表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第三章-1

 朝一番、しつこいほどに連続して鳴るコール音に、一瞬にしておぼろげな意識から脱した霧夜は携帯電話を取ると同時に、脳裏に嫌な予感が過った。

『今日は代休でお休みっさ! あれ、もしかして着替えちゃった口かな? と、いうわけで今日の一一時から超常現象部の活動があるからよろしくねっ! 場所は駅前のハンバーガーショップっさ。そんじゃね!』

 何も聴こえなくなった電話から耳を離すと、霧夜は予感の的中に肩を落とすしかなかった。今、霧夜は学校への登校準備をしている最中だったため、空っぽの教室に行くのを未然に防いでくれたのは嬉しかったが、何も休日に部の活動予定を挟まなくても良かったのにと思ったりしていた。

(っていうか、何の代休だ?)

 心当たりがなく、学校行事の予定表とかを探してみたりするのだが、見つからなかった。どうやら、いつかの掃除の際中にうっかりと捨ててしまったようだ。今更ゴミ箱の中を漁るのは忍びないのでやらなかった。

 無駄に早起きをしたため、現在の時刻は朝の七時半。一方的に取り付けられた約束の時間には余裕があるので、二度寝でもしようかなと思った矢先、ガチャリと玄関先のロックが外れた音がした。

「やっほー、おはようっさ!」

 ドン、とほとんど壊すようにドアを開いた翁舞咲は朝の気だるい空気には少々重い、眩しすぎる笑みを携えて部屋の主の了解もなく、ドカドカと喧しい足音を立てながら入り込んで来た。

「朝ごはんは食べたかなっ? うーん、その様子だとまだ見たいっさねー。よし、今日は私の翁舞家直伝の朝ごはんを披露するっさ! あ、きっくんはそこで座ってて良いから」

 勝手に台所に入り込む翁舞の姿を視界に捉えつつ、霧夜は溜息を吐く。

「あのー、何やってるんですか?」

「朝ごはん作ってるっさ」

「いや、それは分かりますけど」

「じゃあ、何も問題ないっさ」

 他人の家であるにも関わらず、手際良く戸棚から調理器具を取り出しつつ、霧夜に背中を向けて翁舞は答える。その背中はどこか翁舞の機嫌が良いことを示していた。

「あのー、カギ閉めてありましたよね?」

「閉めてあったっさね」

「どうやって開けました?」

「合鍵っさ」

「渡しましたっけ?」

「机に置いてあったのをちょろっとね」

「そういうのは泥棒って言いません?」

「でも、私が持ってても良いっさね?」

「……まあ、構いませんけど」

「なら、万事解決っさ」

 どこか釈然としなかったものの、霧夜は深く追求しないことにした。

 翁舞は手際よく冷蔵庫から食材を取り出し、朝食作りの準備を始めた。肝心のメニューの方はというと、僅かに食材を見ただけではあるが、絵に描いたような和風の朝食を用意しているようだ。

(人の家の冷蔵庫の中身を熟知してるとは……)

 察するに昨日から人の冷蔵庫の中身をチェックしていたのだろう。でなければ、あれ程手際よく食材を選び、朝食の献立を決めることなどできない。

(って、ことは昨日から用意してたな、この人)

 もしかしたら、昨日代休の話題を上げなかったのはこの人の策略だったのかも、と翁舞のしたたかな行動には諦めの溜息を吐くしかない。どうして彼女がそんな行動に移ったのかは不明だが。

「また溜息かい、きっくん。幸せが逃げてくよー」

「そうですか」

 軽く受け流し、あるものを探そうと手をテーブルに伸ばしたが、ピタリと手を止めた。

(ああ、またやっちまったな)

 霧夜はテレビのリモコンを探そうとしていた。しかし、残念なことにこの家にテレビはない。あまりテレビ番組に関心がない霧夜とって、特に不便ではなかったが、暇なときこそあってほしいものだと思う。

「ところで、今日の活動内容は何ですか?」

 また小さな活動内容だろうと思いつつ尋ねる。すると、翁舞の肩がピクンと揺れた。反応はそれだけで中々こちらの問いに返答しようとしない。

(何か言い難いことなのか? 例えば……)

 ふと思いつきで言ってみた。

「まさか、猫探しですか?」

「猫探しっさ!」

 霧夜は盛大な溜息を吐くしかなかった。


 ◆


「新入部員?」

 朝食を食べてからは二人で長々かつダラダラと過ごしてしまい、制服のままの外出となった霧夜は翁舞の言葉を鸚鵡返しする。

「ひょうっひゃ」

 途中の店で買ったホットドックを頬張りながら、翁舞は答えた。

「ひぃふはひゅうじつひゃえにひょなゃりのひぃくのひゃっこうひぇひぃらしひゅばりを――」

 『実は数日前に別の学校へチラシ配りを』と言っているのだが、霧夜には全く伝わっていない。

「あの、食べながら喋らないでください」

「あ、ひょひゃんねぇ」

 『あ、ごめんね』と言葉では謝罪を述べているが、その顔に反省の色はない。翁舞は半分近く手に残ったホットドッグを一口で丸飲みする。喉につっかえないか心配する霧夜だったが、その考えは何事もなく話し始めた翁舞によって杞憂に終わった。

「きっくんも知っての通り、我が超常現象部は不思議なことに部員がほとんどいないっさ」

「ええ。それで形振り構わず、学校規則を破って学外の生徒まで入部させようとしてましたね」

 記憶のない霧夜は覚えていないが、彼が超常現象部に入部し立ての頃、新入部員の少なさを嘆いた翁舞の手によって、他校へと入部勧誘のチラシを配りに出向いたことがあるらしい。元々の目的は部の知名度を上げることが目的だったが、意外にも(翁舞の主観では)好感触だった様子で、それ以降、学外からの入部を勝手に許可してしまった。しかし、こんな怪しげな部活に入部する外部の人間が居るはずもなく、今の今まで居なかったのだ。

「今の今まで居なかったのは、過去の話っさ」

「まさかとは思いますけど、学外から来てしまったと?」

「そのまさかだったりするわけっさ」

 はあー、と心底疲れたとアピールするように霧夜は溜息を吐いた。

「んー? どうしたっさ。せっかくの新入部員っさ。ここは大喜びする場面じゃないっかな?」

「手放しじゃ喜べませんね。そんな規則違反を起こせば、問題になりますよ?」

 彼女と居ると、霧夜は気苦労が多い。とりあえず、今まで問題になったことはないのが救いだが、傍目から見て危ない橋を渡っている翁舞の傍にいると内心ヒヤヒヤする。

 そんな霧夜の気苦労を吹き飛ばすかのように、翁舞は笑みを浮かべた。

「その時はその時っさ。それに部活に関してはきっくんに迷惑はかけないよ」

 何か引っかかる物言いだった。

「どういう意味です?」

「ははっ。こっちの事情っさ。ほら、待ち合わせ場所に着いたよ」

 二人が着いた先は駅前の小さな広場だ。休日ともなれば人通りが多くなり、それなりの賑わいを見せる駅前も、平日の昼前では人は疎らに点在しているだけだ。おかげで駅前にしては静かな方だ。

