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ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
10/20

#10



 + + + + 



紫色のそれには、金色の線が入っている。

右手に納まっているそれをくるりと回し、仕事中にだけしかかけないメガネを押し上げた。

このペンは髪留めと同じく解錠師にしか与えられない物だ。

髪留めは女子には好評なので今日の新人もつけていたな。男子は髪留めが恥ずかしいのか外している新人のほうが多かったかもしれない。

今日の面子を思い出していると自然と口角が上がる。

机の上に広がっている書類の左上にはそれぞれの顔写真が張られている。

その中の一人の顔をじっと眺める。つまらなそうに、真剣な顔つきなのか、ただの真顔なのか。なかなかの美人なのにもったいなく硬い雰囲気を漂わせているその写真。

ユニザ・カロキス。

事前に個人情報が書かれているこの紙を受け取っていて、目を通してはいたが実際に会ってみないと分からないことも多かった。

この子は意外と人のことが好きだ。

自分に厳しいとはこの顔写真を見てわかっていたのだが、他人には甘いとは知らなかった。想像ではずっと黙り、緊張感を崩さないだろうと思っていたのだが。お喋りなアンナや、のんびりとしたマヒリーに感化されたのかもしれない。

これからどんなふうに成長するのか楽しみだ。

今日の印象を書き込み、そして感想も付け加える作業をするのは本当に好きだ。これから彼女たちがどんなふうにこの世界を体の中に取り込んでいくのか。俺には想像もできないような何かがあるかもしれない。途中でくじけるかもしれない。できれば最後まで仕事を全うしてほしいけれど。


「合格っと……」


隅に会ったハンコを引き寄せて名前の欄にかぶるようにハンコを押す。

試験には合格はしたけれど、現場まで緊張できている者だけしか本当の合格にはなれない。俺が担当したユニザ、イザベラ、ツキノ、アンナ、マヒリーは全員間違いなく合格だ。あの子たちは本当によくやった。

多分、ユニザは不満に思っているだろう。自分を認められていないと知ると怒っていたから。あんまりいいことじゃあ無いけれど、俺は嫌いじゃない。ユニザのああいう強引ながらも自分にまっすぐなところは、あの子にとっていい影響を及ぼすと思っている。


『なんでアンナも合格なのですか』


最後の最後にユニザはその疑問を口にしていた。俺は内緒と答えておいたが、ちゃんとした返答をした方がよかっただろうか。

まさか。そんなはずはない。

ユニザはアンナの行動が気に入らなかったのだろう。イキサザが暴れ、ユニザが行動を封じたとき一番働いていなかったのはアンナだったから。それに疑問を感じて、不合格じゃないのかと思うことは別に不思議じゃない。

もし俺もあの立場だったら同じように思う。自分は頑張って動いたのに、動いていなくても合格に慣れたやつがいるなんてって思う。

でもそれは違う。違うんだよ、ユニザ。

ユニザがマスターキーを掲げる前。その前に、その行動よりも早く。真っ先に片手に持っていたマスターキーに魔力を送っていたのはアンナなのだ。ただ、行動はしなかった。

彼は無意識だったのだろう。悪魔憑きが暴れていることに驚く前に、反射的に悪魔憑きを封じることができるマスターキーを発動させた。でもアンナは動かなかった。それが優しさなのか迷いなのかはわからない。そこがアンナの弱いところかもしれない。

問答無用にマスターキーを発動させたユニザと、真っ先に手段を選んだアンナ。どちらが強く、そして正しいのか。

そんなこと、俺には分からない。

ただ、俺は逆らわない。サティヴァーユに逆らわない。総責任者であるサティヴァーユが指示したことを俺は実行した。

俺の中にサティヴァーユに逆らうという道はない。絶対にない。


書類をまとめて、次の作業に移る。

明日、もっと緊張してあの子たちは俺の前に並ぶだろう。

とても楽しみだ。

上がる口角を掌で覆い、俺は眼鏡を外した。


まだ仕事は終わることは無いだろう。

でも俺は別に嫌いじゃないから。この生活が嫌いじゃないから。人を騙すこともある。人が傷つくさまを身近で見ることもある。血の冷たさに触れることだってある。

でも俺は嫌いじゃないから。

この嫌いじゃ無い、の言葉が向かっている先がどこなのか俺には分からない。俺が立っている場所もわからない。ただ、俺のどこかをサティヴァーユが縛っていることは確かだった。縛られるのは嫌いじゃない。自分が何か間違っているということになっても、その人にやんわりと責任を押し付けることができるから。どこかに必ず逃げ道があるから。

だから。ここに居れば安全なのに。

それなのに時々ディガが脱走をしようとするのは本当に理解できない。ここに居ればいいのに。ずっと、ずっと。ここで兵器として生活していればいいのに。

俺とディガの考えは絶対に交わることが無いのだろうな。

ディガは俺のことが好きなのだろうか。脱走したアイツを捕まえる回数が一番多いのはこの俺だろう。もうアイツの保護者のようになっている。


俺はカップを握った。無理矢理飲み込んだコーヒーは冷めていた。




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