第五話 そのニ 変様
「ヒ、、、、ヒサメ?どう,,したんだい?」
「ヒサメ?...嗚呼、この娘のことか。安心しろ、眠っているだけだ。危害を加えてはおらん。」
と明らかにヒサメではない口調に、
僕は言葉が出なかった。
一体何があの子の体で起きているんだ,,?
皮肉だが、その答えはすぐにでもわかってしまう。
マッディールがヒサメのいる方へと歩いていく。
そして、今まで実験体としてしか接してこなかった
マッディールが一変して、
ヒサメに向かってお辞儀をしたのだ。
「やっと,お話ができますね、“サファイア種”この日をいかにお待ちしていたか。」
「,,,サファイア種って,,,まさか。」
マッディールはヒサメのことを確かに
サファイア種と呼んだのだ。
ならばこの状況を、
ヒサメの現状を示す答えは一つしかない。
ヒサメの体を使っているのは、ヒサメの中で循環しているヒサメ以外の細胞。
宝石龍。サファイア種の意識なのだろう。
「我は、お前達のような下卑た人間とは話したくもなかった。この様に同じ人間にこの様な仕打ちをする様なお前達とはな。」
ヒサメ,,,いやサファイア種は明らかに嫌悪の目をマッディールへと向けている。
尻尾も揺れている、目の瞳孔も広がっている。
明らかな敵対意識、威嚇だ。
だが、そんなの痒くもない様にマッディールは
ヒサメの方へと近づいていく。
「そうは言わずに、
その怒りを矛に収めて我々の研究に
助力をしてください。
無理強いはしたくはありませぬ。」
「お断りだ。そういえばどうする?」
サファイア種は、
高圧的な態度でマッディールの要求を断る。
その声色からも怒り心頭なのは明らかだ。
「(予測を立てるのが早いのね、No.5。もうヒサメちゃんに怒っている出来事に当たりをつけてるなんてね。天使として相当優秀ね。)」
「っ,,,!?」
「(声は出してはいけないわ。今はマッディールの奴もコチラを見向きもしない絶好のチャンスなの。)」
僕の脳内に、声が響いた。
声色、口調から察するに先ほどまで僕たちと戦っていて、氷漬けになっているはずの。
「(No.2,,,か??)」
「(正解よ。さすがね。今は本来の私の能力を使ってあなたの“知りたいという欲”に干渉して話しかけているわ。)」
「(僕の知りたいっていう欲????)」
「(天使族の、しかもまだ名を与えられてない君は知らなくて当然だけど、私たち悪魔族や君たち天使族は本来,祈りとか信仰とか儀式とかそういう支柱的何かがなければこの世界に実体を持っていられないのよ。)」
とNo.2、、、イコットは、僕に説明をし始めた。
どうして教えてくれるのだろう。
明らかに殺す気で襲いかかってきたのに。何故。
「(じゃあ、どうして僕たちは)」
「(マッディールの研究したいっていう巨大な欲望に捉えられているのよ。私たちは。)」
「(,,,,。)」
「(話を続けるわ。その支柱的何かはサキュバスの私の場合は、欲望。睡眠欲、性欲、食欲。三代欲求他、いろんな欲に干渉できるの。)」
「(それで僕のヒサメについて知りたいよくに干渉してきたのか。)」
「(そういうこと。)」
とイコットは、語りかけ続けている。
ヒサメたちには変化はない。
無言の応戦が続いている様だった。
ならばその隙に知ることに専念しなければ。
無知は無力と同義だ。
「(いいね。君のその知識欲。そそるわ。とても)」
「(教えてくれるな?ヒサメのことを。)」
「(勿論。”私の願い“を叶えてくれる可能性を秘めている君たちに協力するわよ。)」
,,,今はイコットの願いを叶えるという言葉に反応する気力はない。ヒサメについて知らないと,,。
「(これは前提だけども、私も知っていることは僅かなの。でも,マッディールの脳内を除いた時に見えた単語と欲望からある程度の推測を立てた物も含めて話すわね。)」
僕は、言葉を発さずに頷いた。
「(まず、ヒサメちゃんは、あなたと同じ実験体だけど関わっている計画が’一つ多い‘らしいの。)」
「(この地獄以外にもう一つ,,?)」
イコットの言葉に僕は思わず耳を疑った。
この地獄以外に、
もう一つ地獄をヒサメは味わっていたのか?
「(その実験の概要は私も知らない。でも,総称だけは、マッディールの下部の研究員たちが話していたのを聞いたわ。"MDSP”それがヒサメちゃんのもう一つの実験の名称。)」
「(MDSP,,?)」
「(正式名称は、流石に呟かなかったから分からないわ。でも少し聞こえてきた内容は、’魂の憑依‘を目的にしているってこと。)」
「(魂の憑依,,,???)」
MDSP,魂の憑依、一体なんのことだ?
「(魂の憑依っていうのは、私の仮説だけど、伝達や遺伝みたいな現象だと思うわ。)」
「(,,,,遺伝?)」
「(そう。昔一度だけ聞いたことがあったの。ある種族の先祖が、その代に生きてる種族に魂が移り意識が上書きされた現象があったって。遺伝って言い方は変かもしれないけど、生殖して子孫に、親や先代の遺伝子が現れる現象に近いから私はそうだと思ったの。)」
もしイコットの仮説が正しいとすれば、今ヒサメに、サファイア種の魂が移ったのだとすれば、
それはどんな意味を持つ?
マッディールは何に喜んでいる?
サファイア種の魂が移ったことか?
それとも、魂や意識が別の器に移ることに意味が?
分からない、、、今まで分かろうともしなかったから、
いや、分かりたくもないが、今はあの子に起きていることを知らないと助けてあげられない。
それが酷く、虚しく悔しい。
「(まぁ、私の話はこれだけ。、、、自分の無力に嘆いているところ悪いけれど、アッチをみなさい。No.5)」
そう言われて僕は、ハッと、
顔をヒサメたちのいる方へと向けた。
するとそこは驚くべき事態になっていた。
「ぐっ,,,これがサファイア種の能力、、、」
「ふむ,この身体は心地が良い。少量の我の細胞でこれ程の力を扱えるか。」
マッディールや他の研究員の一部が凍りついている。
そして手先から氷を出しているヒサメの姿だった。