「まだ来てないみたいっさね」

 周囲を見渡した翁舞は一言そう漏らし、

「それじゃ、私は先に捜索に行くから、きっくんは新入部員を待っててね」

「……はぁ!? 俺は新入部員の顔なんて分かりませんよっ!?」

「大丈夫っさ。ちゃんと待ち合わせ場所は教えたし、銀髪少年が待ってるよって言っておいたからっさ」

「……最初から自分一人で移動して、俺を待たせる気満々でしたか」

「ふふん、まだまだ修行が足りないっさね、きっくん」

 自分の背中をバンバンと叩く姿がどこか憎たらしい、と霧夜は思う。だが、すぐにどうでも良くなった。翁舞さんならいつものことだ、と結論付けたのだ。自覚はあるものの、この慣れというのが怖いところである。

「ま、光院高校の制服を着てるから、目立つっさ」

「光院?」

 聞き覚えのない名前に霧夜は首を傾げる。

「そっさ。第七地区が誇る、名門校っさ。都市内の偏差値は断トツでトップクラス。小さな世界へ羽ばたくエリートを養成してる、エリート養成学校っさ!」

「そんなところの奴を誘ったんですか?」

「そっさ」

 当然の如く肯定の頷きをする翁舞だが、霧夜からすれば理解不能な行動だ。光院というのがどれだけ名門かは知らないが、翁舞の口ぶりから相当優秀な高校なのだろう。霧夜のイメージからすると、そういった高校の生徒が超常現象部という珍妙な、しかも外部の部活に入部するとは思えない。

(しかし) 

 現実に入部した、ということはこの部活の内容をある程度知っているのだろうから、覚悟してのことなのだろう。その生徒を誘う方も肝が座っているが、受け入れる生徒の方も相当肝が据わっている。いや、もしかしたらただの変人なのだろうか。

「私はこっちを探すから、きっくんはあっちでよろしく!」

 翁舞が指差す『こっち』はちょうど霧夜と翁舞が歩いてきた道、『あっち』は静かな一戸建ての住宅地が立ち並ぶ地域だ。

 その方向を見て、霧夜の顔に僅かな影を浮かぶ。

「……あっちですか」

「そっさ。それじゃ、よろしくねっ!」

 翁舞は霧夜の様子に気づかないのか、それだけ告げると一人元気良く、来た道を逆走し始めた。その背を見送りながら、霧夜は一つ小さな溜息を吐く。

「まあ、いっか」

 自分自身を言いくるめ、霧夜は近くのベンチへと疲れた様子で深く腰かけた。

(っていうか、ほとんど新入部員の情報を聞いてないな)

 男なのか女なのか、年上なのか年下なのか。唯一聞いた情報は『光院高校という名門校の生徒』だけだ。記憶のない霧夜は光院がどんな制服なのか知らないが、一応相手に自分の特徴を告げているのだから、気づく確率は高い。なるようになれかな、などとこの状況を客観視し始めた時、

「すみません」

 霧夜の後方、それもすぐ近くから声が聞こえた。それが自分に掛けられているものだと気づくのに大した時間はかからなかった。

「……って、あれ?」

「どうも」

 人畜無害そうな柔和な笑みを浮かべ、肩まで伸びる黒い長髪、生地の良さそうなクリーム色のブレザーで身を包んだ姿は、見覚えがある姿だったが、この場で出くわすことは予想外な人物だった。

「雨師?」

「ええ。先日はお疲れさまでした。どうやら大変な騒ぎだったようですね」

「さすがに知ってたか」

「ええ。予想以上の異物の反応には僕も驚きました。それに加えて、数分しないうちに異物の反応が消え、現場に来てみればあなたが倒れていたのでますます驚きましたが」

「お前が翁舞さんに連絡したのか?」

「ええ。さすがにそのままにしておくわけには行きませんから」

 やっぱり、と霧夜は思った。よく考えると学校帰りに翁舞が公園に寄る事情があったとしても偶然すぎる。加えて、翁舞が平均的な男子高校生の体型を持つ霧夜を連れて帰宅するには、疑問を覚えざるを得ない。体重だってそれなりにあるし、特に意識がない人間は意識のある人間より遥かに重い。それを女性がたった一人で、数十メートルも離れた学生寮へと連れて行くのには常識的に考えて無理がある。ここは誰かに頼んで一緒に運ぶしかない。それが現場に駆け付けた雨師だとしても不思議ではない。

「それでどうですか? 『人払い』の感想は」

「……それも知ってたのか」

「幻想使いは『人払い』の反応を、ある程度限定されているますが、感知できます。僕もその時、微弱ながら感知しましたので。それで、どうでしたか?」

「あまり気分のいいものじゃなかったな」

「同感です。未だに僕も慣れません。あの不気味な空間は」

「俺も慣れる気がしない」

 正直な感想だった。仮定として、あの空間に何時間もいたら気が狂ってしまいそうだ。

「それで、用事は何だ? まさかあの赤い空間の感想だけを聞きにきたわけじゃないだろ?」

「ええ、もちろんです」

 雨師は霧夜の隣に腰かけた。

「あなたは『人払い』を受けましたね」

 再度確認するような言い方だった。

「あの『人払い』と呼ばれる転移能力はある種の人間にしか使えない、特異な能力です。あなたもご存じの能力者たちの総称ですね」

「幻想使いか」

「あの場で人払いに遭遇したということは、我々『幻想使い』に出会ったということですね?」

 脳裏に自身を紅緋姫桜と名乗り、幻想使いだと語った少女の姿が過る。

「……会ってないな」

「あまりオラクルに不利益な行いをしない方が賢明です。あの場所に幻想使いがいたことは裏が取れています」

 どうやって取ったんだ、と疑問に思ったが、話されたところでまた自分には良く分からない説明されるのだろう。否定を押し通すのは無理があるようだ。

「詳しく、その『幻想使い』という人物について聞きたいのですが」

 霧夜は判断に迷った。紅緋姫は自分のことを誰にも話すな、と言っていた。それがどういった意味を持つのか、つまり誰にもカギのことを知られるわけにはいかないということだ。

(こいつが誰にも話さなければ良い話だが……)

 雨師が充分に信用できる人物か、と問われるといまいち現実味がない。どこか胡散臭くも感じる。

 どうしたものか、数瞬の思考の後、

「あー、悪いがあまり長話もできないんだ。こっちは新入部員を待ってる状態だし、猫探しもしなきゃいけないし」

 はぐらかすことにした。

「では、歩きながら聞きましょう」

「はっ?」

 何を言っているんだ、と返そうとしたがそこで霧夜は雨師が来ている服を見直した。クリーム色のブレザーはどこか学生を思わせる。さらには胸ポケットには星型の紋章が縫い付けられている。どう見ても、それは校章と言っても差し支えのないものだった。

