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十三幕 姉と妹、派閥と謀反 中編

織田家御家騒動中編となる13話です。


信長が尾張を完全に手にするこの御家騒動、どういう結末になるか・・・







この戦い、結果は本編にて。

信長の妹、信行の謀反。知らせを聞いてから僅か二日で築かれた名塚の砦。そこに信長の姿があった。



「・・・何故・・・」



信長は『何故信行が謀反を起こしたのか』が分からないままでいた。誰かに尋ねたくても周りも慌ただしくなっており尋ねられない。本人の口から言わせたいものでもあるがその本人もいない。彼女は今、一 人で悩んでいたのだった。



「・・・桜也、私・・・何か間違っていたのかな・・・」



俯く少女に『うつけ』と呼ばれた面影はなかった。そして彼女は気付いていなかった。自分の近くに愛する者・・・桜也の姿がないことを・・・












































「べ、紅桜、様?な、何故最前線に?」

「・・・理由はねえ、あったとしても・・・鬼柴田と戦ってみたかった。ただそれだけだ」



砦入口前。数多の兵がいるその中に、目立つ存在がいた。その存在・・・紅桜はただありきたりで突拍子もない理由で最前線にいた。唯一の手兵ともいえる藤は砦内部の防衛に就かせている。単騎、鬼柴田とぶつかる気でいたのだ。



「し、しかし!相手はあの鬼柴田と恐れられた柴田権六ですぞ!?戦ってみたいなぞ、正に死にに行く様!」

「・・・一度命を落とした身だ、二度三度死んでも変わりねぇさ」

「・・・紅桜、様・・・」



何処か意味深で自虐的なこの言葉に、一斉に二の句が継げなくなっていた。



「・・・まぁ、何れにせよ敵軍は来るさ。カチあって生きていられるかいられないか、の違いだけだよ」



その言葉に、最前線にいた全員が「おぉ・・・」と感嘆の言葉を漏らしたとかどうとか・・・












































そしてその二時間後のことだった。



「伝令!伝令っ!!現在、名塚方面に柴田権六・林美作守率いる部隊を確認!」

「して、その数は」

「・・・おそらく、1500は超えるかと」

「なっ!?」



信長が引いてきた兵数は僅か700。敵は少なくともその2倍もの兵を連れてきたのだ。信長が焦るのは仕方のないことであった。



「数の差では圧倒的不利・・・しかし・・・負けてなるものか・・・!」

「伝令!!」

「今度は何だ!」



そう呟いていた所に現れた新たな伝令兵。その伝令兵が告げたのは・・・



「紅桜様が単身敵軍に突撃したとの報告が!!」



というものだった。



「な、なぁっ!?」



この報告に、流石の信長も驚きを隠せないでいたのだった。












































一方前線では。



「くっ、多勢に無勢・・・このままじゃ数の暴力で押し切られる・・・!」



桜也のいない前線は、林通倶の兵全てと柴田勝家の兵大半に攻め込まれていた。



「このままでは・・・このままでは信長様の元に敵が・・・ぐあぁっ!!」



圧倒的な戦力差に、前線は半壊していた・・・












































一方。



「・・・名塚の砦は前線部隊がなんとか凌いではいるが・・・私はこのまま何事もなく終わってほしいと思っているよ・・・」

「勝家様・・・それは一体どういうことで?」

「うつけが・・・いや、信長公が織田を継いだのは、信長公の意志だけではなかった。・・・信秀様の御遺志もある。それに逆らってまで謀反を起こすべきではなかったのやもしれぬな。・・・私も事を急いたようだ」



