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Ep.05 最初の喧嘩

第一弾から読みたい!という方はこちらからどうぞ!

「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)

https://ncode.syosetu.com/n9044ky/


「フィオナさん、少しお話しをしたいのでお邪魔しても?」

 

 薄明かりに昏く輝く青色の瞳。

 いつもの優しいノエル君の声じゃない。


「え、うん……。いいけど……」


 ノエル君とのお付き合いの中でお食事や送り迎えはしてもらうけど、だいぶ前にお見舞いに来てくれた時以来ノエル君を家に入れたことはない。

 でも、私もこの際相談したいこともあるんだよね。

 せっかく忙しいノエル君が来てくれたのだから、と扉の鍵を開けた。


(————————!)


 私が扉を開けるや否や、腕が掴まれたと思うとノエル君に強引に押し込まれた。

 そして、私を抱き抱えるようにすっと入れ替わると、扉の鍵を閉めてしまう。

 玄関の扉を背に、腕の中に囲い込まれている。

 暗い部屋でノエル君の瞳に灯りはなかった。


「ちょ……ノエル君?」


 黙ったまま私を見下ろすノエル君は可愛い美少年ではなく、男の人だった。

 いつもの柔らかな表情が、ない。


「フィオナさん」


 いつもの澄んだ低音が硬く聞こえる。


「あいつの立候補、嬉しいんですか?」


 え?

 ちょっと待って、今日の話? こないだの話?

 どっからどこまで聞いてたの?

 いや、そうじゃない。そこじゃなくて。

 立候補はだって今までそんなふうに思って貰ったこと殆どないじゃん、でもさ。

 いや、誤解だよ。ちゃんと私はごめんなさいって言おうとしてて……


「フィオナさんとお付き合いしてるの、私でしょう? 違いますか?」


「ちょっと……待って、誤解だよ!」


 顔が近づく。

 ノエル君の顔は彫像のようだ。

 美しいけど、怖い。


「それとも、もう心変わりしました?」


「だから、誤解だって! そんなことしてな……


「私がそれを許すとでも?」


 え? と思った時には顎を取られていた。

 いつもの優しい触れ合うようなキスではない。


(喰われる——————!)


 壁に荒々しく押し付けられたかと思うと、顎にぐいっと指がかかる。

 口を開かせ、舌を捩じ込まれた。

 嵐のような深いキスに息ができない。

 あまりの苦しさに胸を叩くが、鍛えられた体に虚しい抵抗だ。

 叩いた手首を掴まれたと思うと、壁に押し付けられる。

 指を絡められた。

 唾液が飲み込みきれずに口の端を流れていく。

 思うままに蹂躙したかと思うと、舌先で私の唇をなぞられた。

 酸欠で息が切れ、力が抜けてへたりこみそうになるのを、鍛えられた体に抱き止められる。


「貴方は私だけのものだ、そうでしょう?」


 耳元で囁かれる。

 なんだこの悪魔は。

 私、疑われるような事なんにもしてないのに。

 なんでこんな私が悪いみたいに追い詰められてるの?

 怒りが腹の底から湧いてくる。

 なんでこの人はいつも私の話を聞いてくれないの?

 私の言い分だってあるはずでしょう?


(こんな……、こんな体で黙らせようとするなんて、なんで……)


 あまりの悔しさに、目を見開いたままぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

 悔しい。

 一番大好きな人に、こんな疑われ方するの?

 一番信じて欲しい人に、信じてもらえないって。

 涙が止まらないよ。


「かえって……」


 か細い声が出た。


「のえるくん、もうかえって……」


 やっと私の泣き顔に気付いたのか、ノエル君が息を呑む。

 今日は話したいことも、相談したいこともいっぱいあったのに。

 久しぶりに会えて嬉しかった。

 でも、もうダメ。

 私の心が耐えられない。


「ごめん、ノエル君。今日はもう帰って」


 ノエル君はそっと体を離してくれた。

 私はくるりと振り返って扉の鍵を開ける。

 俯いたまま、顔を上げることができない。


「フィオナさん、ごめん……


「もう帰って!」


 こんなぐちゃぐちゃの気持ちでノエル君と話したくない。

 この先、一緒にお付き合いが進むにしたって、もっと優しくしてくれると思ってた。

 こんなノエル君の怒りに任せて、ねじ伏せられるようなの耐えられない。


「……また連絡します。おやすみなさい」


 ノエル君が出て行った後、鍵を閉めて蹲った。


 あの手紙のこと、相談しようと思ってたのに出来なかったよ。

 今度いつ会えるかも分からないのに、次の約束もせずに追い出しちゃっし。

 ノエル君、きっといっぱい心配してくれたのかもしれないけど、このままお別れなんてことになったらどうしよう?

