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一幕 紅桜、吉法師と相見える

一幕です。ようやく主要人物が一人出ます。タイトルから・・・分かってください、誰かを。

「・・・ここが尾張なら、あの城はきっと那古野城か?いや、違うか・・・?とにかく誰か人を見つけないと・・・」



桜也はひたすら城下町を目指して歩いていた。ただ、歩いていたため時間はかかる。


そして、川沿いを歩き始めた時だった。



「せいっ!」

「うわっ!」



二人の声とドスン、という音。



(・・・近くで相撲でもやってんのか?それとも柔道?)



川沿いを歩いていて聞こえてきた音。推測できるのは相撲。



「くっそー・・・やっぱり強いですよ吉法師様・・・」

「あたしに勝とうなんてまだまだ早いよ!もっと実力をつけてくるのだな!!」

「まだ!もう一回!!」

(・・・吉法師・・・?)



聞いたことある名を頭の中で反芻する桜也。そして愕然とした。



(待て、吉法師って信長の幼名だぞ!?というか女!?信長が女だと!?)



混乱。桜也が知っている信長は男。しかし、今相撲をしている少女は吉法師と呼ばれた。吉法師は信長の幼名。つまり彼女が信長、ということだ・・・



「・・・誰だ!」

「っ!」



混乱にどうすることもできず立ち尽くしていたその時、吉法師が桜也を見つけた。



(・・・しまった、見つかった!)

「・・・む?お前・・・なかなか変わった服装をしているな。何処の者だ?」

(・・・下手に『未来人です』とか言うのはマズい・・・!なら誤魔化すか・・・!出来るだけ昔の言い方にして・・・)



とっさの判断で誤魔化すことを決定した桜也。そして彼が口にしたのが・・・



「生まれ故郷は忘れた。俺は行く先無く流離う風来坊故・・・」

「・・・ほう・・・名は?」

「・・・鬼頭、紅桜」


























この瞬間、『鬼頭きとう 紅桜べにざくら』が誕生した。






































那古野城では・・・



「吉法師様がいない!!」

「またいつもの外遊びだ。まったく、そろそろ次期党首としての自覚を持って欲しいものだ・・・」

「し、しかし政秀様・・・」

「問題ない。吉法師様はまた無邪気な笑顔と共に帰ってくるさ」



いつものことだ、と部下の狼狽を制するこの男は後の信長・・・今は吉法師の教育係の平手政秀だ。吉法師の行動はいつものことだ、そろそろ自覚を持って欲しいと呆れて言っていた。



































「・・・鬼頭紅桜?聞かぬ名だ」

「放浪していた故、聞くはずがないだろう」

「それもそうだな・・・。紅桜といったか?」

「・・・何だ?」

「少々こいつらとの相撲も飽きてきた、お前と一度勝負がしたい!」



吉法師は紅桜に宣戦布告をした。



「・・・俺としては丁重に断らせてもらいたいのだが・・・」

「何故だ!」

「女子と戦う、というのは少々気が引けるのでな」



紅桜の本来の意思は『弱気を助け、強きを挫く』。相手が強かろうと、女子なら『弱き』に分類している。それが今の紅桜だ。



「あたしをそこらの女子と一緒にするなよ?」

「・・・そこまでの自信があるなら・・・いいだろう、受けて立とう」



吉法師の挑発に敢えて乗った紅桜。



「どうぞ、褌です」

「・・・いや、いい。このままでやらせてもらおう」

「あたしを馬鹿にしておるのか?だとしたら・・・その余裕、打ち砕いてくれるわ!」



お互いが輪の中に入り、構える。



「はっけよい・・・のこった!!」



少年が号令をかけたその瞬間だった。



パァン!!