「おや、聞いていませんでしたか? 今日付けで僕も超常現象部の一員となりました。どうぞ、今後ともよろしくお願いします」


 ◆


「お前、頭良かったんだな」

「いえ、一八歳以下の市民は学校に通学するように規定されています。僕はその規定に沿って所属しているだけです。実際にほとんど学校に行っていません」

「……お前、案外不真面目だったんだな」

 二人は翁舞が指示した方向とは逆、つまり翁舞が向かった方向へと足を進めていた。

「こちらの方で良かったのですか? 翁舞部長とは反対の方向に行くのでは?」

「盗み聞きしてたのか」

 もう慣れたこととはいえ、内心うんざりする。この点も霧夜が雨師をいまいち信用できない点ではあった。

「ええ。悪いとは思ってのですが、好奇心に打ち勝てませんでしたので」

 言葉とは裏腹に悪びれた様子を見せない雨師に内心でのみ溜息を吐きつつ、霧夜は足を進める。

「翁舞さんがこっちに向かったんだ。だったらこっちに居るだろ」

 翁舞の勘は異常だと霧夜は経験から知っていた。以前の猫探しの時も、最初に見つけたのは翁舞だった。彼女は最初から猫が居る場所を分かっているかのように、無駄足をすることなく猫を発見したのだ。深夜までかかったのは猫の足が意外と早く、数時間もの間、捕まえ損ね続けていたせいだ。

 雨師は霧夜の意見に反対することなく、付き従った。

 二人が向かった先は霧夜と翁舞が歩いてきた道を戻り、ちょうど翁舞がホットドックを買った店に面している寂れた商店街だ。寂れたと言っても、人通りは住宅街よりも多く、馬車の交通量もマシ程度にはある。寂れた印象を抱かせるのは、さらに先に行くと別の商店街が賑わいを見せているからであろう。

「あまり大通りで不詳の『幻想使い』について話すのは得策ではありません」

 雨師はそう切り出し、

「近くに公園がありますから、そこに行きましょう」

 雨師の提案で二人は商店街から逸れ、住宅地の方面へと向かった。

 住宅地も閑散として、人通りは少ない。たまに子供やご老人を見かける程度で、この時期にしては少々冷たい風が二人を茶化すかのように通り過ぎる程度だ。二人はアパートに囲まれるように作られた小さな公園へと入った。

 公園は中央に大きな楕円型の昇り場がポツンと設置され、周囲にはとってつけたように錆びたブランコと、古いベンチが置いてあるだけの小さな公園だ。休日ともなれば、子供たちがちらほらと集まり、平日にはご老人の方々の憩いの場となる場所だが、今日は誰もおらず、静けさだけが滞在していた。

「猫、いるか?」

 足を踏み入れたと同時に霧夜は呟く。返事は期待していなかった。

「いえ、いないですね」

 子供や老人の他に、猫たちの憩いの場としての機能も果たしているこの公園に、猫一匹の姿もなかった。鳴き声も聞こえないところ、この周囲一帯にはいないのかもしれない。

「ですが、これから話す内容には申し分ない環境です。周囲に人の気配はありません。もちろん、奴らの気配も」

「別に異物がいなくても大丈夫だろ?」

「一応、奴らも五感はありますし、記憶力もあるので。情報が漏れる可能性もあります」

 言語が話せないのにどうやって他人に情報を伝えるんだ、と霧夜が疑問を口にすると雨師は考えるような素振りをして、

「そうですね。異物についてもう少し知ってもらいましょうか」

 二人は木製のベンチへと腰かけた。古めかしいそれは、二人が座ると軋む音を出した。

「旧支配者、という言葉をご存知ですか?」

 聞き慣れない名前だ、と霧夜は思ったが、どこかで耳にしたような気がしたので少し記憶を掘り返す。その結果、紅緋姫が話した内容の中にそんな言葉があった、ような気がした。

「かつてこの地を支配し、創造主に反逆した神々の総称です。今は邪神とも呼ばれています――オラクルの教えに反した敵、とでも言っておきましょうか。奴らが異物を作り出したのです」

「待て、それじゃ異物の発生は旧支配者とやらが絡んでるのか?」

「いえ。旧支配者は現在封印されています、異物も、奴らの統制下にはありません」

「それじゃ、異物は野放しのまんまなのか?」

「平たく言えばそうですね。以前はあまり人間に害を与えず、こちらとしても放置というスタンスだったのですが……ここ最近は活発的に行動しています。今のところ目立った被害は出ていませんが、もしかしたら時間の問題かもしれません」

「目立った被害が出る、っていうのか?」

「実際に起きかけました。昨日、あなたが対処した異物の発生ですよ。あそこまで大規模な発生は例がありません。何かの前兆と受け取っても、何の差し支えもありませんよ」

「前兆……」

「この街の治安を維持するためにも我々はそれを突き止めなければなりません。何としてでも」

 ここで雨師は喋るのをやめた。口にせずとも、暗に昨日のことを詳細に告げるよう要求しているのだ。確かに雨師の言いたいことは立派なことであるし、正論だ。表情も一見いつものようなに見えるが、強い意志が感じられる。

 ふと、霧夜は昨日のことを思い出して、思索に耽ることにした。

 紅緋姫はカギを探している。悪用するつもりなのだろうか? いや、彼女はカギを破壊する、と言っていた。彼女は悪用を阻止する立場、と考えるのが妥当だ。もし、彼女の言っていることが本当なら、の話だが。霧夜はそれを判断する術がない。彼女とは昨日会ったばかりなのだから。

 言ってしまおうか。

 その考えが浮かんだが、脳裏に紅緋姫の姿が浮かんだ途端、霧散した。

「悪いが、話せない」

「……何故?」

「そいつとの約束なんだ」

「どうしても?」

「……ああ」

 雨師はふうと一つ息を吐き出した。

「あなたは自分の立場をもう少し理解してもらった方が良いかと」

「どういう意味だ?」

「あなたの生活は我々オラクルが握っていると言っても、過言ではありません。あなたが生活し続けているのは異物退治をオラクルがあなたに依頼し、報酬を指し上げているからです」

「そうだな、明日からバイト探しでもするか」

「加えて言うと、あなたの記憶についても全力を挙げて調査中です」

「全力なのに人手不足とは。過度な労働は身体に毒だぞ」

 春だというのに、やけに冷たい風が二人の頬を撫で、地面の砂を巻き上げる。それに巻き込まれるように、桃色の花弁が宙へと舞い上がった。

「立場、分かってもらいましたか?」

「ああ、打ち切りの契約書でも用意するか?」

「本気で言っているのですか? 生活も記憶も失いかねませんよ」

「生活なんて、どうにでもなるだろ」

「では、記憶の方は?」

 記憶。霧夜の失った記憶はそうそう簡単に戻らない。二週間近く暮らして霧夜が思い出したことなど、何一つとしてなかった。もしかしたら、もう二度と戻って来ない、なんてことがあるかもしれない。だからこそ、オラクルが霧夜の情報を集めているのだ。どこに住み、どんな生活を送っていたのかを調べ上げている。

 つまり、霧夜はオラクルに対して槍を向けるわけには、立場上、無意味な選択だと言えた。

 霧夜はそれを理解している。理解しているが――何故か「はい、教えよう」と答えることができなかった。考える度に少女の姿が浮かび、やめようという気になってしまう。理屈はない。だから、雨師に説明しようにもできなかった。

