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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
11/20

#11



 + + + + 



栄養が整えられているスティック状の食事を簡単にとった私は昨日よりも早い時間で家を出た。それが急いで焦っているように見えたのか、おばさんは私を落ち着かせようとしていたけれどそんな必要は全くない。

私は落ち着いている。落ちつているからこそ、こうやって早くに出勤するのだ。

腕時計を確認して、自分の格好も見ておく。昨日と全く変わらないが、スカーフだけは取り替えておいた。

私の髪留めと軍服を見てユノクトリ帝国解錠師軍だと分かると気付いた市民は自然と道を開けてくれる。


「ユニザ。おはよう」


後ろから声をかけられて振り返ると、昨日一緒に動いたマヒリーが立っていた。

彼女の桃色の髪は少し寝癖がついている。しかし昨日のように髪留めがずれているわけでもなかった。気を付けたのだろうか。

私と並ぶように歩くマヒリーは相変わらず少し眠そうだ。


「おはよう」


挨拶を返すとマヒリーは軽く頷き、そして昨日は結局足を踏み入れることを許されなかったユノクトリ軍事本部を見上げた。

軍を所持している国が、肘をついて国のことを見守るために建てられている建物。そんな皮肉を呟いていたのは誰だったか。少なくとも私はそんなことは思っていない。解錠師は悪魔憑きを国のために動かす。

結局、国のために動いているという点では悪魔憑きも解錠師も変わらないのかもしれない。


「今日もまた試されるのかなー。やっと合格できたと思ったらこれだもんなー」


マヒリーの言葉は薄い。本当にそう思っているのかわからない。でもどこか悔しさがにじみ出て、私と同じようなことを言ったものだからそれを信じてしまった。

マヒリーも悔しいんだ。この子も、本当に適当に生きていると思っていたけど、よく考えて私のように試験のために頑張って来たのだろう。

大きなユノクトリ軍事本部は銀色に朝日を反射している。巨大なそれは、私たちを見下ろしてそして同時に見守っている。


「そうね。でも今日も昨日のようなことをするのなら、私はナラナさんを問い詰める」


「ふふ、ユニザは頼もしー」


からかうようにマヒリーは下から子供らしい笑い声を漏らした。

ツキノが二十、その二つ下のアンナが十八、その一つ下のマヒリーは十七。そして私が十九。二つしか離れていないと言うべきか、二つも離れていると言うべきか。すごくマヒリーは幼く見える。

ツキノも大概だけれど、マヒリーはそもそも裏表が無いように見える。睡眠という人間の欲望に忠実だからだろうか。信頼できそうだ。


「マヒリーもお願いするよ?」


「らじゃらじゃ!」


マヒリーが敬礼をする。朝だからなのか、昨日充分に寝た様で昨日よりも元気がいいように感じる。

私たち二人はユノクトリ軍事本部の入り口の前で立ち止まった。そこに、先ほどまでの話題の中心にいたナラナが立っていたからだ。

ナラナに一礼をすると、ナラナは深く頭を下げた。

昨日のはやはり演技だったんだ。あのおどおどとした態度にすっかり騙された。


「おはよう。ユニザ、マヒリー。ツキノとイザベラはもう来ているから控室に居る」


アンナの名前が出てこないので彼はまだ来ていないのだろう。まったく、あいつはどこまでマイペースなのだろうか。

あいつが少し気に入らない。全然働いていなかったのに私と同じ合格なんて。どうせあいつの合格レベルは最低のEに違いない。


私が眉を顰めている間にマヒリーは私たちに背中を向けたナラナの横についた。


「今日は何をするんですか、ナラナさん」


マヒリーが私を不思議そうに振り返って来たので急いで後を追う。

初めて本部に入るという緊張感は無いに等しかった。昨日悪魔を収容している施設に入ったせいで、ここが凄く安全な場所に見える。

悪魔を収容している施設のことを思い出すと、同時にディガの足の血を思い出す。


短く息を吐いて、そしてマヒリーがナラナに質問した内容を頭の中で整理した。

そうだ。今日私たちがやることはなんだろうか。


受付に居る女の人たちが綺麗にお辞儀をして迎えてくれる。吹き抜けになっている中はちょっとしたホテルの様だった。

豪華な雰囲気にマヒリーの間延びした声は似合わない。


「まず、ちゃんと俺のことを知ってもらうかな」


右に曲がり、階段の隣にとおって居た廊下に進んでしばらく行った先の扉を開く。

中は昨日の会場を小さくしたみたいになっていて、ステージを前にして長い机が並んでいるような形だった。ゆるく曲線を描いて扇状の部屋を埋め尽くすように並んだ机の端に、金髪の女と黒髪の男が座っている。

イザベラとツキノだ。

部屋に入ってきた私たちに気付いたツキノが片手を上げて振る。マヒリーがそれに答えて駆け寄って行った。


「ツキノイザベラ!! おはよー!」


いきなりかけてきたマヒリーに驚いたのかツキノの瞳が見開かれた。

イザベラはそんな二人を見て目を細めて笑い、そして私に向かって控えめに手を振った。ナラナと二人で合流して一通り挨拶を済ませる。


「アンナはまだだから、先に話を始めようか」


腕時計を確認したナラナはそういいながら机に腰を下ろした。

イザベラの隣に私が、ツキノの隣にマヒリーが座る。六人しか集まらないのにこの部屋は広すぎる。

私たちが落ち着くのを待っていたかのようにナラナは胸ポケットからバッヂ型の勲章を取り出した。それを胸ポケットにつける。私は驚いて身を乗り出してしまった。


「た、隊長……!?」


「そうそう。ユノクトリ帝国解錠師軍一番隊隊長の、ナラナ・カロ。これからよろしく」


言っている意味がよくわからなかった。ただの上司で、先輩で、一年か二年くらいしか変わらないと思っていた。

でも違った。この人、隊長だったんだ。

驚いている私たちを楽しそうに眺めた後、ツキノの頭を撫でる。意味が分からない行動にツキノも固まってしまっていた。

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