表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユノクトリの解錠師  作者: 顔面オーブン
第一章 解錠師と悪魔憑き
1/20

#1

昨日開封をしてハンガーにかけて置いた軍服に袖を通す。形が決まっている髪留めを先日バッサリ切った髪につけて、首元にスカーフを巻いた。帽子着用の義務はなかったはずだ。ベッドの上に置いてある書類をもう一度確認する。確かにそう書いてあるので、帽子はテーブルの上に置いておく。真っ白の手袋をきゅっとはめて姿見に映る自分の姿を確認した。

変な点は無い。大丈夫、完璧だ。

正式な就任が決まってから初めての出勤の日だ。今日は主に就任式を行う。

国直属の悪魔憑き管理塔。そこで私は働くことになった。

凡人が持つ魔力は少ない。その魔力を操り、調整し、それを自在に使うことができる優秀な人間だけが就くことができる重要で誇り高き仕事である。


私は鏡の中の自分の顔を見つめた。

むっすりとしたつまらなそうな顔をしている自分。これで良い。こうで無くてはいけない。こうして国の未来を任せられている現場に足を踏み入れるわけだから、気を緩めてはいけないのだ。

ふと自分の部屋の入り口で遠慮がちに私の着替えを見ている人物の存在に気付く。


「おばさん。私のことなら心配は要りません」


何か言いたげな彼女の様子に私は先に口を開いた。

自分に部屋を貸してくれている人だ。親切な人で私を心配してくれる。だから好きだし、それと同時に迷惑をかけたくないと思っている。


「貴女はしっかりしてるけれど、それが心配なのよ。ユニザ、もう少し肩の力を抜いてみたらどうかしら?」


そう言いつつ柔らかな笑顔を作る。

私にそんな表情を望んでいるのだとしたのならそれは無駄なことだ。

私は頷くだけ頷き、自分の姿をもう一度確認する。新品の軍靴を履いて立ち上がった。持ち物を確認してバッグを掴んだ。

遅刻は厳禁だ。ここまで頑張ってきた。懐中時計を開く。時刻は計画通りである。私は努力をしてきた。続けてきた。だからここでくじけるわけにはいかない。

この時を待っていたのだ。国のことのことが私にかかっている。と言っても少しだけかもしれないけれど。

私は選ばれた人間ではない。じゃないけれど、選ばれるように努力をしてきた。


「わかっています。ほどほどにします」


そうは答えても、心の中ではそんなことは一ミリも思っていない。さっさと昇格して地位を獲得しよう。

私はおばさんに敬礼をして横を通り過ぎた。

大きな責任を背負っていくことになる。そのことの覚悟はできている。私にしかできないことを探そう。戦おう。

腰に下げている鞭と銃に指を這わせる。スカーフを調整する。そんな落ち着きのない自分の動作に苦笑してからきびきびと歩き出した。


町の中心にある施設にはいわゆる悪魔憑きが収容されている。

悪魔憑きは名前の通り悪魔を体の中に封印している人間のことだ。人間と言っても彼らに人権はないと考えてもいい。

国の戦争の道具として使われるのなら与えられる。国の戦争の道具として生きるか、悪魔憑きとして国に管理されるかを自分で選択する。

私が働く場所は、そんな悪魔憑きの中でも国のために戦争の道具として生きることを選択した悪魔憑きを管理してまとめている場所だ。

緊張感の漂う場所だということは理解している。勉強を重ねてきたのだから。

悪魔憑きの中の悪魔は普段は封印されているが、私たちのように凡人の中で魔力を操ることができる人間がその悪魔の力を開放することができる。

その力を手に入れるために修行を確認してきた。


建物の前まで来ると、私と同じように就任を迎える人たちがいた。

その人たちと関わる気にもなれない。

とりあえず頭を軽く下げながら会場に入って行くことにした。

悪魔憑きが収容されている建物と国のことをまとめている建物の隣にあるドームで、先日行われた試験に合格した者の就任式が行われる。

私のように早目に就任式の会場に足を踏み入れている人間は数十名しかいない。みんなこの仕事の重要さを理解していないらしい。私たちが任されているのは国の未来なのに。


私は真剣みの無いみんなの表情にため息をつきながらも自分の席を探した。

エリートの仲間入りを果たした私たちの席はなかなか豪華なものだ。

赤と金を基調とした椅子はさほど高価なものではないようだがその椅子の前のテーブルにはクロスが掛けられていた。その上の料理と側に置いてあるワインからは上品な雰囲気が漂ってきていた。

自分の席を見つけて早速腰かける。

何かの肉をあぶってソースをかけ、野菜を添えた小腹を埋める程度の量の物。

私はそれをしばらく眺めていたが、突如として響いたその音に背筋を強張らせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