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九幕 父の死、娘に託された思い

信長にとって重要なシーンその1、父親の死です。


・・・が・・・史実とは違ってますので、そこのところご了承ください。

信秀、病床に臥す。


その一大事ととれる話は、瞬く間に尾張に広まった。しかし、それが虚言だと言える証拠はない。
























信秀が吐血し、臥してから四日目の昼。紅桜と政秀は下女を通じて信秀に呼ばれた。



「・・・政秀殿、はっきりと申すのは憚れることですが・・・」

「・・・私も同じことを思っているところ、皆まで言わずとも分かります。・・・嫌な予感がする、というわけですな」

「ええ・・・(史実通りなら、信秀さんは流行病で死ぬ。で、信長がうつけととれる行動を父の棺桶の前で行う・・・だが・・・呼びだすなんて行動はなかったぞ・・・?)」




疑問を持ちながら、紅桜は政秀と共に信秀の臥す部屋へと向かった。









































『失礼致します』



二人同時に声を発し、中に入る。中にはやはり、今までの威厳を感じられないほどに衰弱した信秀が臥せていた。



「・・・信秀様、お労しや・・・」

「・・・おお・・・紅桜に・・・政秀か・・・げほっ!げほっ!」

「信秀殿、無理をなさらずに!」



二人が来たことに気付いた信秀が、安堵したような声を発し、咳き込む。即座に紅桜は信秀に無理をしないよう叫ぶ勢いで言った。



「・・・はは・・・『尾張の虎』と呼ばれた儂も・・・病に罹ればこの無様よ・・・。・・・二人とも、儂の最期の言葉として・・・聞いてくれ・・・」

「そんな・・・最期だなどと言わず・・・」

「・・・自分の命は・・・自分が一番分かる・・・」



弱々しく告げる信秀に、紅桜は何も返せなかった。



「・・・尾張は・・・信長に継がせる・・・。今までの愚行を鑑みて・・・相反する者は多かろう・・・」

「否定は・・・できませぬ・・・。信長殿は・・・紅桜が来てからは幾分かはうつけることはなくなりましたが・・・それまでが・・・」

「そして・・・二人には信長を・・・あ奴を支えてやってほしい・・・」

『・・・御意に!』



二人が平伏して信秀最期の命を受ける。



「・・・して・・・紅桜よ、お前には別に頼みがある・・・」

「私に・・・ですか?」

「・・・では、私めは退散致しましょう。個人への願いを他者が聞くのは良くないですからな」

「済まぬな・・・政秀・・・」



政秀は部屋を出て、歩いていった。足音が聞こえなくなったところで、信秀が口を開いた。



「・・・紅桜・・・いや、桜也よ・・・」

「・・・っ!どうして・・・本名を・・・」

「突然のことで・・・驚かせたようだな・・・。姫香が・・・呟いていたのを聞いてな・・・」

「・・・姫香・・・」



頭を抱える桜也。まさか姫香から本名が漏れるとは思ってなかったからだ。



「今この時だけは・・・紅桜としてでなく・・・「鬼頭桜也」として・・・話をしてくれ・・・」

「御意・・・じゃなかった・・・ああ・・・」



畏まった口調から、ややぶっきらぼうな口調になる桜也。



「・・・ありがとう・・・。儂からは・・・娘を・・・姫香を・・・お前に・・・預けたいのだ・・・」

「預けるって・・・一体どういうことだよ・・・」

「端的に言えば・・・お前の妻にする・・・ということだ・・・。お前の手で・・・姫香を・・・幸せにしてやって・・・ほしい・・・」



姫香を自分の妻にする。つまりは姫香と結婚してほしいということ。当然桜也は困る。



「・・・俺は・・・この手を血で染めすぎた・・・。・・・そんな俺に・・・人を幸せにする資格なんてねぇよ・・・」

「・・・大丈夫だ・・・」



自嘲気味に告げた桜也に、信秀が声を発した。



「・・・お前よりも血を浴びた儂が・・・妻を娶り、子を設けたのだ・・・、お前にもある、人を幸せにする資格が・・・」

「・・・っ・・・」



痛い所を突かれ、桜也は二の句を告げないでいた。信秀からすれば自分はまだ青二才、まだ人を幸せにできると言われたのだ。



「あくまで・・・最終決定は姫香が下す、という形でいいか・・・?」

「構わんよ・・・。夫くらいは・・・自分で決めさせてやりたいものだ・・・。望むなら、お前に夫になってほしかったものよ・・・」



力なく笑うが、再び咳き込む。



「だ、だから無茶は!」

「・・・して・・・姫香への遺言を頼みたい・・・」

「・・・何か書くもの・・・っ!」



桜也は辺りをきょろきょろと見回して、筆と紙を見つけた。紙もそこそこ大きいため、ある程度の長さなら対応できると踏んだ。



「では・・・遺言だ・・・。家督は・・・お前に継がせる・・・。・・・皆と力を合わせ・・・尾張を・・・全国を平和へと導くのだ・・・。・・・そして・・・お前の夫は・・・お前自身が決めよ・・・。そして・・・例え父が死んだとしても・・・決して心を崩さぬよう・・・強く生きよ・・・」

