Ep.07 疑心
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「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)
https://ncode.syosetu.com/n9044ky/
翌日も、翌々日も職場では遠巻きにされている。
いや、マジでなんなの。
心当たりまったく、これっぽっちもナッシングなんですけど!
今までは気軽に絡んできてくれた先輩たちが、話しかけてくれなくなった。
ただ、事務的な会話には応答はしてくれる、ただそれだけ。
「私、何かしてしまったでしょうか?」
仲がいいと思っていた先輩に聞いても、
「ごめんね」
と、そそくさと去られてしまった。
正直意味が分からない。
手紙は回収したものが全てで、先輩方には内容は伝わってないはず。
なんで、避けられているのか分からない。温かだった薬剤師室が遠ざかっていくようだ。今まで積み上げてきた信頼関係がほんの一瞬で崩れ去っていった。
信用って積み上げるの大変だけど無くなるのは一瞬だね!
こないだ逮捕された時は、全部解決してから戻ってきた。だからこんな扱いはされなかったけど、その時もこんな雰囲気だったのかなぁ?
あのフィオナが? みたいな。
それにしても、嫌な感じだなぁ。
身に覚えは全くないのに無視だけされるっての。
(本当にアルフレッドさんの言う通り、薬の横流し犯として疑われているのかなぁ?)
それすらも分からない。
なんで?
どうして?
そればかりが頭の中をぐるぐると回っている。
ちょっとこれはメンタル豆腐のフィオナさんは流石に落ち込む。
頼りたいノエル君は喧嘩したまんまだし。
(私は一人だ……ちくしょう……)
作業のように処方箋を処理することだけに集中した。
患者さんに薬の説明をする時も、どこか他人事のように感じているなんて。
私はどうしちゃったんだろう?
あんなに薬を、薬を必要な人に届けることが大好きだったのに。
心の中で茶化してはいるけど、今はここにいるのが辛い。
全部放り出して逃げ出してしまいたい。
知らず目の端に涙が滲む。
こんな風に、大切な薬を作業のように右から左に仕事をしてはいけないのに……。
「フィオナさん、ちょっと」
アルフレッドさんが薬剤師室の入り口に立っていて、こちらに手招きをしている。
周りの先輩が一斉に室長を見て、その後私に視線が集まった。
いたたまれなくなって、そそくさとアルフレッドさんに近寄る。
「はい、なんでしょう?」
「病院の医師から依頼があってね、ちょっとお願いしたいことがあるんだそうだ」
「わかりました、少しお待ち頂けますか?」
助かった。今正直泣きそうだった。
処理しようと取っていた処方箋を未済の箱に戻し、アルフレッドさんについて部屋を出た。
病院の廊下をアルフレッドさんと並んで歩く。
いつも優しい雰囲気のアルフレッドさんの表情が固い。
「薬剤師室、おかしかったね。何かあった?」
これは、職場の上司として相談してもいいのだろうか?
もう自分ではどうにもならない。
そして、正直辛い。
「その、一昨日の横流しの記事の日からなんですけど……」
「孤立してる? もしかして、言った通りになった?」
黙って頷く。
孤立してる? うん、そうだね。無視されてるしね。
それ以外に言いようがないし、思い当たることと言えばもうそれしかない。
「しまったな……横流しの話の直後に君だけ呼び出したから、変に勘ぐりさせてしまったのかもしれない……私の責任だね……」
あぁ、調査中って言った流れで私を呼び出したからってこと?
本当にそれだけ? ……だといいんだけど。
それだけで、あんな突然みんながみんな無視とか子供みたいなことする?
「後は……やっかみもあるんだろうね」
(やっかみ……?)
薬剤師室で一番下っ端の私は、日々の仕事で精一杯で、借金抱えた時にはド底辺だったはずだ。
やっかまれるようなこと……ある?
「やっぱり、自覚ないんだね。君、『妖精の小瓶』のフィオナって有名だろう? あのルピナス事件で一躍有名になり、薬の評価も鰻登りだ。その上、その功績で王太子殿下夫妻の覚えも目出度い。薬剤師室で一番下だと思えばこそ、優しく指導も面倒も見ていたけれど、新薬の発表はどの研究者にとっても夢なんだよ。それを一薬剤師が突然成し遂げて、注目を浴びている。
嫉妬と羨望の対象になってもおかしくない」
「でも、あれは本当に偶然で!」
いや、あれは故郷の伝統薬が王都にはないって知らなかっただけで、こんなに大きな事になるなんて想像もしてなくて……
「その偶然に出会える人間がどれだけ少ないかは君も知っているね?」
あ。
そっか……。
「……はい」
そうか。『妖精の小瓶』は人を幸せにする薬だと思っていたけれど、それが誰かの嫉妬や負の感情を掻き立てることもあるなんて想像もしなかった。
病院の外来の棟を抜けて、入院患者の病室が並ぶ棟に来てアルフレッドさんは立ち止まった。
「医師からの依頼なんだけど、今回のデートドラッグ事件の被害者から証言を取ってほしい。女性の看護師でも構わないんだが、この際、薬の知識のある君が直接証言をもらうことで、事件に何か分かることがあるかもしれない、という判断だそうだ。できる?」
だめだ。腐ってる場合じゃない。
薬で被害を受けた人がいる。
その人の心を、体を、治すのが私たちの仕事。
ちゃんとして、フィオナ。私は『国家薬師』でしょう?
