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会社を経営してる友人の“飴と鞭”が極端すぎる

掲載日:2026/10/16

 古い友人と会ったので、カフェでお茶をすることにした。

 会社で仕事に追われる毎日、こういうひと時はちょっとしたオアシスになる。

 アイスコーヒーを一口飲んだ友人が、俺に目を向ける。


「お前は今なにしてんだ?」


「しがないサラリーマンだよ。お前は?」


「俺は会社を立ち上げようと思ってる」


「へぇ~」


「30人ほど人員が集まったから、来月から本格的に始動するってところだ」


「ベンチャーってやつか。すごいな!」


 自分で会社を作る。俺にはできない発想だ。もちろんリスクはあるだろうが、その冒険心を羨ましくも思えてしまう。

 鶏口となるも牛後となるなかれ、なんて言葉もあるし、こいつは今まさに鶏口になろうとしてるんだなぁ。


「ただ……経営方針についてちょっと悩んでてさ」


「ふうん。どんな風に?」


「部下に対して厳しめにいくか、優しめにいくか……お前ならどうする?」


 経営のことを聞かれても俺には分からんけど、自分なりに頭を捻ってみる。


「うーん、厳しめの方がいいんじゃないか?」


「どうして?」


「お前は社長になるんだろ? 言い方は悪いけど、人間関係なんて最初に甘い顔すると、舐められちゃうことも多いじゃん。だから、最初のうちは俺は厳しいんだぞってところを見せて、社風を引き締めた方がいいと思うんだ。“最初が肝心”なんて言葉もあるしさ」


「なるほど、それもそうだな。ありがとう! まずは厳しくやっていくよ!」


「頑張れよ!」


 せっかく再会したからということで、俺たちは別れ際に連絡先を交換し合った。

 会社、上手くいくといいなぁ……。



***



 数ヶ月後、友人から連絡があった。

 相談したいことがあるという。俺は時間を作って、あるカフェで友人と待ち合わせた。

 友人の顔つきはすっかり焦燥しきっていた。只事じゃないのは分かったが、俺はあえて何も気づいていないふりをして、尋ねる。


「相談したいことって、何があったんだ?」


「実は……会社が潰れそうでさ」


「え、どうして?」


 どうしてと聞きつつ、こういう事態も想定はしていた。やっぱり会社経営は難しいんだな。

 ところが、潰れそうな理由が予想とは少し違っていた。


「部下がみんな辞めちゃって……このままじゃどうにもならない」


「辞めた?」


 てっきりもっと単純に事業が失敗したのかと思った。


「さすがに俺一人じゃ仕事が回らなくてさ……」


「なんで、みんな辞めちゃったんだ?」


「分からない……。きちんと厳しく接してたんだけどな」


 そういえば、厳しくした方がいいってアドバイスしたっけ。


「どんな風に?」


「まず、毎日のようにみんなを怒鳴りつけたよ」


「は?」


「仕事をミスした奴はもちろん、成果を上げた奴も徹底的に叱りつけた。絶対クリアできないノルマを課して、達成できなければ『なぜこの程度ができない!』『この世に不可能なんてないんだ!』と一時間でも二時間でも説教した」