 いやだよ、こんなの。想像しただけでまた涙が出てくる。

 こんなにちゃんとノエル君のことが好きなのに、何も伝わっていないことが悲しかった。

 

 

 

 次の日、このもやもやをなんとかしたくて、仕事終わりにジュリーの店に向かう。

 今日は定時で出られたからまだ仕込み中のお店も多い。薄く美味しい匂いが漂い初めている。

 ジュリーのお店はまだ誰もお客さんがいなかった。

 

「あらぁ、フィオナちゃん。いつもの子犬はいないの?」

 

 ジュリーにかかるとノエル君も子犬扱いということだ。

 子犬なんかじゃないぞ、あれ。闘犬の類じゃないの。

 今日はもう知らん。

 

「一人、エール、串焼きちょうだい」

 

 最初からノエル君とセットみたいに言われて憮然とする。

 カバンを少し乱暴に置いて、カウンターに腰掛けた。

 

「あらあら、今日はご機嫌ななめね。でも一人なのにお酒、いいの?

 止められてるんじゃなかったっけ?」

 

 ノエル君がいない時には一人でお酒は飲まないように言われていて、律儀に守っていたけれど今日くらいはヤケ酒飲んでいいと思うのよ。

 

「エール、くれないなら帰るよ」

 

「まったく、後で怒られても知らないわよ?」

 

 エールを手に戻ってきたジュリーが私の前に杯を置く。

 

「で、何があったわけ?」

 

 カウンターに頬杖をついて覗き込むジュリーの言葉に答える前に、エールを一気飲みする。

 

「ちょっと喧嘩しただけ、おかわり」

 

 空けた杯を受け取ったジュリーが眉間に皺を寄せた。

 

「ヤケ酒するほどの喧嘩って、ちょっとじゃないじゃないのよ」

 

 ジュリーがおかわりを取りに行く背中に声をかける。

 

「別に、ただの喧嘩だよ」

 

「そうなんだ、ごめん。やっぱり喧嘩させちゃったんだね」


 と、急に後ろからアルフレッドさんの声がして驚いた。

 慌てて振り向くと、アルフレッドさんが仕事帰りの態で立っている。

 

「食事しにきたんだ。横、座ってもいい?」


「あ、はい。どうぞ」


 アルフレッドさんが隣に腰掛ける。 

 この店お酒も料理も美味しいけど、薬剤師室、特に男性には人気がないのによく知ってたな。

 優男風イケメンはジュリーのストライクゾーンに入っているのに、大丈夫なんだろうか?

 

「あら、いらっしゃい。フィオナちゃん、知り合い?」

 

 エールを持ってきてくれたジュリーの目が、私とアルフレッドさんの間に走る。

 

「あぁ、えぇと。アルフレッド・ロシュフォールさん、新しくきた室長代理なの」

 

「初めまして、私もエールを貰おうかな」


 アルフレッドさんはにこやかに微笑んだ。

 ジュリーの目がきらりと光る。

 おっと、これはもしかしてジュリーのお眼鏡にかなったということだろうか。

 確かにアルフレッドさんはとても大人だし優しいし、ジュリーと比べても変わらない高身長だし何よりイケメンだ。

 

「へぇ、薬剤師室の。私はここの女将のジュリーよ。エールね」

 

 あぁ、アルフレッドさんが餌食にならないことを祈るしかない。

 そっち方面が大好きなお姉様方には需要がある……?

 ガチムチオネェと優男イケメンか……需要あるんだろうな……。

 

「昨日のこと、彼の剣幕が凄かったからちょっと心配になってね。

 フィオナさんには悪い事をしたな。話を聞かれたタイミングも悪かったし」

 

 ごめんなさい。凄く失礼な想像をしてました。

 あー、そういえばそんな事もありましたね。

 結局、ノエル君の剣幕が凄過ぎて記憶が飛んでたかもしれません。

 どこまで聞いててどれを怒ってたのかは聞いてないんですけど、でも全部怒ってそう。

 

「いえ、こちらの話も一方的に聞いてくれなかったのはノエル君だし……」

 

 エールの杯に口をつけながら自然と目線が下がる。

 

「そうか、それは辛かったね」

 

 戻ってきたジュリーが「はいよ」とアルフレッドさんの前に杯を置く。

 彼が話を聞く体勢になっているのを見てとったのか、ジュリーはそのまま何も言わずに奥に引っ込んでいった。

 

「君がちゃんと断ろうとしてたって、彼、知ってるの?」

 

 あ。ちゃんと私の気持ちわかっててくれたんだ……。

 最後まで言ってなかったのに。

 

「だって、こないだあんなに頬を赤らめて、お付き合いしてる人がいるんだって言われたらわかるさ」

 

「ごめんなさい」

 

「謝る事はないよ。昨日も言った通り、君の気持ち次第なんだから」

 

 優しい。

 今のやさぐれた心に、アルフレッドさんの優しさが沁みる。

 気持ちがふらふらしているところにこんなに優しくしないで欲しい。

 一気に飲んだエールのおかげで、頭と心がふわふわ揺れている。


 私は酔いに任せてアルフレッドさんに普段の愚痴をぶちまけた。

 そして、程よく酔っ払ったところで、家まで送ってもらう。

 アルフレッドさんは

「おやすみ」

 とだけ言ってスマートに帰って行った。

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一言感想でも良いのでレスポンス下さい。作者の燃料になります><

また、レビューも頂けたら泣いて喜びます。


次話は翌日 AM6:00 予約投稿です。

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