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二話 明確な異変

 男子の大多数は好きであろう教科、体育。

インドア派が増えつつある現代でもその人気は健在だ。


――ただ一つの種目を除いて。


 校庭に設けられた一周400メートルのコースを黙々と走り続ける持久走。

体育のやる競技の中で一番疲れるといっても過言ではないだろう。

文化部所属や部活無所属者は体育の度うなだれながら校庭に向かうことになる。


 葉介はバトミントン部だ。

が、例に漏れず、皆同様気だるそうに自分の番が来るのを待っていた。


「八周目ー、頑張れー」


ラップタイムを書くシャーペンの字もそれはそれは乱雑で、ため息ばかりつく口元も見れば瞭然のへの字だ。

周回数を増すたびに疲れてゆくA班を見るたび、比例して気だるさは増していった。


 ついに教師のホイッスルが響く。

交代の時だ。


 地上まで届きそうな勢いの吐息があちこちから聞こえてくる。

ふらふらと駆け寄ってきたバディの友人はついに倒れこみ、目をつぶってしまった。


「……んじゃまあ行ってくるわ」


友人はぜーはーぜーはー言いながらもなんとか右手で応答した。



*



 今何周目か。どんくらいか。

揺れる景色を見ながら、時折くるがつんとくる頭痛と眩暈に耐えながら、周回数が重なるのを待った。

足は独立した動きをしている。最早"動かしている"という実感はなかった。


――三週目ー


 朧げに鼓膜を揺らした声は確かに友人のがら声だ。

ん? 待てよ。今あいつ……。

葉介は思った。


三週目? 三週目だと?

つまり二キロと少ししか走っていないのか?


 もう八周以上の疲れが来ていた。おかしい。明らかに。頭も上手く回らないほどだ。

この疲れと呼吸に比例した周回数じゃない。


いくら"燃費"が悪くても、意識さえしっかりしてれば周回数なんて聞かなくてもわかるレベルだ。

しかし、現在の葉介は八周走った時以上の疲労以前に、意識さえしっかりしない。


「んだこれ……あ……」


どれだけ調子が悪くてもノルマの七周ぐらいはクリアしていた。

それがこの体たらく。たまらず葉介は呟き、ついには立ち止まった。


両手を両ひざに付き、砂埃立ちこむ地面を見つめる。

止まったから楽になるだろうと思う呼吸は整う気配がなかった。

汗の雫が額を伝い落ちる。ぽたぽたと落ちていく汗達に、鼻から出た違う水が混じる。


 まさかと思い鼻をぬぐうと、べっとりと血が付着していた。

それも尋常ではない量だ。拭った後から後からあふれてくる。


まだ呼吸は整わない。汗も止まらない。眩暈も増すばかりで、出たばかりの血も止まらない。

周回していく男子達の中で一人、葉介は満身創痍だった。


――誰か来てくれ。


そう静かに、苦節懇願した後不意にそれはやってきた。


 時が止まり、音が止まる。

ふっ、と体が浮いたように思えた次の瞬間、葉介は平行感を失い倒れていた。

ストップウォッチとにらめっこしていた教師が顔面蒼白で駆け寄る。


「おいおいおい、どうしたどうした」


 教師の目には、自分以上に蒼白な顔に、血化粧をあしらった葉介の顔が映りこんだ。

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