Ep.06 記事の衝撃
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「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)
https://ncode.syosetu.com/n9044ky/
朝出勤すると、いつになく薬剤師室はざわざわとしていた。
先輩方がタブロイド紙を手に手に集まってる。
もうすぐ朝礼も始まるというのに、どうしたのだろう?
「どうかしましたか?」
「フィオナ、これを見ろ」
あー。例の王太子スキャンダルの時のタブロイド紙じゃないですか。
この新聞は飛ばし記事を出すことでも有名だけれども、独自取材で有名人のスキャンダルをスッパ抜くこともままある。どっちの意味でも「あーあの新聞社ね」、となるところなのだが。
見る前からもう見たくないんですけど。
どうせまた飛ばし記事じゃないんですか。
先輩が指し示したタブロイド紙の一面には、衝撃的な内容が書かれていた。
『王立病院で不正か? 薬の横流し疑惑発覚!』
は?
いや。
……は?
二度見、三度見した。
記事には、王立病院の薬剤師室で納入されている薬を不正に販売し、利益を得ている人間がいるとする内部情報を得たとある。しかも、その横流しされた薬は王都で連続発生しているデートドラッグによる性被害事件に関係しているって……何だこりゃ!
(あの在庫の合わない睡眠導入剤……、騎士団からの分析で来たエール……)
ここで繋がるのか!
薬の在庫が合わないのを発見した時も、発覚したら大問題になると思ってはいたけれど。
いきなり内部告発されるとは誰が想像できただろうか。アルフレッドさんがあの薬については調べておくとは言っていたけれど、どこまで調査が進んでいるのか聞いてはいない。
だが、本当にこの睡眠導入剤だったとして、分からないことがある。
悪用されないために薬に混ぜられているはずの着色料がなぜ消えたのか、だ。
ここが分からないことには何も進まないはずなのだが……
「おい、フィオナ。お前、何か知ってるのか?」
考え込んでしまった私に、先輩が不審な顔をする。
「いえ、何も……」
言いたくても言えないんだなこれが。
騎士団の分析依頼は部外秘だ。
先輩に話せることは申し訳ないが何もない。
「あぁ、皆んな集まっているね」
そこに足早にアルフレッドさんが入ってきた。
私たちの中心にあるタブロイド紙に目をやる。
「聞いて欲しい。皆んなも知っての通り、タブロイド紙に横流し疑惑の記事が載っている。最初に言っておくけど、私は君たちを疑っていない。内部告発者もいないと信じてる。
タブロイド紙に対しては王立病院の総務で一括対応する予定だから、出入り口で記者に捕まっても総務を通してもらうよう言って欲しい。個人で答えるとややこしくなるから避けてね。しつこい記者は騎士団に突き出して貰って構わないから。あと、患者さんへの対応だけど、一応ご説明の張り紙は用意するよ。個別の質問は新聞に公式に発表するからってお伝えして。
以上だけど、質問は?」
アルフレッドさんは毅然と言った。
先輩の一人が弱々しく手を上げる。
「室長代理が信じてくれるのはありがたいんですが、実際横流しはあったんですか?」
「ごめんね。それについては今は調査中としか言えないんだ。ただ、事実確認が出来次第君たちにちゃんと説明の機会を設ける。それでいいかな?」
「じゃぁ、解散で」というと、アルフレッドさんは私に近づいて「ちょっと」と囁いた。
私はそのままアルフレッドさんについて室長室に入る。
応接セットに促され、自分も腰掛けながらアルフレッドさんは切り出した。
「タブロイド紙の記事は読んだね?」
「はい、ざっとですが……」
「まず、こないだ騎士団から来た分析依頼の証拠品だけど、タブロイド紙にある通り性被害事件の現場から押収したものだ。今回の事件は薬で被害者が中毒死していてね。遺体発見現場から見つかったんだよ」
やっぱりそうなのか……。
今回の睡眠導入剤は大量に飲むと意識混濁を超えて死に至ることもある。
実際、着色料が入れられる前には殺人に使われた。
「では、ここの在庫から横流しされたと?」
はぁ、と一息つくとアルフレッドさんは口を開いた。
「実はフィオナさんには言ってなかったんだが、他にも在庫が合わなかった薬がいくつかあるんだ」
え?
それは聞いてない、ていうか、これ私が聞いていい情報だったの?
室長以上の機密事項とかのレベルじゃない?