勝家の言葉に、周囲の兵はそれを思い出して項垂れた。信長の名乗り上げが完全な原因ではない。それを知ってまでの謀反・・・このことを悔いていたのだ。


そこに・・・



「・・・柴田権六、勝家殿で宜しいか?」

「何奴!!姿を見せよ!」

「真正面。俺は逃げも隠れもしないよ」



突如聞こえた声に、周囲の兵が警戒する。・・・が。



「よい、一度聞いたこの声を忘れるものか。・・・紅桜殿であろう?」

「御明答。流石にあの時は暴れすぎたか?」



声の通り、真正面から現れた少年、・・・紅桜と対峙する勝家。



「目的は・・・私の御首みしるしか?」

「・・・いや、今回の謀反の原因を知りうる上で話を取り合ってくれるだろうと思う人に会いたかっただけだ」



剣を腰に収め、馬から降りる。そして改めて向き合った。



「・・・勝家殿、教えてほしい。今回の謀反、本当に信行殿の本心から起こしたものなのか?そうでないなら、発破をかけたのは誰か?」

「・・・」



単純かつ回答に困るような問いかけ。それに対し一時黙る勝家だったが・・・



「・・・ここは戦場。答えを知った所で停戦なぞ結ぶこともあるまい?」

「・・・確かに・・・答えを聞いても停戦なんてできっこないよなぁ・・・!要は・・・勝てば教えるということだろ!!」



紅桜が言いきったと同時に両者がぶつかり合う。瞬間、周りの兵が大慌てで離れていった。



「お、鬼柴田と血桜の一騎討ち!?」

「まさか、生きている間にこんなものを見られるなんて思わなかった・・・!」

「・・・ここも危ない気が・・・」



金属同士がぶつかり合う音が辺りに響く。その戦いは他者から見れば、恐らく常軌を逸したものだと思えたほどだった。












































「信長様、ここに攻め入られるのも時間の問題・・・すぐにお逃げを!」



信長軍は多勢に無勢という状況であり、被害もまた大きなものへとなりつつあった。小豆坂七本槍の一人、佐々(さっさ)孫介が討ち死にするなど、自軍の武将を何名も失ったのだ。



「・・・だが・・・逃げるわけには・・・!それこそ世の・・・尾張の笑い物になる・・・」



信長が下を向いたその時だった。



「信長、覚悟っ!!」

「っ!」



柴田軍の兵が前線を突破し、彼女の元へと攻め入ったのだ。意識を別の方に持っていっていた信長には隙ができており、このままでは殺される・・・と思われたその刹那。



「させん!!」



割って入った一人の男に助けられる。割って入ったのは織田信房だった。遅れて森可成よしなりが前に立つ。



「信房・・・可成・・・」

「信長殿、ここは我らにお任せを」

「貴女だけでも・・・どうか無事で」



討死覚悟で奮戦を誓う二人に、信長は背を向け・・・砦の抜け口とは違う方へと走り出した。



(・・・この戦いは謀反という形の内輪揉め・・・北の斎藤・東の今川という脅威が残っているというのにこの体たらく・・・父上に顔向けできんではないか・・・!!)



信長が走っていったのは・・・抜け口ではなく砦の正門。・・・戦意を削ぐ、という目的で向かいだしたのだ。そして正門に到着し・・・信長は叫んだ。



「我が信長軍、そして信行に仕えし兵よ!あたしの話を聞けぇっ!!」



突如聞こえた信長の声に、その場にいた全ての人間が動きを止めた。信長軍からすれば守るべき存在である信長が、信行軍からすれば敵の総大将である信長が、突然名塚砦の正門に現れ声を上げたのだから、動きを止めてしまうのは当然だった。


そのような現状など意に介さず、信長は更に言葉を続けた。



「あたしは・・・あたしはただ!父上の遺言通り・・・父上が最期に遺した言葉通り!この尾張を守り、統治する道を選んだ!平和であり・・・尾張の民が常に笑顔で暮らせる・・・そんな尾張を目指していた!!」



信長の演説ともとれそうなその言葉は、全ての兵の目線を釘づけにしていた。誰も動こうとせず、ただただその言葉を聞いていた。



「しかし今、我が妹、信行があたしに対し謀反を起こした!同時に織田家の内部分裂を決定づけるものとなった!東には松平を手中に収めた今川が、北には斎藤がいる!これらの危機が去らぬうちに斯様な争いを起こしてしまった!!これでは・・・これでは・・・!」