「・・・書いたぞ・・・。これで・・・遺言はいいのか・・・?」

「・・・ああ、十分だ・・・。・・・願わくば娘の晴れ姿を見たかったものだが・・・儂はあの世から娘を見守ろう・・・」

「信秀さん・・・」

「さらばだ・・・。最期に・・・本当のお前と話せて・・・よか・・・った・・・・」



震えるほど衰弱していたにもかかわらず伸ばされていた腕が、力なく床に落ちた。以降、腕が再び上に上がることもなく、二度と目を覚ますこともなかった。『尾張の虎』と呼ばれた男、織田信秀が永眠した瞬間だった。



「・・・誰か!誰かいないのか!?」



部屋の襖を開け、大声で誰かを呼ぶ。すぐに来たのは盛隆だった。



「べ、紅桜様、ど、どうかなさったのですか!?」

「・・・今・・・織田信秀様が亡くなられた・・・」

「・・・そ・・・んな・・・信秀様・・・信秀様ぁっ!!信秀様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



盛隆が信秀の訃報を桜也から聞いた時、彼女は膝から崩れ落ちるように座り込み、泣いた。彼女もまた、桜也と同じく信秀によって織田家に拾われた身。それ故信秀を慕っていたのだ。その慕っていた人物が死んだことは、盛隆にとってもまた辛いことだった。










































信長・・・姫香が父の訃報を聞いたのは岐阜・稲葉山城にて、義妹の濃姫と遊んでいた時だった。



「・・・父上が・・・!?」



濃姫が「蹴鞠で遊びたい」と言って遊んでいた時だったため、持っていた鞠を落としてしまう。



御義姉様おねえさま・・・?」

「・・・すまない、濃・・・。あたしは直ぐに尾張に帰らなくてはならなくなった・・・」

「ううん、御義姉様の用事でしょう?なら私が引き止めることはできませんもの」

「・・・恩に着る!」



姫香は濃姫の後押しを受け、すぐに尾張へと発った。



(父上が死んだ・・・!?そんなことなど・・・そんなことなど在り得ない・・・!!だって・・・だって父上は・・・私が尾張を発つ時はまだ元気だったから・・・!!)



父親の死が冗談であってほしい、生きていてほしいと切に願いながら馬を走らせる姫香だった。









































一方、那古野城では騒動が起きていた。信秀の葬儀のことだ。嫡女の信長が帰ってくるまでやらない方がいいのではという意見とうつけが帰ってくる前に済ますべきだという意見で対立していた。



「信秀様がなくなって直ぐこの有様では・・・あの世で信秀様に会わす顔が有りませんぞ・・・」

「・・・仕方ないと言えば仕方ありませんよ、信長様の今までの行動を見ればこうなるのは・・・」



政秀と紅桜はどちらにも組しない中立の立場としてこの紛糾状態に溜息を吐いていた。ちなみに盛隆はというと。



「信長様は信秀様の嫡子なんですよ!?子が見た親の最期の姿が葬儀の時じゃないのはおかしいじゃありませんか!!」



と待機派の意見を声を上げて言っていた。ちなみに彼女が待機派なのは、彼女自身が親の最期を間近で見ていたからというのも理由の一つだ。


余談だが、葬儀については始めようと思えば始められる状態だ。



「仕方ない、葬儀は明日。信秀様の死後二日経過してしまっているが・・・信長様と信秀様の御遺体を鑑みてこれ以上これ以下の譲歩はできないものとしましょう」



政秀がどちらにも取れる譲歩案を出した時、どちらもがそれならば、と引いた。



「紅桜様、紅桜様はこのことをどう思ってらっしゃってますか?」



政秀と紅桜以外がいなくなった後、盛隆が紅桜の腕に抱きついて聞いた(盛隆は扱いとしては紅桜・・・桜也の侍女ではあるが、桜也から「侍女として扱わない、好きに行動してくれてもいい」と言われたため。ちゃっかり恋心をアピールしているのは別の話)。



「こればかりは・・・信長様を待つべきだ、とは思ってるが・・・かといって信秀様の御遺体を何時までも放置していいわけでもない・・・そう考えていた」

「・・・そう・・・ですか・・・」



しゅん、と俯いて呟く盛隆。けれど彼女には紅桜の気持ちが理解できた。









































そして翌日の昼前。信秀の葬儀が慎ましく行われた。そこには信長の姿はない。・・・が。



(・・・足音・・・?今この場で足音が出るとしたら・・・姫香か)



