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Ep.08 すれ違う

第一弾から読みたい!という方はこちらからどうぞ!

「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)

https://ncode.syosetu.com/n9044ky/


 全国紙に王立病院の調査結果が出たのはタブロイド紙の記事が出てから三日後のことだった。実際に薬の在庫が合っていないものが複数存在し、横流しの事実があったかどうかは調査中という中間報告だった。調査が終わり次第続報するとはあるが、世間の反応は国家の財産を横流しして利益を得た人間がいることに冷ややかだ。

 外来の患者さんも減っている。

 いつもは捌いても捌いても減らない処方箋の箱があっという間に無くなっていく。

 あの後、室長から薬剤師室の全員に私が横流し事件には関わっていないことを伝えてくれた。

 確たる証拠もなく、疑ったことを先輩方は謝ってくれたけど、ぎくしゃくとした違和感を払拭するところにまでは至っていない。

 薬剤師室の仕事も減って、なんだか白けた雰囲気になってしまった。


 昨日の聴取を報告書に纏めて、室長室に持って上がろうとした時、濃紺の制服の騎士と、黒い騎士服を纏ったノエルくんが薬剤師室を訪れようとしてた。濃紺の騎士服の男性は短髪の黒髪に黒い瞳の実直そうな男性に見える。

 

「失礼、騎士団のグラハムと言います。横流し事件の件で、室長にお話を伺いに来ました。ご在室ですか?」

 

 後ろにノエル君もいるが、いつもの殿下の騎士隊の顔で表情は薄い。


(ノエル君……ちょっと痩せた?)


 あの喧嘩の日から、連絡も取らず仕舞いだ。

 忙しくて会えないのはいつものことだが、連絡もしないのはお付き合いを始めて初めてかもしれない。

 

「はい、いらっしゃると思います。しばらくお待ちいただけますか?」

 

 ノックして、先に部屋に入る。

 アルフレッドさんは書類に向き合っていた。

 

「室長代理、騎士団からグラハムさんと、その……殿下の騎士隊からグレンジャーさんがお見えです。横流しの件でというお話でしたが、お通ししてもよろしいですか?」

 

「あぁ、先触れ貰ってるから大丈夫だよ。あと、フィオナさんも同席してもらえる? それ、こないだの被害者の調書でしょう? 一緒に説明してもらうと話が早いから。」

 

「分かりました」

 

 外に出て、二人の騎士を案内する。

 調書を一旦置いて、人数分のお茶を用意すると室長室に引き返す。

 香りたつお茶を騎士二人と対面する室長の前に置き、私も応接セットに腰掛ける。

 

「先日の薬の在庫に関する報告書は拝見しました。」

 

 グラハムさんはお茶を一口飲むと切り出す。

 

「実際の横流し量は、タブロイド紙に掲載されたものより多いということですね。」

 

 アルフレッドさんは椅子に深く腰掛けて眉間の皺を揉んだ。

 そりゃ室長の後を受けて代理になった途端、こんな事件を任されたのでは頭が痛いだろう。

 それとも、室長はこの件を知っていてどこかで調査しているのか……?


「えぇ、性被害事件に使われたもの以外に、少量で死に至る劇薬も含まれています。それが悪用されたらと思うと……」


「そちらの方は、今のところ被害の情報は上がってきていませんね。」


 グラハムさんの言葉を受けて、それまで黙っていたノエルくんが口を開く。


「王太子殿下も今回の事件は早急に解明するよう仰っています。

 捜査担当のグラハムさんには引き続き捜査に専念して頂きますが、内部調査には薬剤師室に派遣経験のある私を指名されました。ご承知おきください」


 え?

 ノエル君が?

 また薬剤師室にくるの?

 ノエル君を見るが、視線は合わない。ノエル君の目は室長代理に固定されたままだ。


「殿下にもこちらの報告書の写しは差し上げているはずですが?」


 室長代理のノエル君に対する表情が固い。

 報告書が信用できないと言われているのと同じだからだろう。


「薬剤師室はいわば当事者です。第三者による客観的な報告が必要なのは自明ではありませんか?」


 言い分としては尤もなのだが、ノエル君の言葉にも棘があるように聞こえる。

 ノエル君に限って仕事に私情を差し挟むようなことは……いや、あるな。

 前回、護衛と言いながら滅茶滅茶勤務時間中にベタベタしてきた気がする……。

 後で室長が怒っていたけど。


「それは、そちらの仰る通りです。存分に調査して頂いて構いません。

 それから、被害者の聞き取り調査の報告書ですが、今情報共有させて頂いても?」


 そう言ってアルフレッドさんは私に目配せした。

 私は報告書と写しの一部を騎士二人に手渡す。


「被害者からの聞き取りした内容を時系列で書いてあります。彼女は相当量のアルコールを摂取させられていましたが、意識が曖昧になる前に飲み物に何かを混ぜられたようだ、と。それが当院から紛失している睡眠導入剤と同じかどうかは確認できていませんが、アルコールと薬効が合わされば意識混濁状態になるのは間違いありません。