「……雨師、今の生活に満足してるか?」

 唐突に切り出した話に、雨師は戸惑ったように、

「ええ、まあ充実していますね」

「俺もだ。案外満足している。前の記憶が気にならないぐらいに。実際、興味があんまりない」

 半分ほど本心が混じった言葉を霧夜は紡いだ。翁舞という心強い仲間がいるこの環境を霧夜は特に嫌っておらず、心地よくも感じている。半分ほど、というのは記憶に興味がない、ということが嘘だということだ。

「そこまでして、守り通す人だったのですか?」雨師が疑問を口にした。「記憶に興味がない、なんてそんなことはあり得ません。誰しも自分の居場所がある。その居場所を求めるためにも記憶は必要不可欠です」

 半分の嘘を雨師は簡単に看破した。どう答えようかと霧夜は一瞬思案した結果、嘘を貫き通すことにした。

「今、ここが俺の居場所だよ。大体、住居とかはお前たちが見つけて――」

「それは本当の居場所とは言えません。あなたは当て得られた場所に居座っているだけですよ」

 そうだ、雨師の意見は核心を突いている。自分は与えられた場所に何も知らないまま、周りに従って、居座っているだけだ。

「本当の居場所を見つけたいとは思わないのですか?」

(見つけたいさ)

 言いたい。雨師の意見に全面的に同意したい。しかし、そうなると、霧夜はホールドアップのサインを提示したことになり、紅緋姫に関することを喋らなければいけなくなってしまう。

「幻想使いのことを話してください」

「俺は――」言い淀んだが、次の言葉はしっかりと答えた。「そいつに恩がある。約束もある。だから、話せない」

 肯定せずに、霧夜は嘘を貫き通すことにした。

「仕方ありません」と溜息交じりに雨師は言った。「今回は良いでしょう。我々は対等な契約を結んだ関係。無理強いはできませんからね」

 頑なな否定の姿勢が功を奏したのか、雨師の方が先に白旗を上げてくれたようだ。少々申し訳ない気持ちになった霧夜だったが、敢えて何も言わなかった。

「さて、猫探しにでも戻るか。移動しよう」

「他に当てが?」

「ぶらぶらしてれば、いつかは見つかるだろ」

 公園を背にして霧夜は歩き始めると、雨師は一歩遅れて霧夜の後ろからついて来た。

 二人の間に会話はない。時々雨師が「こっちにしましょう」などと方向を霧夜に提示するだけで会話らしい会話はなかった。いつもは一方的に雨師が霧夜に話しかけてくるのだが、何か考えごとでもしているのだろうか、話しかけてこない。一方の霧夜も話しかける気にはならず、口を閉ざしたままになった。

 淡々と歩き続けて何分が経過した頃だろうか。

「あの」

 気づけば雨師が霧夜と足並みを揃えて、隣を歩いていた。

「我々が探している猫とは、いったいどんな特徴を持っているのでしょうか?」

「特徴?」

 ピタリ、と霧夜は歩みを止めた。

 はて、何だろうか?

 思い返すと、翁舞は霧夜に『猫探し』をすることを告げていたが、それがいったいどんな特徴を持った猫なのか、全く語らなかった。これでは捜索のしようがない。

 霧夜の短い沈黙の意味を理解したのか、横に立つ雨師は肩を竦めた。

「手詰まり、ということですね」

「いや、待て。翁舞さんに電話すれば何とかなる」

 と言って、すぐさまズボンのポケットから携帯電話を取り出し、設定した数字を押して翁舞にコールする。だが、無情にも向こうから声が聞こえてくる様子は無い。

「どうやら、猫探しに熱中しているようですね」

 若干の苦笑いを浮かべ、雨師は再び肩を竦める。

「これから、どうしましょうか。翁舞部長と合流でもしましょうか」

「……そうするか」

 都市の一角とはいえ、たったの一人の人物を二人で探すのは不可能に近いが、見知らぬ猫を探すよりは幾分かマシな行動だ。二人はそう考え、行く当てもなく歩くことをやめ、商店街の方へと向かい始めた。

 商店街にある小さな焼鳥屋が漂わせている、芳ばしい香りが鼻腔を擽らせる程度に近づいた時、素っ気ない着信音が鳴り響いた。

「失礼」

 太陽の光でキラリと光る銀色の携帯を取り出した雨師は一礼して、霧夜に背を向けた。一瞬だけ見えた表情は雨師の表情は強張っていた。仕事の話だろうか。雨師は電話相手に相槌を打つだけで、すぐに通話を切った。

「すみません、少し急用ができました。先に失礼します」

「仕事か」

「ええ。何でも――」と一旦口を閉ざした。「まあ、喋っても構わないでしょう。ですが、他言無用でお願いします。どうやら警備の様子がおかしいらしいです。上層部も過敏になっているようですからね。すぐに異常が起きたら仕事ですよ。ああ、そうそう。これを渡しそびれるところでした」

「ん?」

 雨師がブレザーのポケットからそれを取り出し、霧夜に手渡した。それはオーソドックスな茶封筒だった。分厚く、片手だけでは重く感じた。中を開けて見ると二つの紙束があった。

「既存品と改良品です。あなたのご要望通り、命中精度を上げたものです。ほかにも色々と機能がついているようですが、それは同封されている説明書を読んでください」

 それでは、と告げて雨師は反対方向へと去って行った。その後姿を見送った霧夜は、

「……もう一度、翁舞さんに連絡でも取るか」


 ◆


 今度は空しい無音ではなく、元気一杯な声が聞こえてきた。翁舞は霧夜がいる位置から対して離れた位置にはいなかった。どうやら、行きにホットドッグを買った店の前で猫と戯れている状態らしい。

 よくこの広い都市で猫を捕まえられたな、と感心する一方でどうして店の前で立っているんだろうと霧夜は訝しむ。何か、嫌な予感がしてならないのだ。記憶上、出会ってから二週間しか経っていないが、ほとんどの時間を共にした仲だ。考えなど簡単に読み取れた。

(外食しようとか言いそうだな……)

 導き出した結果に溜息を吐く。そろそろお昼の時間帯にも、特に翁舞は動きまわったので理解はできる。加えて霧夜の財政はそこまで窮屈というわけではないが、冷蔵庫にはまだ食材が残っているのだから、散財はしたくはない。霧夜の財布は主婦並みに固いのだ。

(あ、居た)

 店の前に特徴的な長い髪を持った人物がしゃがんでいた。ちょうど霧夜から背を向けていて、相手は気づいていない。いや、気付かない原因はそれだけでなく、彼女は何かに注意を向けている。

(何を見てるんだ?)

