十二幕 姉と妹、派閥と謀反 前編
十一幕後書きで「前後編に~」と書いてましたが、内容の都合上、前中後の三編に分けることにしました。
今回はその前編・・・タイトルから何のことかが分かるかと。
尾張は平和だった。政秀が死んでしまうという事態はあったものの、当主である信長・・・姫香は立ち直り、周囲の力を借りてどうにか尾張を治めることができるようになった。・・・が、あくまで段階は「治めることができるようになった」だけなため・・・
「姫香、例の如く小さい一揆が発生した。場所はいつもの如くだからな」
「・・・うぅ・・・また・・・?」
このように、一揆が発生していたりしていた。姫香は施政を頑張っているが、それを認めているのは桜也と美夜くらいなのだ。それ以外は微妙な所だったり。
「・・・ほぼ一月間隔で発生していますね、ここの一揆」
「・・・私、何かやっていけない事でもしたのかなぁ・・・」
「そんなことはないと・・・思いますよ?」
直後、「今の間は何!?」と食らいつく姫香をどうにか宥める桜也がいたりした。
しかし、尾張の平和はそう長く続かなかった・・・
織田信行・・・姫香の妹が、柴田勝家・林秀貞を味方に引き込み、謀反を起こそうとしているのだ。過去、姫香が義父・斎藤道三の弔い合戦を行ったが敗走したのが原因で、器量を疑われたのだ。
「・・・いくら信秀様が後を継がすと申そうが・・・あのうつけに尾張を治める器量等あるものか!?」
末森城。そこには複数の男達と、一人の少女がいた。先程声を荒げていたのは林通倶。それ以外では・・・鬼柴田と呼ばれる人物、柴田勝家もいた。
「勝家、姉上の器量、どう思う?」
「・・・失礼、其には言葉を持ち合わせておりませぬ故」
「そうか・・・。・・・姉上・・・」
そして信行もまた・・・考えていた。
「・・・よし、姉上に対して謀反を起こす。我死に場所を求めんと思う者はついてくるがいい。その命、私が預かろう!!」
その言葉に、全員が頭を下げた。
「軍議はこれにて終い、各々悟られぬよう準備せよ」
『はっ!』
家臣たちが去り、残ったのは信行だけとなった一室。
「・・・姉上ぇ・・・私は・・・私は姉上と戦いたくないよ・・・」
一人残る信行は、誰も聞かぬ独り言を・・・姉への本心を呟いていた。
「・・・もし・・・もし私と相見えたその時は・・・
・・・戸惑うことなく私を討ち殺して・・・」
そんな事等露知らず、那古野では・・・
「桜也様、朝d・・・」
朝、桜也を起こしに来た美夜は思わず言葉を失った。そこには・・・
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
今見えている部分全てが肌色な姫香が、紺色の服を着ている桜也に抱きついていたのだ。心地良さそうに眠りながら。
「・・・ど、ど、ど、ど、どういうことですかぁ!?」
「・・・ふわぁ・・・なによぉ・・・もぉ・・・」
「ひ、ひ、ひめかしゃま!?にゃ、にゃんでおうやしゃまとい、いっしょに!?」
寝呆け眼を擦りながら起き上がる姫香に、何を言っているのか分からないほど噛みながら聞く美夜。よく見れば姫香は全裸ではなく、寝巻を着ていた。・・・端に寝相が悪くて寝巻の着付けが緩み、中途半端に脱げていたのだ。
「・・・邪魔が入った・・・」
「邪魔!?邪魔って今言いませんでした!?」
若干ヒステリック気味に叫ぶ美夜に対し、明らかに嫌そうな顔で応対する姫香。・・・しかし。
「あっ!?」
「桜也様は渡しません、譬え相手が姫香様であっても!」
「桜也はあたしのものよ!?」
煩そうに額に皺を寄せる桜也。そろそろ起きようと腕を動かそうとした・・・が。
「・・・あれ」
腕が動かせないことに気付く。・・・その理由は・・・
「・・・お前らなぁ・・・朝っぱらから何してんだよ・・・」
「桜也様は渡しませーんっ!!」
「煩い、いい加減諦めろ!!」
こういう言い合いが繰り広げられていた・・・
そんなある日。
「紅z・・・じゃなかった、桜也様?」
「・・・・ん?・・・ああ、藤か・・・」
藤(藤吉郎の親名。姫香は「猿姫」と名付けたかったようだが親名があることを聞かされ、仕方なく(本当に仕方なさそうに)諦めた逸話あり)に不意に聞かれ、どこか上の空な返事をした桜也。
「どうしたの?ぼーっとお空を眺めてたけど・・・」
「・・・最近な、不穏な話を聞いてどうしたもんかと」
「不穏な?・・・え―っと・・・もしかして姫香様の妹君の?」
「そうそれ」
実は人の心内を察することに長けている藤。桜也の内心をあっさりと察した。
「聞いたとこだと鍛錬が実践並みになってきたとか鍛冶職人が出ずっぱりだとか・・・・黒い噂がな」
「うーん・・・そういう話を聞くと、その黒い噂が本当って気もするね」
「けどなぁ・・・」
そこで桜也は一度言葉を切った。
「・・・あの行動見て謀反起こすのが不思議で仕方ないんだよ」
「あの行動?あの行動って・・・どんな行動?」
桜也の言葉に出てきた「あの行動」。意味も内容も理解できない藤は当然聞き返す。
「まだ信長が元服する前の話だけどな、信行が一度こっちに遊びに来たことがあるんだ」
「ほえー・・・」
「まだ家臣も碌にいないし、可愛らしい一城主、という感じだったんだ。そんな彼女の行動だけど、ずっと「姉さま、姉さま」と信長の後をついて歩いてたんだよ。お姉ちゃん大好きー、って感じで」
「・・・そう聞くと本当に不思議だよ・・・」
「つっても1~2年ほど前だけどな」と付け加えた桜也。それを聞いて尚更首を傾げる藤であった。
その間、信長らは居城を那古野から清州へと移るなどして、月日が流れた。そんな中8月のある日・・・
「信行が謀反!?」
「その他、柴田勝家、林兄弟も同様に!」
清州に飛び込んできた衝撃の知らせ、それは信長の妹・信行が勝家、林兄弟を率いて謀反を起こした、というもの。
「・・・何故?そして・・・どうして今頃・・・?」
2ヶ月程前、信長が那古野へ行った時、林秀貞・通倶兄弟に謀殺されそうになるという事件があったばかりだった。そして・・・この問題が発生した。
「・・・まずい、このままではすぐに攻め込まれる・・・盛重!佐久間盛重は何処か!」
「直ぐ、直ぐお呼び致します!!」
伝令として来た兵士が、すかさず盛重を呼びに向かい、数分後には盛重が到着した。
「姫、火急の知らせに何用で」
「盛重、至急名塚へと向かい砦を築け!猶予がない、直ぐに向かえ!」
「はっ!」
盛重は命令を受け、すぐさま名塚へと向かった。
盛重から砦の完成を聞いた信長は、すかさず手勢を率いて名塚へと向かった。その兵、僅か700だった。
次回・・・通称『織田信行謀反編 中編 稲生の戦い』です(タイトルはこんな長ったらしいものではないんですけどね)。
ちらっと感想やらメールの方やらで話が挙がったある人物もきちんと出てきます。・・・後々の方まで考えてたらなんかやけにかっこよくていい人になった謎。・・・それでいいんですけどね。