第五話 その一 実験体No.2 イコット・スノウ
「,,,時間もいい頃だな。そろそろ入っておいで、No.2〜。」
とマッディールが今いる実験室の外のドアの方へと呼びかけると、扉が開いた。
すると扉の奥から、ガラガラ、キャーンと言う金属音が聞こえてきて、そのヒトは連れられて入ってきた。
「.....お呼びでしょうか。マッディール様。」
「うん。最期の実験だよ。No.2。No.5とNo.13の能力を研究するために、やってくれるね?」
「わかりました。...あの、この実験が終わったら,」
「分かっているよ。No.2。君の望み通り、引導を渡してあげるよ。苦しまずにね。」
「....はい。ありがとうございます。全力を尽くさせてもらいます。」
女性の人型ではあるが、
その背中には黒い翼が生えて,
頭からは小さい丸みを帯びた角と猫のような耳が生えており、角に巻き付いているようにも見える。
そして腰の根からは、
猫特有の細長い尻尾が見え隠れしている。
猫の部位の方はおそらくだが、
移植されていると言った方が正解か。
このヒトが僕と殆ど同じ時期に捕まり、生き残っているNo.1〜No.5までの番号の実験体の1人か。
その瞳の奥は、
希望など一ミリもない絶望一色に見えた。
容姿もそうだが、今マッディールは何と言った?
引導を渡してあげる?
そしてそれに対して、No.2は感謝したのか?
そんなのまるで、死を望む世捨て人の様じゃないか。
でも、彼女の瞳から感じるその絶望には、
‘生を断り‘,’死を望む‘
そんな気配しか感じない様にも思う。
では彼女は本当に死を?
そう考え込んでいると、No.2が、コチラへと少し覚束ない足取りで歩いてくる。
鎖も錆びていて時折、
床へと当たりガラんと言う音が聞こえる。
「....初めまして、だよね。私はNo.2。君たちと同じ実験体の1人さ。名前は“イコット・スノウ”...見ての通り悪魔の一種サキュバスであり猫さ。」
と言って、No.2...改めイコットは、
僕とヒサメに手を差し出した。握手である。
僕はそれを理解して手を出して握り返した。
ヒサメも、何も言わないが、手を握り返していた。
その瞬間を狙っていたのか、
僕とおそらくヒサメの脳内に声が響いた。
「(まだこの実験に染まりきっていない、諦めていない2人にお願いがあるの。私を救うと思って、殺してくれないかな?)」
「えっ,,,,,,。」
「,,,さぁ。そろそろ実験をいや実戦を始めようか。No.2、No.5、No.13。準備して。」
僕の動揺も他所に、
マッディールが開始の声がけをして来た。
僕たちは抵抗できずに、立ち位置に誘導された。
さっきの台詞についてこの実戦の中で
聞かなければいけない。
命を絶って欲しいなんて要求をする
その意図を真に汲み取らなければいけない。
と僕はまっすぐにNo.2を見た。
すると彼女は、右手に彼女の等身よりも少しばかり大きめな悪魔と言えばのような槍を持って構えていた。
その槍は、先端から柄の部分まで赤黒く染まっており、それ程の肉を斬り骨を断ち血に塗れて来た証拠でもあるのだろう。
シーンと僕たちの間に静寂が響く。
互いに互いのことを見て静かに
開始の時を待っている。
ヒサメも、静かに、
No.2を、はたまたマッディールのことを見ているようにも思えた。
「・・開始。」
とマッディールの声が掛かると同時、
僕の目の前にイコットは突然として現れた。
「まずは、No.5。キミからだよ!」
と言って彼女はその持っていた槍を僕の身体に目掛けて突き刺そうとして来た。
僕は避けようと咄嗟に飛ぼうとした。
だが、欠けている僕の翼では、
アンバランスな体勢にしかならず、
欠けていない方の翼に槍の先端が刺さってしまった。
「うぐっ」
激痛が迸った。もちろん刺さっているからだ。
血も流れている。生体機能だからだ。
「(詠唱破棄)癒やせ!」
その痛みに耐えれず思わず僕は、
マッディールに見せた事がなかった、詠唱を唱えずとも使える癒しの力を行使し、止血をした。
血は止まっているが、槍は刺さったままで、痛い。
おそらく引き抜けばまた血が出てしまうだろう。
咄嗟だったせいでしくじってしまった。
そしてNo.2は、僕の翼に刺さっている槍の柄の部分を思いっきり引き抜いた。
「うぐっ」
再度痛みが走りながら、止血を続行したので、
なんとか翼は残った。
だが、槍を取り戻させてしまった。
「,,,次、No.13!」
「っ!!、ヒサメ,,,,逃げ,,。」
僕だと面倒だと感じたのかはわからないが、イコットは今度は、ヒサメ目掛けて槍を持って突進した。
僕は反応が遅れてしまい声しか掛けられず、
イコットの槍はヒサメの身体に確実に刺さる様な状態だった。だが、それは起きなかった。
「.........・・・・・。」
「氷,,,?一体どこから。」
突如としてイコットの下半身と槍を持っていた腕が凍っていたのだ。
言っておくとこの場には、氷を作れるような機材とかが置いているところは見た事がない。
つまり、あり得る可能性は一つしかない。
ヒサメだ。マッディールの能力かもしれないが、距離的に無理がある。
一体何が起きているんだ,,,!?
「やっと、目覚めた。宝石龍の目覚めは遅い。」
マッディールの声は、そう言いつつも悦びが含まれているようにか感じない。
ヒサメが今日ずっと黙っていたのは、
この氷を出した力のせいか?わからない。
「、、、我を起こすか。愚かな人間たちよ。」
ヒサメとは思えない低い声に僕は動揺した。