「おいおいおい……」


「さらに毎日の残業は強制。定時帰りなんか絶対許さないし、当然残業代なんか出さない。毎日最低でも丑三つ時まで会社にいるよう義務付けた」


「丑三つ時って……深夜2時じゃん」


「有給休暇は取らせず、土日祝日も絶対会社に出てこいと命令した」


「週休零日制!?」


「極めつけは、給料も払わなかった。どんなに頑張ろうが、会社に尽くそうが、一円も出さなかった。それなのに……みんな辞めちゃったんだ!」


「お前バカか!?」


 つい怒鳴ってしまった。


「え」


「“え”じゃねえよ。なんなんだよ、その理不尽な会社はよ! 厳しいとかそういうレベルじゃないじゃん! もはやただの強制収容所だろ!」


「ちょっと厳しすぎたか?」


「ちょっとじゃねえ!」


 俺は呆れて、説得を試みる。


「どこの世界に給料ゼロ、毎日深夜まで残業、休みも取れず、成果出しても怒られる。こんな会社に勤める奴がいるんだよ! 犯罪やって刑務所行った方がマシまであるぞ!」


「うう……じゃあどうすれば……」


「前は厳しくしろって言ったけど、やっぱり褒めなきゃダメだよ。なるべく甘く、優しくしてやれ。そうすれば、社員は辞めずに頑張ってくれるよ」


「なるべく甘く優しく、か。よし、今度こそやってみるよ!」


 手遅れかもしれないけど、まだ倒産は免れるかもしれない。

 今度はちゃんとやれよ。俺は旧友の成功を祈った。



***



 数ヶ月後、連絡が来た。また相談があるらしい。

 俺も気になっていたので、さっそく時間を作って会ってみる。


「……会社が潰れそうだ」


「またかよ……」


 とりあえず、理由を聞いてみる。


「あれから俺は、辞めた30人をどうにか呼び戻したんだ」


「よく戻ってきたな……」


 こいつがすごいのか、30人がすごいのか、どっちだろう。


「それから一から出直したんだ。だけど……」


「またみんな辞めちゃったとか?」


 友人は首を横に振る。


「いや、辞めてはいない。俺が経営方針を変えたからな」


「どんな風に?」


「とにかく、みんなを褒めるようにしたんだ」


「ああ、俺のアドバイスを聞いてくれたのか」


 友人はうなずく。


「成果を上げたら褒め、ミスをしてももちろん褒めた。むしろ、ミスをした時ほど褒めて褒めて褒めまくった」


「ん?」


「遅刻や無断欠勤をしても叱らない。むしろ特別ボーナスを支給する。どんどんやれって背中を押してあげた」


「……は?」


 急速に雲行きが――というか、嵐がやってきた。


「クライアントからはクレームが大量に来たよ。納期も納品もメチャクチャ。お宅の社員はいい加減だって。だけど、ウチの会社にミスがあっても『ウチの社員は常に正しい』『間違ってるのはお前ら』で押し通した」


「なにしてんのこの人……」


「さらには毎月ボーナスを支払った。六ヶ月分。一日も出勤してなくても払った。とにかく金払いはよくしたかったからな」


「いい加減な仕事して、クライアントにキレられて、どこにそんな金が……?」


「しかし……なぜか資金繰りがピンチになってしまって……」


「でしょうね」


 友人は唇を噛み締める。


「なぜだッ! 俺はあんなに社員に甘くしたのに……!」


「甘くしすぎなんだよ!」


「……ッ!」


「お前のやってることはなんていうか、ただでさえ甘いケーキに、砂糖ドバドバ、蜂蜜ドバドバ、練乳とチョコレートぶっかけて、ついでに餡子も塗りましょう。みたいな感じなんだよ。もはやただ体壊すだけの食い物作ってるっつうか」


「俺は良かれと思って……」


「過ぎた褒美は毒にしかならないんだよ。甘やかされまくった子供がどうなるか、考えれば分かるだろ」


「うう……じゃあ俺はどうすればいい?」


「“飴と鞭”って言葉があるじゃん。バランス考えろよ」


「バランス……」


「ミスをしたら叱る、成果を上げたら褒める。これをバランスよくやるんだよ。そうすれば、部下は喜んだり反省したりを繰り返して、業績も上がるんじゃないか?」


「なるほど……飴と鞭か。ありがとう、やってみるよ!」


 ……とアドバイスしてみたけど、こんな極端な奴がバランスよく飴と鞭なんてできるわけがない。

 そもそもこんな状況から会社立て直すなんて無理ゲーだし、ダメだろうな、これ。



***



 しばらくして、また友人から連絡が来た。

 会社がどうなったのか、というかどんな末路になったのか気になるので、俺はすぐに会うことにした。

 すると――


「……ありがとう!」


「え」


「お前の言う通り、叱る時は叱る、褒める時は褒める、従業員を適切に評価する、をバランスを考えて実践してみたんだ。そしたら、業績がみるみる伸びてさ! 今や業界ナンバーワンの売上を誇ってるよ!」


「ええ……」


「従業員も数百人に増えたし、支社も建てたし、これからも会社をどんどん成長させていくよ!」


「が、頑張れよ」


 会社を経営してる友人の“飴と鞭”が極端すぎる。






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
言われた事は出来る素晴らしい友人、とも言えるのかもなあ。 しかしこの人は人の上ではなく人の下でこそ輝く人だろうに、なんで会社を立ち上げてしまったんだろう。 誰かに勧められちゃった?
 テンポよい会話が漫才や落語を聞いているように心地よかったです。  (私なら一回辞めてから、この社長に呼ばれても絶対戻らないですwww)  ありがとうございました(`・ω・´)ゞ
極端過ぎますね笑 甘々の飴に慣れてしまうと普通の会社ですら、ブラック企業に感じてしまうかも。 面白かったです。
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