「みゃうっ!?」



紅桜は吉法師の目の前で柏手を打ったのだ。つまりは猫騙し。当然吉法師は驚き、可愛らしい悲鳴を上げる。



「はあっ!!」

「わ、わっ、きゃうっ!!」



そのまま上手投げを決めた。秒殺とはまさにこのことを言う、といっても過言じゃないくらいだ。



「う・・・うぅ~・・・」

「・・・これが俺の実力だ」

「ま・・・まだ負けたとは言ってない!それにあれは反則だ!目の前で柏手を打つなど反則だぞ!!」

「(・・・そうか、そういえばまだこの時は猫騙しはルールに入ってなかったのか)・・・分かった、今度はそれを使わないでおこう」

「絶対だぞ!!いいな!」



そうして吉法師と紅桜の二戦目が始まった。・・・が。



「ふみゅっ!」



秒殺一回目。決まり手は蹴返し。



「わきゃうっ!!」



秒殺二回目。決まり手は内無双。



「ふえぇっ!!」



秒殺三回目。決まり手は一本背負い。・・・ここまで来ると清々しいほどに強かった。周りの少年たちも、



「あの紅桜って人・・・吉法師様を一回も勝たせないでいる・・・凄い・・・」

「あそこまで強い方が、何故士官なさらないんだろう・・・」



等と驚愕と称賛の声を上げていた。


















「きゃん!!」



そして通算一九回目の秒殺が決まった時。



「・・・これくらいにしてもらえないだろうか?そろそろ良心の呵責を感じるのだが」

「ま・・・まだ負けたなどと言ってない!!あたしはまだ負けておらぬ!!」

「・・・しかし、これ以上続けるのは流石に不味いと思う。あちらを見ろ、陽が暮れ始めている」

「う・・・」



西を見ると、陽が山裾に隠れ始めていた。



「今日は帰られよ。俺は何度でも、そなたの相手をし続けよう」

「う~・・・!ぜ、絶対!絶対だから!一度でもお前から勝ちを奪ってみせるからな!!」



吉法師は少年達を引き連れ、帰っていった。



「・・・久しぶりに相撲をしたな・・・。まさか猫騙しがあそこまで通用するとは思わなかった」



紅桜はその場に残り、そう呟いた。



「・・・さて、俺もそろそろ城下町で宿を探さないとな。途中で御尋ね者でも捕まえられたら御の字だが」



城下町へ向けて再び歩を進める紅桜であった。


















なお、途中で御尋ね者を見つけ、襲うつもりのそいつらを返り討ちにして逆に金を得てしまったのは余談である。



































那古野城。




「吉法師よ、今日は荒れているな。何かあったか?」

「父上!荒れたくもなる!今日会った紅桜という流浪者に相撲を挑んで全敗したのだから!」

「・・・ほう、お前を負かしたのか。是非とも顔を見てみたいものだ」

「信秀様、そのような流浪者に会う等以ての外ですぞ!!」



家臣に諌められる吉法師の父であり尾張の古渡城主・織田信秀。彼は今、娘の吉法師のことを見るために那古野城へ来ていた。



「長秀よ、そ奴は吉法師の無理矢理な挑戦を快く引き受け、負けず嫌いなこ奴の連戦をも引き受けてくれたのだ。普通ならばここまでしてくれることはあるまい?」

「それは・・・そうですが・・・」

「それについては翌日決める」

「はい、承知致しました」



長秀と呼ばれた男は襖を開けて部屋を出た。残ったのは信秀と吉法師。



「吉法師・・・いや、『姫香』よ」

「何でしょうか、お父様?」

「お前の目からした紅桜という者、如何様な者か?」



信秀は吉法師・・・いや、「姫香」と呼ばれた少女に改めて問い正した。



「私の目から見た紅桜は・・・やはり強いということは否定しません。ですが・・・その強さの中に優しさがある、そう見ました・・・」

「・・・ふむ、お前からしてそのような言葉が聞ける紅桜とやら、是非とも召抱えたいものだな」



このような会話が、那古野城でされていた・・・
































「すみません、ご老侯。無茶を聞いてくださり、光栄この上ありませぬ」

「構わぬよ。こちらとて盗人を捕らえて奪われたものを取り返してもらったのじゃ、これくらいの礼はさせてもらわねば罰が当たるわい」

「では、お言葉に甘え、一宿一飯、させていただきます」



紅桜は城下町で早速盗人を撃退し、盗品を返した時にそのお礼として老人の家に泊めてもらっていた。



(明日は・・・城を見に行くかな・・・。それにしても・・・吉法師・・・いや、後の信長か。まさか彼女がそうだとは思わなかった・・・)



彼はこの日の劇的な出会いを反芻し、そのまま眠りに着いた。

次回はさらにもう一人出会います。タグにある通り史実改変がありますので。



感想、待ってます。

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