 遠目から見ても、それは分かった。翁舞の顔は僅かに下へと向いており、地面にある何かを見ている。

「翁舞さん?」

 少し遠くからであったが、一声かけてみる。あまり大きな声ではなかったが、届いたらしく翁舞は肩をビクリと揺らし、慌てた様子で振り返った。険しい表情が揺らぎ、安堵へと移り変わる。

「おりょ、きっくん!」

 安堵の声と共に翁舞は立ち上がる。表情や声だけでなく、全体的に翁舞は明らかに安堵していた。その様子に霧夜は僅かに不信感が湧き上がった。

「どうしました? こんなところで」

「いやいや、猫さんと話してたところっさ!」

「猫?」

 霧夜の声に合わせるように翁舞の背後から『ニャー』と呑気な鳴き声が聞こえた。翁舞の背後に視線をずらすと、首に赤い首輪を巻いた、どこか見覚えのある三毛猫がおとなしく、だが退屈そうに座っていた。

「この猫、連休中に捕まえた奴じゃないですか」

「あ、ばれた? この猫、何回も逃げだす常習犯みたいっさ」

「……いったい飼い主は何してるんでしょうね」

「まあまあ、いいじゃないっさ」

 満面の笑みで答える。それ釣られて霧夜も思わず頬を緩めた。彼女の笑みを見ると、どんなことでも小さなものに思え、最終的にはどうでも良くなってしまう。

「にしても、良く捕まえられましたね」

「ふっふーん、私の勘と運動神経を舐めちゃいけないっさ」

 鼻を鳴らし、腕を組みながら、翁舞は自慢げな顔で答えた。どやっという効果音を付けたくなるのは、そういう顔だからだろう。しかし、その顔はすぐに変化し、何か気付いた様子でキョロキョロと周囲を見回し始めた。

「新入部員の子はどうしたんだい?」

「あいつなら、急用が出来たとかで帰りましたよ」

「ふーん、せっかく……」

 そこまで言いかけて翁舞は口を閉ざした。明らかに何かを隠している。

「何です? せっかく、の後は?」

 しまった、と言わんばかりに翁舞は慌てた様子で自分の口を両手で押さえている。こちらが目を合わせようとすると、不自然に目を逸らすので、霧夜はその両手を掴み、封鎖した口元を露わにする。

「いや、そのー」

「はっきり言って下さい」

「いや、あの、新入部員の子はきっくんに何か話したいことがあったぽくって、それでちょっと時間を、ね?」

 要するに雨師が霧夜と話をする時間が欲しかったために、今までの経緯があったというわけだ。どうやら、今回の目的は猫探しなどではなかったらしい。

「それじゃ、猫は探してないんですか?」

「ちゃんと探したっさ。こんな寒い日だから、温かいところにいるんじゃないかなった思って――」

 その時、ニャーという鳴き声と共に、翁舞の傍にいた三毛猫は素早く道路へと駆けだし、手前の十字路を右に曲がり、二人の前から姿を消した。それを茫然と見るしかなかった霧夜は溜息を吐いた。

「また捜索ですか?」

「うー、それじゃ、休憩を挟んだら開始っさ」

「休憩?」

「そうっさ、きっくん。そろそろお腹が空かないっかな?」

「まあ、そうですね」

 時間はお昼へと突入している。霧夜は正直なところ、お腹は空いていなかったが、翁舞は猫を捕まえるのに走り回って疲れているだろうと判断し、この提案を無碍にするわけにはいかなかった。

「それじゃ、ここで解散といきますか」

「なぁーに行ってるっさ、きっくん! 一緒に食べるっさ」

 嫌な予感が的中した。

「一緒に、ですか?」

「なに、不満かい?」

「だって翁舞さんのことですから、外食とか言うんでしょう?」

「うっ。出費は押さえたい年頃かい、きっくん。そんなんじゃ、友達いなくなるっさ!」

「こっちも生活がありますからね。あ、良いんですよ。俺が飢え死にして怨霊になって翁舞さんの目の前現れる、というなら」

 冗談めいた脅しであったが、思いの外効果があった。血色の良かった翁舞の顔から血の気が引き、青白く染まって行く。霧夜はその様子には面喰ったが、いつもの調子で翁舞が喋り始めた頃にはすっかり元通りになっていた。

「仕方ないっさ。それじゃ……」

 翁舞は高らかに代案を宣言した。


 ◆


 紅緋姫桜は雑踏の中に紛れていた。ちょうどお昼時の時間帯ともなれば自然と人数は増え、静寂だった道にも雑踏が生まれる。それも紅緋姫は商店街を歩いている。混雑は他の道と比べて強くなるのは当然と言えた。

 この混雑に良い顔をする人物はさほどいない。誰しも、混雑は避ける傾向にあるだろう。人々は避けられない理由あって混雑の中へと仕方なく出向いているのだ。

 だが、この少女は違った。彼女は自ら混雑の中へと入り込むことを選んだ。そこに仕方ない、と言えるほどの深い理由もない。ただ単純にそっちの方が『居心地が良かった』というだけだ。

 抗うことなく周囲の人々の流れに乗り、紅緋姫は目的地へと歩き続ける。

(やっぱり、違う)

 自分の横を通り抜ける人、目の前を歩く人、後ろを歩く人。

 一人一人を調べてみるものの、ほとんどの人間は紅緋姫とは違った。その理由はたった一つだけだ。

(『幻想回路』を認識していない)

 幻想回路。 

 それはこの世界の人間誰もが持つ『存在しない器官』のことだ。回路は空気中に存在する極小の幻想力を吸収し続ける、一種の防衛器官である。何しろ、人間にとって幻想力は触れるだけで害をもたらす毒物と言っても過言ではなく、多大な量を直接皮膚や体内に入れば間違いなく『死』へと繋がる。それを防ぐのが幻想回路の役目だ。

 幻想回路は幻想力を防衛する手順としては、回路が空気中に分散する幻想力を人体に触れないよう受け止め、一定の間、回路の中を流れ続け、最終的に再び空気中に放出されることになっている。その循環は延々と続き、決して止まることはない。

 そして、その幻想回路を使用して『毒物』を操る人間を『幻想使い』と呼ぶ。

 幻想使いは自身の力を使うには、多量の幻想力を吸収しなければならないため、自然と幻想力を内に秘めていなければならない。もし回路がなければ、簡単に死んでしまうだろう。

 ただし、人が『毒物』を操れる幻想使いになるのに絶対的に必要な事柄がある。

 それは『幻想回路』と、『幻想力』を認識することだ。

 『ただの人』はまず、何らかの手段を用いて自身の中にある幻想回路の存在を捉えることが重要条件となる。その回路に流れる幻想力を認識した瞬間、人は『ただの人』から『幻想使い』へとなれることができる。

 言葉にするのは簡単だが、実際に幻想回路を認識することは難しい。元々人間が認識できないようにできている幻想回路を認識することは、空気を視認しろ、と言っているようなものであり、何かしら特別なきっかけがないと、認識は困難となる。

(この世界の人間には幻想回路がある)

 幻想回路を認識した幻想使いは、他者の幻想回路が認識された状態か、されていない状態かを判別することができる。これは認識された幻想回路が空気中の幻想力を積極的に吸収していることに対し、認識されていない幻想回路は幻想力を吸収しても、外へと排出しているからだ。

 それを理解している上で、周囲の人々を見ながら、紅緋姫は疑問に思う。

(この世界の人々はわたしと同じ。『あいつ』はそう言っていた)

 しかし、周りの人間はただの人間しかいない。確かに幻想回路は持っているものの、どれも認識された状態ではない。

 『あいつ』が誤解していたのだろうか?

(あり得ない。それだけは絶対にない)

 『あいつ』の情報はそれだけ信頼性が高い。事実、彼女は『あいつ』から間違った情報を伝え聞いたことはない。

(何か裏がある?)