その後の信長の一言は、どちらの兵の戦意を完全に削ぐ一言となった。



「何人たりとも・・・何人たりとも父上の墓前に顔向けできようものではないではないか!!父上の・・・父上の意思を踏み躙り、父上が望んでいたものを壊してしまったあたし達に・・・父上の墓前に立つことが!許されると思うのか!?」



最後の方は涙声になって叫ぶ。信長の・・・否、姫香の涙の叫びはどちらの軍の戦意を完全に削いでいた。元々どちらの兵にもこの戦いがただの内部分裂であることを、信秀の遺志に逆らっているものであるということを理解していた。


そして涙の叫びを聞いてしまっては、戦うことなどできないのだった。



「・・・もし・・・もしまだ刃向かうという者がいれば・・・あたしが相手をする・・・!」












































「・・・怒号が・・・消えた?」

「・・・この戦、私等の負けじゃな」



何十、いや、何百と討ち合った両者は、怒号が聞こえなくなったという理由で戦いをやめた。雰囲気で勝家が負けたと宣言したのだ。



「何故?可能性としては此方が負けた可能性もあるが」

「あまりにも短時間で怒号が消えたものだからな。砦とはいえ信長公がそう簡単に討ち取られるわけではあるまい?」



直後、名塚砦の方から歓声が上がった。そして勝家の元へと走ってくる兵が。



「林美作守、討死!他、数十名の死亡も確認されました!!我が軍の戦意は喪失したものと思われます!」

「・・・なるほどな」



知らせを聞いた勝家は、その兵に向けて一言告げた。



「前線にいる兵に伝えよ、この戦、我が軍の負けだと。すぐさま退却を始めるともな」

「は、はっ!!」



兵はそう言われてすぐに向かう。勝家はそのまま紅桜に顔を向けた。



「・・・我らが姫、信行殿は今回の計画は・・・快く思われていない。寧ろ姉君である信長殿に刃向かうことを拒絶しているほどだ。・・・立案したのは林美作守と・・・私だ」

「なっ・・・!」



唖然とする紅桜に対し、勝家は言葉を続けた。



「・・・だが、今の私の思いは違う。今、尾張を治めるに相応しきは信長殿だと。・・・紅桜殿、頼みがある」

「・・・頼み?」



勝家の言葉を待つ。告げられたのは予想外なものだった。



「信行様は・・・万一信長殿と刃を交えし時は己を討ってほしいと願っておられる。・・・私の頼みは・・・信行様を殺さないでほしい。領地を取り上げる結末でもいい、私達の命を全て投げ捨てる結果になってもいい。・・・だが、命だけは・・・信行様の命だけは奪わないよう嘆願したいのだ」

「・・・尽力してみよう」

「痛み入る」



勝家は一礼した後踵を返し立ち去った。



「・・・勝家、あんたの願い・・・しっかり聞いたぜ。後は俺がなんとかするよ・・・。大切な主の命も・・・忠臣の鏡といえるあんたの命もな・・・!」












































数日後、信長らの母・土田御前の嘆願によって助命された信行は、己の足を以て謝罪を行った。が、信行が謀反を起こした理由を告げなかったため、信長は彼女を疑ってしまう結果になった。


同じくして、謀反を行った信行勢の諸将は、勝家、秀貞を筆頭に生き残ったもの全てが許された。











































しかし、桜也にとってのこの戦いはまだ終わっていなかった。最後の戦い、それは・・・



























































・・・勝家の願いを叶え、再び仲の良い姉妹に戻すこと、ただそれだけのことだった。

今回、特に史実変更点はないです。ただ、信行が謀反を起こしたその理由とかは創作なのでご了承ください。




次回は御家騒動後編。勝家の願いを聞いた桜也はどう動くのか、信行は許されるのか、勝家の願いは叶うのか。






総ては次回、刮目して待て!













追記

大分前の活報で言ってた通り、今川義元は女の子になります。扱いとかは何となく決めている段階なのでどんな子になるのかは出てきてからのお楽しみということで!

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