「はい」
決意を込めてアルフレッドさんを見上げた。
「いい顔だ」そう言うと、アルフレッドさんは聴取にあたっての注意事項を確認してくれる。
記録用の用紙を手に、私は患者さんの待つ病室の扉をノックした。
アルフレッドさんは部屋の外で待機だ。
「失礼します。薬剤師のベルウッドと申します。お部屋入ってもいいですか?」
小さくか細い返答が聞こえた。
そっと音を立てないよう、中に入る。
部屋の出入り口に立ったまま、被害女性を見た。
髪は長く梳かれているが、青白い顔に表情は無く、窓の外に視線は固定したままだ。
「薬剤師のベルウッドです。お話をお伺いしたいと参りました。お話しづらい内容についてお聞きすることもあると思います。できる範囲で構いませんので、ご協力いただけますか?」
女性はゆっくりと私を振り返り、顔を合わせたが目の焦点は合っていない。
どんなに辛い目に遭わされたのだろうか。
同じ女性として胸が痛む。
ゆっくりと頷いてくれたのを見て、ベッドの側の椅子に腰掛けた。
「最初になりますが、貴方はもう安全です。これ以上、貴方が苦しむようなことにはさせないとお約束します。ここでお話して頂いた内容は、騎士団の捜査、医師による治療に参考にさせて頂くことはあっても、秘密は厳重に守られますのでご安心下さい。外に漏れる心配はありません」
女性の反応はない。
「事件に遭われた日のことを、思い出せる範囲で最初からお話して頂いてもよろしいですか?」
女性は自らの手に視線を落とした。
「最初……」
小さな呟きが聞こえる。
彼女は手元を見たまま続けた。
「最初は学院の同期の同窓会だったわ。二十人くらい? ゼミで同じだった卒業生ばかり……久しぶりに同期と会って楽しかった。結構飲んだかもしれない。でも、意識が無くなるほどじゃなかった」
女性の証言をメモを取りながら聞く。
「そこで、女の子数人と次の店に行こうという話になって、でも一度は断ったわ。あまり遅くなると家族も心配するから、って。でも、私学生の時からあまり付き合いが良くないって思われてたみたいで、強引に連れて行かれた。そこは若い男性の多いお店で、席についたはいいけど同期のみんなは順番に席からいなくなっていて、最後には知らない男の人ばかりに囲まれて飲まされていた……そこからの記憶は曖昧なんだけど……」
同じ女性として、卑劣な犯行に怒りが湧いてくる。
こんなの人間の尊厳を踏み躙る行為だ。
ただ、女性にこの怒りも憤りも見せてはいけない。
それは彼女の受けた仕打ちをもう一度味合わせるのと同じ。
淡々と、女性の証言に相槌をうち、事実だけを書き留めていく。
気付いたことがある。
女性が意識が朦朧とし始めた最初に飲まされた飲み物は、元から彼女が飲んでいたものだ。
そこに男の一人が氷を足すといってかき混ぜた時、一瞬色が変わったように見えたという。
すぐに色は戻ったので、気のせいだったと本人は思っているようだが、怪しい。
最後まで聴取を終えると、女性に礼を言って部屋の外に出た。
待っていたアルフレッドさんと合流し、聴取内容をざっくり共有する。
どちらにしろ、報告書の形で書き直しはするのだが、さっきの違和感の正体を一緒に考えてほしい。
「一瞬色が変わった? 何色だったかは分かった?」
「いえ、薄暗い照明だったのと、手の影になっていたので、ご自身は影が差しただけかと思っていたようです。」
「ふむ……溶液の色の変化か……」
ヒントは出されていて、形も見えているのにするりと逃げていくようだ。
今のは重大な手かがりになるのは分かっているのに、これをどう解決したらいいのだろう?
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次話は翌日 AM6:00 予約投稿です。