 いつも何を考えているか分からない奴だ。あり得ないことはない。自分には何も告げず、何か別の作業に徹している可能性は高い。しばらく、紅緋姫は裏の目的を考えてみたが、

(『あいつ』なら何をしてもおかしくはない)

 という結論に達してしまったため、すぐに考えを放棄した。

 疑問が一時的でありながらも、なくなるのは気分が良い。だが、すぐに彼女の頭は疑問で埋まる。

(おかしい)

 彼女の脳裏に一人の男の姿が浮かぶ。いつも眠たそうで覇気がなく、それでいて優しい瞳を持つ少年。

(どうして、彼には幻想回路がないのだろう)

 蒼炎霧夜。

 この世界に住む有り触れた学生の一人でありながら、誰もが持たない『力』を有する少年。

 最初は平和な場所で平和な時を過ごす、ただの学生という認識だったが、彼の持つ『力』を知ってから多少見方が変わった。幻想力ではなく、それに対抗し得る未確認の不思議な『力』。だが、あり得ないことが幻想力によって引き起きるこの世界ならば、それすらもあり得ないことではない、と思った。つまり、見方が変わったとはいえ、彼女にとって彼は特に珍しくもない存在だった。

 けれど、彼と短い時を過ごすと、

(どうして?)

 今では頭の中でこびりつき、どんな時でも、少年の存在が頭の中に浮かんでくる。それは恋とか、そんな単純な感情ではない。言葉では表すとしたら、『懐かしい』という感覚だった。

 彼の言葉一つ一つが、

 彼の他愛もない仕草が、

 彼の純粋な瞳が、

 何より、彼の存在全てが懐かしく思えた。

(あり得ない)

 彼女は即座に否定する。

(彼の市民登録証は住民情報保管庫にも掲載されていた。情報も一致している。彼がずっと『ここ』の住人であったことを示している)

 もう考えるのはやめよう、と彼女は意識を外へと向けた。周囲は変わっていない。商店街の人気は衰えず、混雑を呈していた。

 彼女のすぐ傍を楽しそうに笑う親子が通り過ぎる。声こそ小さいものの、一目見て幸せそうだと分かる無邪気な笑い声だ。紅緋姫は意識してそれを無視した。

(馬鹿)

 人が多くいる場所に居れば、紛らわせることができる。

 いつもそう思って、混雑する場所を通っていたが、結果としてさらに強く心の中で響くだけだった。分かっているのに、分かっているはずなのに、馬鹿な希望を抱いて彼女は人が多い場所へと引き寄せられるように向かっていく。

 たった一つの想いをぬぐい去るために。

(もういい)

 紅緋姫は人の波から逸れ、商店街を抜けた。駅を通り過ぎ、十字路をさらに右に曲がる。すると、まるで別世界のような静けさが待っていた。車道を中央にしても両端に住宅、店舗が隙間なく立つものの、活気はなく、遠くから馬の蹄の音が聞こえるだけだ。

 紅緋姫は真っすぐに続く道を歩き続けた。歩けば歩くほど、人気はなくなり、静寂が身体に染みてくる。住宅街に入っても、それは変わらなかった。

 こういう場所を紅緋姫は苦手としている。

 彼女は周囲に警備ゴーレムや人がいないかを確認しながら、足早に石畳の道を歩く。ちょうど十字路になったところで右に折れた。折れた先の道は昼間であるのにも関わらず暗くて寒かった。ここはあまり陽が入らないのだろう。そのせいで道路に影を作りだす。結果として道を暗くさせ、気温を下げているのだ。

 ここは少々不気味だった。本来、お昼の時間帯ともなれば普段は静かな場所でも、自然と人が溢れ、喧騒で覆われるが、ここにはその気配はない。逆に静けさが支配していた。それが、違和感を抱かせる。

 紅緋姫には分かっていた。この静寂を作り出すために使った、微かに残る幻想力が告げている。この静けさが人為的なものであることを。

(来る)

 背後に気配を感じ、紅緋姫は身構える。

 刹那。

 灰色で彩られた石畳の道は赤く染まった。


 ◆


 翁舞の出した『代案』とは『二人で食材を集めて料理を作ろう』というものだった。それならば、特に拒否する理由もないので、了承した。翁舞は冷蔵庫の中で空っぽらしいので、買い物に出かけ、霧夜は一人自室で翁舞の帰りを待つだけ――と思っていたのだが。

「……おかしい」

 学生寮を出て、歩を進める霧夜はこの状況に頭を痛めた。

 霧夜にとっての誤算は、冷蔵庫の中身がほとんど空っぽの状態に近かったことだ。わざわざ余計な出費を抑えるべく翁舞との外食を断ったのに、自宅の中に食材がなければ結局は同じことだった。

(ちゃんと入ってたはずなんだが)

 とは言っても、中身を確認したのは昨日の夜、しかもその間に翁舞が勝手にご飯を作ったりしたので冷蔵庫の中身が変わっていてもおかしくはない。

(でも、残ってたのが調味料だけっていうのはおかしいよな)

 後で翁舞さん辺りでも問い詰めようかと思案している内に霧夜は商店街へと辿り着いた。霧夜は商店街自体に興味はなく、ここを抜けた先のさらに一つ大通りを渡った先にある食糧雑貨店に用があるのだ。

 霧夜は静かな室内が好きだが、例外として人で溢れる商店街が嫌いではなかった。歩く度に人とぶつかりそうになり、人々のざわめきが否応なしに耳に入るのは好ましいことではなかったが、活気で満ちるこの場所を嫌いにはなれなかった。

(何を買うか。新聞はとってないみたいだったから、チラシで確認しようにもできない。出来れば大特価セール、とかやってたら良いんだが……)

 やけに所帯染みたことを考えながら霧夜は歩を進める。早歩きで歩いているためか、頻繁に人にぶつかりそうになった。

(本当に人が多いな。こんな時間帯に来なきゃよかったかな)

 などと考えているのがいけなかったのか。

 ドンっ

 誰かにぶつかった。霧夜はその衝撃で軽く身体が後ろに揺れる。

(あれ?)

 不思議に思って、顔を上げると、目前の男性は霧夜を見下ろしていた。ぶつかったことに対してあまり気にしていないのか、顔には薄く笑みが浮かんでいた。

 慌てて霧夜は身を引くと、その男性の身体全体が視界に映った。

 ぶつかったのは長身の男だった。非常に端正な顔立ちで、鬚の剃り後がないのも相まってまるで彫刻がそのまま人間になったように見えた。年はざっくりと二十代後半に見えるが、本当にそうなのか、その顔立ちのせいで霧夜は確信が持てなかった。

 髪は手入れがしっかりとしているのか艶やかな長い黒髪だ。日の光で鈍く輝く黒髪はどこか芸術品を思わせるような気品と美しさを印象付けさせた。

 逆に身につけているものは華がなかった。服は身体全体を覆うように黒いコートで隠され、僅かに足元の黒い革靴を露出させているだけだ。手もポケットに突っ込んでおり、肌一つも見えない。また、全体として装飾品の数に欠けている。地味ではないかと思うが、全体として妙な存在感がある。

 黒服の男性は僅かに頭を下げると、流暢な日本語で、

「すまないね。こういった混雑には慣れていなくてね。そっちは大丈夫かい?」

「え、ああ、大丈夫です。すみません、こちらこそ」

 霧夜も相手にならって頭を下げる。ほとんど同じタイミングで両者が頭を上げると、即座に日本人種では滅多に見かけないであろう特徴を持つ男性に霧夜は、一つの疑問を抱いた。

(この人、この混雑の中に居たか?)