「それも、管理の厳しい劇薬指定のものも含まれてる」
うわぁ------------------!
さらっとそれ以上の情報漏らさないでー!
守秘義務ー!
アルフレッドさんは真剣な顔で続けた。
「だからこそ、薬の効能や病気を治すという信念を持った君たち薬剤師室の皆んなが犯人だと、私は思わない」
そうだ。
薬剤師の私たちは、薬にも毒にもなるものを扱っている。
最初は毒だったものを薬として転用できるよう、先人たちの努力の後ろに私たちがいるのだ。
その信念がなければ、私たちは『薬剤師』ではない。
「薬の在庫が消えた件については、引き続き調査しているからこちらに任せて暴走しないでね。
フィオナさん、前回色々自分で頑張ったんでしょう?」
ぐ。ドレイク室長、バラしてたのか。
あれは、記憶の彼方に葬り去ったので私の中には存在しないことになっているんです。
あの時のノエル君は本当にやばかった。
あれがトラウマで、この先のノエル君との進展がちょっと怖いのは間違いない。
「えぇっと……、危険なことには首を突っ込みません……」
よくできました、とばかりにアルフレッドさんが微笑む。
あ、危険なことと言えば、この際だから相談しちゃおうかな。
結局ノエル君には喧嘩しちゃって言えなかったし。
前回も相談怠ってあんなことになったんだから。
「アルフレッドさん、折り入って相談がありまして……」
私はポケットから三枚の紙片を取り出した。
二枚は家に、一枚は職場で私に届いたものだ。
『お前の秘密を知っている』
この不穏な内容の不思議な手紙。
色々考えてみても、やっぱり私に誰かに話して困るような秘密はないはず。
「このうち二枚は自宅に、一枚は職場の私の机の引き出しに挟まれていました」
受け取ったアルフレッドさんは三枚の同じ内容の紙片の文言に眉を寄せた。
「これは……いつ?」
「一月ほど前に続けて二回、その次は先週です」
ふむ、といいながら紙片を机に置く。
「やっぱり君は危機感が足りてないね。こういうことはもっと早く相談すべきだ。まして、自宅も職場もとなったら尚更でしょう」
「申し訳ありません……」
アルフレッドさんの珍しい叱責口調に返答も小さくなる。
ん〜、と考え込みながらこつこつと紙片を指先で叩く。
「今日からしばらく自宅まで送迎することにしよう。玄関先に挟まっていたなら、一緒に行ってまたこれが来てないか確認することもできる」
え? 毎日? さすがにそれは、護衛が任務だったノエル君ならまだしも、室長代理だって忙しいでしょうに。
「さすがにそれはご迷惑では……、今のところ手紙以上の実害はないわけですし。心当たりもないですよ?」
「フィオナさん、自宅の方はまだいいよ。でも、職場で他の誰かがこの手紙を先に見ていたとして、今日のタブロイド紙が合わさるとどうなると思う?」
ん? どうなるんだろう?
内容は『お前の秘密を知っている』だから、タブロイド紙は……薬の横流し……
(ちょっと待って、私が薬の横流ししてるのを脅迫されているとも取れるんじゃ!)
ハッとする私を見て、アルフレッドさんは頷いた。
「そういうことだから、しばらくは周りに注意してね」
室長室を出て考える。
だからいくら色々考えたって、私はやってないんですけどね。
薬の横流ししてまで利益欲しいとか思わないし。
なんなら借金あった時からは考えられないくらいお金は有り余ってる。
銀行の借入優良顧客だった私は、今や預金の優良顧客だ。
あの手紙は一体何が目的だったのだろうか……。
考えながら薬剤師室に入って気付く。
先輩たちが私の顔を揃って見たと思うと、一斉に目を逸らした。
ん?
近くの先輩に声をかける。
「すみません、遅くなりました」
「い……いや、フィオナ、室長との話は済んだのか?」
何だろう。やたら挙動不審だ。
「はい」
「あぁ、ならいいんだ。もう処方箋来はじめてるから順番にやってくれ」
目が合わない。
誰とも。
皆んな私の周りをそそくさと通り過ぎて行く。
なんで?
私、先輩たちに何かした?
『フィオナさん、自宅の方はまだいいよ。でも、職場で他の誰かがこの手紙を先に見ていたとして、今日のタブロイド紙が合わさるとどうなると思う?』
アルフレッドさんの心配が現実になろうとしている……。
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