二一〇一年惑星の旅
ドラゴンから身を隠すために木の裏からジッと気配を立ったいると、ドラゴンの鼻息が、焦げた木々の香りを吹き飛ばした。蒼い光にすら興味を示さず、怪物はただ、自身の「獲物」と定めた僕に向けて、重戦車のような突撃を開始してきていたのだ。
「危ないっ! 」
きりもみ回転しながら転がった僕の三次元座標をマイアが強制補正し、スーツが跳ねて即座に僕を立ち上がらせる。
『もうしっかりしてよね。ルートは出してあげたから、そっちに向かって走って!』
マイアがAR表示で回避ルートを表示する。なんやかんや言いながらも助けてくれる、やはり頼れる相棒だ。
「助かる!」
『あくまで一番生存率が高くなるルートというだけ。油断したら一瞬でお陀仏なんだから、気をつけてよね、特Sのお兄ちゃん?』
そんな冗談を言い合いながらも苦しい状況は変わらない。
僕の隠れていた木は歪み、撓んでいた。まさに絶体絶命の危機だ。
そんな最中、更に次の隠れ蓑を探すため駆けようとする僕の頭上に、何と二頭目のドラゴンの影が過る。別個体が騒動を聞いて駆けつけて来てしまったらしい。
『……上空に別の熱源反応だよ! 逃げ道なくなっちゃったぁ!』
彼女はそう言って僕を必要以上に焦らせるけれど、本当に彼女が驚いた時はすぐにわかるから僕も落ち着くことができた。
「大丈夫だ、作戦を思いついた。とりあえず上に逃げるぞ」
カモフラージュの切れた状態で木に足をかけた。ヒョウや熊なんかを相手に木登りは愚策だという専門家もいるかも知れないが、それは21世紀の話だ。スーツの力を借りて、石像を抱えたまま垂直に木を駆けあがる。
ドラゴンも素早い動きで駆け上ってくるけれど、コンバット・スーツのブースト機能は、容易に人体の限界を超えたスピードを僕に授け、その距離はみるみるうちに離れていった。
圧倒的な跳躍力と吸着力によって木々を飛び越える僕は、近未来のターザン代表としてドラゴンと命を賭けた鬼ごっこを優位に始めることに成功する。そしてそこでもう一頭に注視していたマイアが新たな報告してくれた。
『頭上のドラゴンに誰か乗ってるよ!』
僕が地上のドラゴンを見ている間に、同じ網膜データからマイアは地表に映った二頭目の影、その上にいる人影に注視した。
「マズいな現地民か。まさかこんな場所で合うなんて僕の運勢はどうなってるんだ?」
『今日のメスガキ占いは1位だったよ』
「なるほど天は僕の味方か。───なら後は実力次第だ」
コイツもあるしな、と僕は脇に抱えた石像を持って、木から木へ、ジャンプや片手を使ったスイングで、三次元的にドラゴンをかく乱することによってそのアギトから逃れるように距離を離して逃げる。
ドラゴンからある程度遠ざかることができれば、今度は罠の準備だ。縄を使った簡易的なトラップを作り、足止めを考える。成功すれば一頭はコレで足止めできる算段だった。もっとも、獣狩り用の罠がドラゴンに効果があるのかは、また別の話になるのだけれども……。
罠を設置する途中、エーテルの影響でAR座標がバグって足を踏み外したりもしたが、何とか体幹と腹筋で持ちこたえ、近づくドラゴンの爪をスルリと躱す。
「……くっ」
空を切り裂いた爪の風圧がスーツを撫でる。紙一重の一撃に思わず体が怯んだ。
『キャハハ、計算通りに動いて貰わないと困るよ。お兄ちゃん』
「おいおい補助してくれよ。バディだろ」
『そう思うなら指示に従って、今すぐその石像を捨ててよね』
「そいつは出来ない相談だ」
そうして逃げていると、上空で睨みを聞かしていたドラゴンが突如として地上で僕を追いかけるドラゴンに襲い掛かった。
「仲間じゃないのか?」
騎手の乗ったドラゴンは、機動性が野良とは段違いなのかドラゴンの首筋に噛みつくと、翼の張った右腕であっという間に野良ドラゴンを地面に抑えつける。せっかく罠を仕掛けて逃げていたのに、これじゃあ無駄骨に終わりそうだ。
『強ーい!』
マイアが楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてくる。マイアはAIの癖にプロレスが好きだから、ドラゴンの完璧な抑え込みに興奮していた。その一方で、一撃で叩き伏せられたドラゴンは、もうピクリとも動かない。
「───!」
騎手が何か僕に言うと、乗っているドラゴンが木の上に立つ僕に咆哮を浴びせた。当然のように透明な僕を見つけるところが、嫌になるけれど、何となく意味は分かる。
「降りてこいって?」
『言語パターンを解析中。もっと喋らせれば、私が翻訳してあげるわ」
幾つか仕掛けた原始的なワイヤートラップを確認して、ぴょんと木の上から落ちると、スーツの全身から蒸気が噴き出す。仮に襲って来てもまた動きだせるように、冷却システムを最大限にぶん回したからだ。
『宇宙人が使うジェスチャー百選とはもう同期してる?』
「ああ……もちろん最適化も済ませてあるよ。後は相手が『話の通じる相手』であることを祈るばかりだな」
前に一度来た時には、この惑星を満たすエーテルの調査ばかりだったから、現地人とはファーストコンタクトだった。僕は、蒸気を噴き出すスーツのバイザー越しに、ドラゴンを御するその「人影」を凝視した。
降り立った全身鎧を身に纏った現地人の瞳に、僕の姿はどう映っているのだろうか。
高度な科学を身に纏った、略奪者か。あるいは空から降ってきた神か。
僕はゆっくりと、武器を持っていないことを示すために両手を挙げた。
「ワレワレは、宇宙人だ。――なんて、言う必要もなさそうだけれども」
全身鎧の現地人がドラゴンの背から飛び降り、腰の剣に手をかけた。
バイザーの隅では、日付のインジケータが2101/01/01に切り替わっている。
二一〇一年、最初の仕事が始まった。
無数のパロが実は隠されています。
SFだけではなく、それはもう色んなジャンルです。
見つけたら笑ってやってください。