 男性の身長は日本男性の平均身長を頭一つ飛び越える高さだ。この混雑の中でそれだけの高さを持つ人物はまず目立つ。しかし、今の今まで霧夜は男性の存在を認識していなかった。まるでどこかの店の中から霧夜にぶつかるためだけに目の前に現れたようだ、と霧夜は思えた。

(ま、そんなことあるはずもないけど)

 あり得ないこととして、すぐにその考えを取り消した。

 そろそろ行くか、と思った矢先、

「ところで一つ、ぶつかったついでに聞きたいことがある」

「何でしょう」

「君は蒼炎霧夜だね?」

「は?」

 質問の意図が分からず、霧夜の思考は一瞬だが完全に静止した。

 男は霧夜の様子を無視して話を続ける。

「いや、人違いなら別に良いんだが。どうも特徴が一致していてね。それで、どうなんだい?」

「……」

 ここは『はい、そうですけど』と答えれば良いだけの話だ。しかし、霧夜は素直に答える気になれなかった。確かに見知らぬ人物に突然名前を問われたら、答えるのも躊躇するだろうが、霧夜の理由はそうではなかった。

 絶対に答えてはいけない気がする。

 絶対に素直に喋ってはいけない気がする。

 ただの直感であり、明確な理由はない。その理由を答えろと言われても、漠然とした理由しか浮かばない。けれども、霧夜はその直感を信じた。

(どうする?)

 かといって、黒服の男に背を向けて逃走したところで何かが変わるわけではない、とこれもまた直感ではあるが確信していた。というより、逃走自体ができないと思っていた。

 思わず霧夜の意識は男から逸れ、周囲に向いていた。この場から離れたいという一つの意識の表れであろうか。

 だが、これは結果として霧夜に一つの異変を気付かせた。

(何か変だ)

 霧夜の目にはお昼時には珍しくもない、混雑している商店街の姿が映っていた。いつもと何も変わらない、普通の光景だ。

 そこに溶け込む僅かな違和感。

 漠然としてはいるが、何かがおかしかった。

(何がおかしい?)

 答えが周囲にあるのかは分からない。それでも霧夜は再び周囲を見回した。今度はもっと注意深く、一つ一つ丹念に商店街を見回す。

(……!)

 そして、霧夜は気がついた。

 周囲の人々の意識が自分たちに全く向けられていないことに。

 止まることのない人の流れの中で大の男が二人も立ち止まっていたら、少なからず意識を傾けるはずだ。しかし、現実はどうだろうか?

 意識の向け方は人それぞれだ。霧夜の横を通り過ぎる人たちは店の看板を眺めたり、適当な店舗に目をつけたりと、あちらこちらに意識を向けている。しかし、この中に混じって、霧夜と黒服の男性に明らか迷惑そうな顔を向けたり、ちょっとした興味本位で意識を向けたり、何かしらのアクションが合っても良いはずだ。それが、まるで忘れているかのように、周囲の人の意識からすっぽりと抜け落ちている。

(何だ、これ)

 きっと何も知らない一般人なら気に留めつつも、不思議な出来事だったの一言で済ませてしまうだろう。だが、『不思議な出来事』を現実で直視し、認めてしまった霧夜だからこそ分かる。

 何かが起ころうとしている。

 いや、既に何かが起きていることに。

「もう一度だけ聞く。君は蒼炎霧夜だね?」

 目の前の男が、さっきと変わらぬ調子で尋ねる。改めて見ると、薄く笑っているその表情は薄気味悪く、どこか人を見透かしているような気がして霧夜は気持ち悪かった。

 おかしい、と霧夜は思う。

(どうしてこいつは何も不自然に思わない?)

 ただ単に気づいていないだけなのか、それともわざと見過ごしているのか。

(わざと見過ごしている……その可能性があるなら、こいつは何者だ?)

 目の前に壁のように立つ黒服の男が、霧夜にとてつもなく嫌な予感をもたらしていた。

 黒服の男は呆れた様子で肩を揺らし、

「ふむ。返答なしか。これは君が蒼炎霧夜だと証明している、と判断しても良いかな。……おっと、そうだ」

 黒服の男の右腕を突っ込んでいるポケットがガサガサと揺れる。何かを取ろうとしているのか、少しの間揺れた後、ポケットから手を出した。手は黒い革製の手袋で覆われており、他と同様に一切肌を露出させていなかった。

「ここで行動すると、記憶がぼやけるな。……どれどれ」

 手には何か白いものがカサカサと揺れている。それは正方形の小さな紙だった。しばらくの間、霧夜と紙を交互に見比べると、僅かに顔が歪んだ。

「……うん。合っているね」

 その声は呆気らかんとしていた。一転し、少し呆れたような声へと変わる。

「この絵で判断するのもどうかと思うけどね。見るかい? これが君自身だと知ったら、ショックかな?」

 掴んでいた紙を器用に片手で半回転させると、霧夜の眼前へと運び、見せつける。

 紙には汚い鉛筆書きの人間らしきものが書いてあった。だがいかんせん、絵が下手すぎて長方形の箱に棒が四本と四角い箱一個を突き刺したヘンテコなロボットにしか見えなかった。簡単な話、誰だか分からない。

 辛うじて霧夜としての特徴があるのは針山のようなツンツン頭が灰色の色鉛筆で大雑把に塗られているのと、ヘンテコな形にフレームが歪んだ黒ぶちのメガネ、全身紺色で塗りたくったタイツのような服だけだった。