若干慌て気味な足音が聞こえてきたと思ったその時、襖が思い切り開かれた。



「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

「の、信長様!」



息を切らせ、着の身着のまま、と言った形で現れた信長。



「・・・父上は・・・!?」

「信長殿、辛いことと存じます・・・。信秀様は・・・」

「・・・嘘だ!父上は・・・父上は死んでいない!!何故死んだという!?どうせまたあたしをからかう為の冗談だろう!?」



部屋の入り口で目の前の現実を認めたがらない信長。頑なに『父上は死んでいない』と叫ぶ。そこには『尾張の大うつけ』と呼ばれた人間の姿はなく、代わりに父親の死を未だに受け入れられない少女の姿があった。



「・・・姫香・・・」



紅桜はそんな信長の姿を見て、誰にも聞こえない声で彼女の親名を呟いた。



「・・・政秀殿」

「なんでございましょう?」

「少々信長殿を諫めに。信秀様には・・・」



紅桜は近くにいた政秀に用件を伝えようとした。最期に贈る言葉も伝えようとした時、政秀はまるで「皆まで言わなくとも」という感じで頷いた。



「分かってますぞ、この件については私から言っておきます。信長様の事、宜しくお願い致します」

「承知しました」



政秀と小声で軽く話し、紅桜は席を立った。そして、何人かに抑えられてる信長に近づき。



「信長殿、少々お話したいことがある故」

「なんだ!?ここで言え!!」

「少々ここでは憚られること故、別室で」

「・・・分かった」



明らかにむすっとした感じで言う信長。どうにか宥め、連れ出すことに成功した。








































「・・・桜也?」

「済まない姫香・・・。俺が今から言うのはお前にとって残酷なことかもしれない・・・」

「・・・ということは・・・やっぱり・・・」



この時点で姫香の目に涙が。しかし現実を伝えなければならないと桜也は決意した。



「・・・一昨日俺に最期の言葉を託して・・・目の前で亡くなった・・・」

「・・・そ・・・んな・・・ぁ・・・」



既に姫香は涙が溢れ、零れていた。しかし桜也には使命があった。彼女の父親の最期の言葉を伝えるという、重要な使命が。



「姫香、今から俺が言う言葉は全て・・・信秀さんの遺言だ。・・・ちゃんと聞いてくれ」

「・・・うん・・・ひっく・・・」



姫香が頷くと同時に桜也は懐から一枚の紙を出す。桜也が聞き取って書いた、信秀から姫香への最期の言葉。



「『家督はお前に継がせる。皆と力を合わせ尾張を、全国を平和へと導くのだ。そしてお前の夫はお前自身が決めよ。そして、例え父が死んだとしても、決して心を崩さぬよう、強く生きよ。儂はあの世から娘を見守ろう』・・・。以上だ・・・」

「・・・ちち・・・うえぇ・・・」



最後の一文は信秀の遺言には含まれていなかった。が、少しでも姫香の心が壊れないように気遣った桜也の行動だった。



「・・・姫香、泣きたい時は泣いてもいいんだ。無理に自分で全てを背負いこもうとするな。誰かに頼っていい、誰かに泣き言を言ってもいい。辛い時は誰かに頼れ」

「・・・うぁあああああああああああっ!!」








































信秀の葬儀の日、姫香は初めて人前で泣いた。誰かに憚られることなく、悲しみを押し留めることなく、その辛さを全て流し出す勢いで泣いた。


桜也は泣き続ける姫香を抱きしめ、気が済むまで泣かせてやろうと思った。辛さが晴れるまで、彼女の心がすっきりするまで。






































そして数十分後。



「紅桜殿、そろそろ信秀様の御遺体を・・・」



政秀が紅桜を呼びに来た。が、最後までいわずに口を閉じた。



「・・・失礼、これでは動けませんな」

「・・・ええ。先程まで泣いてたので・・・」



泣いている最中に抱きつき、泣き疲れて眠ってしまった信長と紅桜を見て、政秀は仕方ないと言わんばかりの顔をした。



「紅桜殿、後をお頼み申す。信長様を安心させてやってくだされ」

「御意に。今信長様を安心させられるのは・・・私だけみたいですので」



そんな会話を交わす二人の声の中で、信長が「ちちうえぇ・・・」と呟いていた。

では今回の史実相違点です。


史実:信長が父の位牌に抹香を投げつけた

ここ:「父は死んでない」と喚き散らし、桜也と二人きりになった時に号泣


・・・ここが一番の所ですかね。あと父の死を稲葉山城で知った~葬儀開始まではこちらの創作です。





次回は・・・『サル』です。それ以外にヒントは出せません。


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