考えて、勉強を怠ったり、思考を中断させている時間も暇もない。

それが分かっているのは、イザベラも同じだ。だからこそ、ユピィに優しい言葉や庇う言葉も何もかけなかった。

私のような解錠師には優しいイザベラにもそういうけじめがあるんだ。

本当にしっかりとした女性だ。


「ディガ、いいんだよ。やめてよ。イザベラさんは私のパートナーだし……」


ユピィは正反対のように思える。彼女は先ほどの転倒と言いそそかっかしい部分はあるようだが、そこもかわいらしいと言うか女性らしい。

イザベラとは違う。

色んな人間がいるんだ。私は人間と触れ合う機会があまりなかった。解錠師を目指して勉強をしていたころは、ほとんどおばさんとしか会わなかったし。


「そんなこと言ったって、イザベラってユピィ先輩より年下じゃね? ユピィ先輩いくつだっけ?」


「え。二十二だけど、関係ないよ、そんなの」


「確かに関係ないわ。大切なのはユピィが悪魔憑き、イザベラが解錠師だってことよ」


すぐ近くで繰り広げられる、決して仲が悪いわけじゃない人の悪口のような会話につい口を挟んでしまった。大切なのは、無視して無関心であることがあるってわかっていたはずなのに。

私の言葉に明らかにディガが不快そうな顔をした。いくらディガでも今襲い掛かってくるほど短気というわけでもないらしい。


「俺、あんたのこと嫌い」


発せられた言葉に口角がひきつった。

同感だ。私も嫌いだ。お前みたいなのは嫌いだ。

言いたいことはたくさんあったが、理性が押しとどめてくれた。

いつもの冷静な顔を保って私は少し先を歩いていたイザベラの横に並ぶ。

ユピィはおろおろしていたけれど、喧嘩が始まらないことに胸をなでおろして、私たちの前に出て案内を再開した。

お腹が空いたのは確かだが、なんとなく今は食べ物がのどを通らなそうだと思った。

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