「これ、俺?」

 何だか呆れたような、もしくは「どうすればここまで酷くなるんだろうか」と、ある意味感心して霧夜は呟く。その様子を見ながら、黒服の男は不気味にニコニコと笑う。

「そうらしいね。まあ、あいつは絵が下手だから勘弁してくれないかな?」

 あいつとは誰のことだろう。

 黒服の男は紙切れごとポケットに手を突っ込み、再び元の姿勢に戻った。

「まあ、前置きはこれぐらいだ。人々の意識を逸らし続けるのも結構骨がいるんだよね。だからそろそろ――」

 こんな知り合いを持つのはどんな人間なのだろう、と霧夜が考えた辺りでその思考は次の言葉で瞬時に消え去る。


「――殺し合いでも始めようか?」


 気づいた時には既に事態が進んだ状態だった。

「なっ!?」

 周囲の状況と今まで居た場所を頭の中で交互に見合わせた結果、思わず霧夜の口から驚嘆の声が漏れる。状況を考えれば、無理もなかった。

 誰もいない。

 今まで二人の周囲には大勢の人々が絶え間なく動いていた。

 だが、周囲から完全に人の気配はなくなり、この場には霧夜と黒服の男だけが立っていた。

「ここは……」

 冷静に周囲を見渡す。世界は赤一色に染まり、他の色彩の一切を拒絶している。この異様な世界を霧夜は一度だけ体験している。思い出すだけでも、不快な気分にさせられる。

「『人払い』は初めてじゃないんだろう?」

 目の前の男は相変わらずニコニコと笑っている。ただし、その笑みから不気味さがなくなり、純粋な笑みだけが浮かんでいた。

「そうだ」

 男はあたかも思い出したように声を上げ、

「相手の名前を知っておいて、君が僕の名前を知らないのは失礼に値するね。僕の名前ね。……うん、ロバート・ブレイクだ」

 ぶつぶつとほとんど独り言のような呟きを終え、

「というわけで、名前はロバート・ブレイクだ。よろしく、蒼炎霧夜」

 飄々とした様子で名前を告げる。

「お前は誰だ」

「君の命を狙いに来た……そうだね、幻想使いだ」

 幻想使い。

 この街で特殊な力を持つ人間たち。昨日と今日の二日間だけで何度聞いた単語だろう、耳にタコができるぐらいだなと霧夜は思った。

 しかし、注意するべき言葉はそこではない。

「俺を殺す?」

 理由が分からなかった。思い当たることと言えばアカシック・クロニクルのカギだが、紅緋姫の言葉を素直に受け取るなら、注意すべきは異物のみのはずだ。幻想使いという名の人間が手を出すとは聞いていない。

「もしかして、『カギ』を取りに来るのは異物だけだと思ったのかい?」

 考えが見透かされたような気がして、霧夜はギョッとした。加えて身体が何かに気圧されたのかにビクッと震えた。

 その反応が可笑しかったのか、ロバートはクククッと噛み殺す様な笑い声を上げ、

「考えが浅いな。未知なる過去の記憶から進化し続ける現代までの記録を持つアカシック・クロニクル。それを自由に、しかも簡単に閲覧できるカギともなれば、喉から手が出るほど欲しい代物だよ。それはこの世界に住む幻想使いも変わりない」

「俺を殺すのと、カギを奪うことは別だろ」

「おやおや、楽観主義者だね。さすがは平和ボケした国の出身者と言っておこうか」

 ロバートは出来の悪い教え子を諭すように、

「いいかい? 君の持つ『力』の中にカギは封印された。しかも、取り出す方法もままならず、手持無沙汰の状態。喉から手が出るほど欲しいものが目の前にあるのに、取れない状態っていうのは、中々辛いものだろう? だから、てっとり早く手に入る方法を取る」

 その結論が、蒼炎霧夜の殺害。

 荒々しく、短絡的で倫理的に言えば愚かな選択ではあったが、手っ取り早い方法であることは確かだ。

(本気なのか?)

 恐らく、本気だ。

(起きるのか?)

 公園で紅緋姫が見せた戦いが鮮明に頭に浮かぶ。身の丈ほどもある剣を何本も自在に操り、異物を圧倒した戦い。あれが今、人と人で行われようとしている。

 嫌な汗が首筋を伝う。

 目の前の幻想使いを相手に今の自分では、どれだけ卑小な存在か、霧夜は知っている。

「――って思っていたんだけどね」

「は?」

 霧夜は呆けた声を上げた。

「個人的な理由で予定変更ってことさ。僕は一部からは『賢者』って呼ばれるほど知識量が豊富でね。さすがにアカシック・クロニクルには及ばないが、それ以外の生命体を凌駕するほどの知識量があると言っていい。でもね、そんな僕でも知らないものがある」

 言葉を区切ると途端に、ロバートの眼光が鋭くなった。獲物を狙う鷹のような目が見据える先は蒼炎霧夜。

「その『力』。長い間生きてきたけど、幻想力にのみ対抗する力を見るのは初めてだ」

 蒼炎霧夜の『力』。

 幻想力を己の中に封印し続ける、幻想使いすらも知らない神秘の力。

「知りたいんだよ。『賢者』の名を冠する者として。目の前にぶら下がっている『知っている』代物よりも『知らない』代物をね」

 クククッと笑いを賢者は押し殺す。

「だから、殺しはしない。けど『知らない』代物を知るために僕と戦って貰おうか」

 純粋な興味、好奇心。まるで子供のような純粋な想いを、肉体的・精神的に成長する間も残り続けたのか、目の前の男は隠すこと無く、霧夜に直でぶつけてくる。それ故、霧夜にはその感情が偽りでない、と感じ取った。

 ロバートの言っていることは分からなくもない。自分が知らない知識を求めたくなることは、大小構わず、人間ならば一度ならずともある。霧夜も何度か経験はある。

 だが、その方法に霧夜は異論を唱えた。

「ちょっと待てよ。だったら、ここは穏便に済ませないか?」

 相手が聞く耳を持つかどうかは分からなかったが、なるべくなら幻想使いとの争いを避けたい霧夜はどうしても言わないわけにはいかない。

「おや、そういう提案か。予想はつくけど、一応理由を聞いておこうか」

 意外にもロバートは話に乗って来た。それだけで安堵が身体全体に広がり、僅かな緊張を解す。

「お前の興味は俺の『力』なんだろ。だったら、俺が知ってることは包み隠さず話せば、丸く収まるんじゃないのか」

 確かにそうだ。相手が知らない知識を求めるならば、それを知っている知識を持つ人物から聞けば良いだけの話だ。霧夜は我ながら完璧なデキだと思った。

「ふむ。まあ、考え方としては間違ってないね。なるほど。平和に浸かって生きてきた人間らしい穏便な方法だよ。けど、問題が一つ」

 ロバートは若干ながらも棘を含みながら言った。

「君はその『力』の大部分を理解していないんだろう?」

 再び霧夜の身体がビクッと震えた。完全に虚を突かれ、動揺を隠せなかった。

「おいおい、まさか僕がそんなことも知らない、なんて思っているんじゃないだろね。僕の『賢者』という二つ名は伊達じゃないよ。それくらいはお見通しだ」

 駄目だ。完全に見透かされている。それでも霧夜は別の提案を口にした。

「なら、ここはお互いに協力して俺の『力』を解析する方法で行かないか? そうすれば無理に戦いをしなくても良いだろ?」

「食い下がるねぇ。そんなに戦いが怖いのかい? これだから極東の島国の人間は困るね。平和に浸かり過ぎて、闘争本能もなくなったようだ」

 さっきまでの純粋な笑みは消え失せ、失意と落胆を含んだ声色で、

「悪いけど却下だ。僕の見立てだと、その『力』は戦いの中で調査した方が分かりやすそうだしね」

「でも――」

「おおっと。御託はそこまでだ。完全な『異界』への移動手段じゃない『人払い』は時間制限付きでね。てっとり早くやらせてもらうよ」

 諦めるしかない。霧夜は戦闘の回避を断念せざるを得なかった。

「ああ、それと――」

 『賢者』は足りなかった言葉を付け足すように、

「殺しはしない、と言ったけど本気でやらないと四肢ぐらいは吹き飛ぶよ?」

 純粋な笑みが浮かぶ。 

「それじゃ、始めようか」

 その言葉が戦いを告げる合図となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