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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
15/20

#15



彼女の冷静で冷たい声から言ってナラナの言うとおりロダはきつい性格の様だ。私は別にそれで構わないし、逆に言えばナラナの様に少しほんわかしている人間よりもああやって厳しくて周りの雰囲気と、自分が背負っている責任を理解している人のほうが好きだ。

だが、マヒリーとツキノはどうだろうか。

ツキノはまだしも、マヒリーはまだ子供らしい部分があるし彼女の厳しい態度に耐えられるのか。

彼の言うとおり、ここは上司であるナラナに早く言ってもらってフォローを頼もう。

彼は顔を上げて微笑んで、その場を立ち去った。

イザベラの隣に立っている女性を振り返ってみた。

ユピィ。

ナース服の生地は彼女のスタイルの良さを際立たせている。背中は大きく開いており、そこに魔方陣が彫られている。

悪魔憑きには必ずあるもの。解錠師が魔力を操って出現させた鍵と連動して、悪魔を解放することができる。悪魔を封じている魔方陣。


「ディガ、もう大丈夫なの?」


彼女は私の視線に気付いているのかわからないが、ディガに声をかける。ディガは自分の首元に視線を下げた後、心配そうなユピィの真紅の瞳に向かって笑いかけた。


「おう! 大丈夫! 本当にサティヴァーユ様は厳しいんだからよぉ……。ちょっと出かけただけじゃんか」


唇を尖らせるディガは子供の様だった。そんなディガのダークグレイの髪を撫でるユピィの手は母親の様だった。

私に視線を寄越していたのはイザベラだった。

彼女は困ったように肩をすくめ、そしてまだ話を広げようとしているユピィの肩を叩く。恐る恐るといった行動に彼女の用心深い性格が出ていると思う。

滑らかな声と、たれ目から受け取ることができる柔らかな印象のユピィだって悪魔憑きなのだ。恐れる理由はそれだけで良い。


「恥ずかしながらお腹が空いたのですが、ユニザはどうですか?」


軍服に包まれている腹を摩りながらイザベラは頬を染めた。

確かにここでずっと立ち止まっているわけにもいかない。ここに来て間もないのだし、ここの空気になれることも必要だ。この施設の中を歩き回る前に、昼食をとってもいいだろう。

私がそれに反応をしようとした時、後ろから影が飛び出してイザベラの前に飛び出した。

ダークグレイの髪、ディガ。イザベラは結構身長が高いので、ディガは彼女を見上げている。


「それ良いな! 俺、ディガ。よろしく!」


先ほどの私が起こったことを彼は全く気にしていないようで、解錠師であるイザベラに馴れ馴れしく話しかける。態度のでかい彼に一瞬度まどったようだが、切り替えの早いイザベラはすぐに銀色の瞳に込める感情を決めた。厳しい、偏見の瞳だ。

ユピィはたれ目できょろきょろとしている。何か口を出そうとしているようだが、チャンスがつかめていないみたいだ。


「私はユノクトリ帝国解錠師団のイザベラ。見習いでも、解錠師なの。だから、貴方、立場を考えてもらえる?」


空気が凍りつく。私は腕を組んで、ディガを睨みつける。

彼は自分の立場を全く分かっていない。彼はただの悪魔憑きで、兵器だ。解錠師である私たちに管理される側なのに、対等の様にイザベラや私に話しかける。

まるで、同じ人間のように。

こんな扱い、たくさんされてきたはずなのに、今まで生きてきてディガは自分の立場を知っているはずなのに。

世界の常識と、上下関係。大切な物だ。この世界のルールだ。悪魔突きは、恐れるべき存在で、管理すべきなもの。

定着した世界の「普通」をディガは受け入れていない。


彼の細い眉が歪んだ。同時に、唇も。


「……あんたもかよ。まぁいいけど」


何かを抑え込むように、どこかに余裕があるように、見下したように。

私だけじゃない。イザベラもきっと怒りを覚えたはずだ。でも彼女は動じなかった。かすかに表情を歪めたが、ただそれだけだった。

さっきの自分がどれだけ取り乱したのかを知ったような気がして、凄く惨めだった。悔しかった。

今まで、自分を休ませたことは無い。努力をし続けた自分は、きっと強くて特別なのだと、かすかに思っていたのかもしれない。驕っていたのかもしれない。もっと、頑張らないと。絶対に、私は強くなる。

まだだ。まだ、足りないんだ。


「ディガ、止めなさい」


ユピィが言ったからかどうかは分からない。でも、それ以上ディガは何も言わなかった。何も言わなかったけれど、続きはあったのだろうな。その続きは悪魔憑きをかばうものだっただろう。

自分たちを守りたくて必死なのだ。守れないくせに。守れないんだよ。この世界では、悪魔憑きは守られない存在なのだから。

絶対に変わらないこと。


「食堂まで案内しますよー」


ユピィの柔らかな声は、恐ろしいくらいに場にあっていなかった。

その声が無かったら誰も動かなかっただろう。彼女が先陣を切って歩き出す。


私はディガだ嫌いだ。打ち解けることができない。そう確信した。

これからのことは何も分からないけれど、絶対にこいつと仲良くなることは無いだろう。


悪魔憑きのくせに、生意気だから。

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