 先日の中毒死現場から押収したという液体の分析結果では、睡眠導入剤の成分が検出済み。

 本来、悪用を防ぐ目的で入れられている着色料がなぜ出てこないかについては、これから調査をする予定です。」


 グラハムさんとノエル君は私の報告を聞きながら、報告書をぱらぱらとめくっている。

 と、ノエル君が途中のページで目を止める。


「一瞬変色した……?」


「はい、照明が薄暗く、手元も暗かったため定かではないとは言っていましたが、一瞬だけ変色して見えた、と。そこにヒントがあるのではないかと考えていますが、まだ解明には至っていません。」

 

 ノエル君の目が私を見る。

 私自身の職場での微妙な立場も、怪しい手紙のことも。

 相談して、大丈夫だよ僕が守ってあげるよっていつもの笑顔で言ってほしい。

 だけど……

 

「分かりました。引き続き解明に向けて調査をお願いします」

 

 ノエル君の返答は事務的だ。

 やっぱり、もうダメなのかな……。

 仲直り、出来ないのかなぁ。

 せっかく好きって言ってもらえたのに、素直に謝ることもできない。

 あの時はごめんね、誤解だったんだよって言えたら……

 

「かしこまりました。グレンジャーさんの調査には部屋を用意しますか?」

 

 ダメだ、今は仕事中だ。

 室長代理に問う。

 

「そうだね。監査と同じで会議室を使ってもらおう」

 

「わかりました。総務に申請をして参ります」

 

 私は後ろ髪引かれる気持ちで部屋を後にした。

 

 

 

 総務へ会議室を借りる申請をした後、資料庫から過去の薬品管理台帳を一式持ってきた。

 会議室の鍵を開け、重たい台帳を下ろす。

 まずは窓を開けて、少しこもった空気を追い出すことにした。

 爽やかな秋の乾いた風が、会議室の中をさらっていく。

 このまま、私の抱えたもやもやも吹き飛ばしてくれないものだろうか。

 怪しい手紙に始まって、薬の横流し事件と、それから、ノエル君との喧嘩……。

 

(アルフレッドさんの話は、本気なのかどうかいまいち分からないしね……)

 

 こないだ、ノエル君には一人でお酒飲むなって言われてたのに、ヤケ酒してアルフレッドさん相手にさんざん愚痴ぶちまけちゃったしな。


(女としてっていうか、人間として、絡み酒かっこわるいよなぁ……)

 

 開け放した窓に頬杖をついた。

 色づいた銀杏の葉がはらはらと落ちているのが見える。

 下はさながら黄色い絨毯を敷き詰めたようだ。

 落ち葉を巻き上げながら子供の明るい笑い声が響く。

 なんか、何もかも上手くいっていた日々が遠い昔のようだ。

 新しい彼氏も出来て、借金もなくなって、青春を送るはずだったのになぁ。


(なんで私っていつもこうなっちゃうんだろう……)


 ぼんやりとしていると、扉の開く音がした。

 そこには黒い騎士様に身を包んだノエル君がいる。


(ノエル君……)


 ほら、こないだはごめんねって、誤解なんだって言わなくちゃ……


「失礼します。台帳は……、これですね。ご用意ありがとうございました。

 薬剤師室からの報告書は持参しておりますので不要です。

 後、お茶なども特に必要ありませんので、貴方が出た後はここを出入り禁止にして頂けますか?」


 ノエル君は騎士の顔で言った。

 まぁ、そうか。お互いに勤務時間中だもんね。


「かしこまりました。何か必要なものがあれば、薬剤師室におりますのでお声かけください

 失礼します」


 私はノエル君の横を通り過ぎ、扉を閉めた。

 ノエル君は目線だけで私を追って、引き止めはしなかった……。

 

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一言感想でも良いのでレスポンス下さい。作者の燃料になります><

また、レビューも頂けたら泣いて喜びます。


次話は翌日 AM6:00 予約投稿です。

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