Ep.04 巻き込まれた災難
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「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)
https://ncode.syosetu.com/n9044ky/
分析にかかり切りになって三日目。ようやく混入している物質の特定ができた。
(これって……こないだ数字がおかしいって言ってた睡眠導入剤の主成分じゃないの……)
睡眠導入剤は何種類かあるが、大まかに二つに分けられる。
精神を安定させてることによって長く効果が続くもの。これは急激に眠くなることはないが、眠ってもすぐに目を覚ましてしまう患者さんに処方されることが多い。
もう一つは眠気を出す成分を直接取り込むことによって急激に眠くなるもの。ただし、これは頭の中の「眠たい」のサインを出すだけだから、急激に眠くはなるが効果は長く続かない。
この二つのうち、急激に眠くなる方の主成分と同じものが証拠品から発見された。
そして何より問題なのは、『先日チェックしたリストのうち大量に在庫が合わなかった薬』と同じだというところにある。
(アルフレッドさん。知ってたか、既に予想してて私に指名したんだわ……)
してやられた、という気分が抜けない。
あの薬の在庫をチェックして、誤りを発見した時点で否応なく巻き込まれているからだ。
(薬を誰かが横流ししている——————?)
待て待て待て。
王立病院の薬は国の予算と王家、貴族の寄付で賄われてるんだぞ?
そんなの発覚しようもんなら大事件だ。
『お前の秘密を知っている』
あ。
え……? あれ……?
嘘だよね。もしかして、この薬の件で私、疑われて……?
いや、疑心暗鬼に陥るのは良くない。
まずもって、フィオナ。疑われるような事なんにもしてないじゃないの!
いや、してなくても逮捕された……待て。この記憶の蓋は開けてはいけない。
(でも待てよ……。横流しだったとして、この薬が原因なわけない……)
この薬は元は水に溶かしても無色透明だが、だいぶ前に大量に飲ませて死なせる事件があってからは、水に混ぜると緑色になるよう着色料が入っていたはずだ。
着色料の入っていない薬を使ってる?
なら、薬剤師室の薬は何処へ行ったのかって話になるよな……。
いかん。ぼーっとしてしまった。
分析結果をレポートにして、アルフレッドさんに報告しなきゃ。
「失礼します。ベルウッドです」
すぐに応えがあり、部屋に入るとアルフレッドさんは描きかけの書類を側に置いて顔を上げた。
「お疲れ様、フィオナさん。同定は終わった?」
アルフレッドさんの前に進み出ると、報告書を手渡す。
ぱらぱらと書類をめくる音だけが響く。
「うん、私の結果と一緒だね。こないだのリストの睡眠導入剤か……」
アルフレッドさんは報告書を置くと、椅子に深く腰掛けて眉間の皺を揉んだ。
「あの……同じ成分ではありますが、リストの睡眠導入剤とは言えないのでは……」
私の言葉にアルフレッドさんが顔を上げる。
「あぁ、着色料の話でしょう? それは私も気になっていた」
う〜ん。
睡眠導入剤と同じ成分の特定が出来たというのと、リストの件があったから「これだ!」って気になったけど、もしかしてまだ特定できていない物質が残っているのだろうか?
何か見落としてる……?
「アルフレッドさん、同定作業をもう一度やり直しますか? 全部確認出来ていないのかも……」
「それもあるけど、判定できないほど微量な何か、という可能性も考えた方がいいかもしれないよ?」
(——————————!)
そんなもの、うちの機材でも難しいだろう。
もっと多くの証拠品が手に入るならいいけれども。
あるはずの着色料。
無くなった睡眠導入剤。
それから……、私宛ての不審な手紙……。
一体、今私の周りで何が起こっているのだろうか?
その日も遅くなってしまったので、アルフレッドさんに送ってもらうことになった。
証拠品の件については、色々と話したいことはある。だが、部外秘の話でもあるし職場の外ではNG、というか無くなった薬の件は室長室以外では口外厳禁だ。
相変わらず夕闇に包まれた街は、酒場の喧騒と屋台の美味しい匂いが漂っている。
今日も夕食にと誘ってくれたが、それはさすがに辞退した。
一応職場の上司とは言え、その、二人きりで食事とか……デートみたいじゃん。
「こんなことを聞くのは失礼かもしれないんですが、アルフレッドさんご結婚は?」
アルフレッドさんは分かりやすく少し驚いた顔をした。
そりゃそうか。こういうの聞くのもセクハラなんだっけ。
「はは、結婚はしてないんだ。してたら、君に立候補したいなんてさすがに言わないよ」
えっと……その話はどさくさに紛れてフェードアウトしたのではなかったのですか。
むしろ忘れててください。私はとっくに忘れました。
いや、だってさ。
「えっと……、その……私、お付き合いしている方がいるので……」
そう、ノエル君が忙し過ぎて会う機会がめっきり減ったので忘れがち、いや、忘れてはないんだけど、ちゃんと現在進行形でノエル君っていう「彼氏」がいるわけだから。
ちょっと自分で言うのは恥ずかしくて、もごもごしてしまう。
アルフレッドさんは優しく笑うと、
「でも、彼と会えてないんでしょう?」
さらりと言い放った。
え?
会えてないのは事実ですけど、なんならこないだのアルフレッドさんと帰ってノエル君が割り込んできた時以来会ってませんけど、なんで知ってるの?
(この人、優しい顔して辛辣なのか……?)
「フィオナさん、そんなに急がないから考えてみてくれないかな。君、危なっかしくて時々見ていられないんだよね」
それ、ノエル君にも言われたことあるんだけど。
一応成人女性なのに、そんなに警戒心薄い感じなんだろうか?
自分ではガード固い方だと思うし、モテないから全然大丈夫だと思っていたのに。
あ、でもこないだガッツリ化粧してもらった時は結構美人に見えたな。
自分で絶対再現できないのが口惜しい。
「いや、お気持ちは嬉しいんですけど……」
ふふ、とアルフレッドさんが微笑む。
「嬉しいって思ってくれるんだね。良かった」
いや、すみません。最後まで聞いてください。
その後ちゃんとごめんなさいって言うところで……
「わっ!」
音もなく後ろからしゃぼんの香りに包まれた。
この香りはノエル君だけど……
強張った体に抱きしめられている。
いつもは安心するはずなのに、なんだろう? 怖い?
「やぁ、グレンジャー君だったかな。仕事はいいのかい?」
そういえば、外に出る時は濃紺の騎士服に着替えてくるのに今日のノエル君は黒い騎士服のままだ。
視線の先のアルフレッドさんはいつものにこやかな微笑みをたたえている。
「貴方に名乗った覚えはありませんが」
体から直接響いてくるノエル君の声が固い。
それに棘がある。
「あぁ、それなら、君は薬剤師室にいたことがあるでしょう? ドレイク室長から聞いているよ」
「それにしても、今のは聞き捨てなりません。彼女と交際しているのは私です」
「今はそうでも、彼女の気持ち次第だと思いませんか?」
なんだこの修羅場……。
私モテないはずじゃなかったのか……?
何でこんな一人の女性を取り合うイケメン二人とか恋愛小説みたいなことになってんの?
あれ……?
しかも、噛み付いているはずのノエル君に対して、アルフレッドさんが最初からずっと優しい微笑みを崩していない。さすが大人というか……。
「私がそんな事にはさせませんよ。行きましょう、フィオナさん」
ノエル君に肩を抱かれて促される。
「いや、えっと、その、ここまでありがとうございました。おやすみなさい、アルフレッドさん」
とりあえずお礼だけは言っておかねばと思ったのに、肩に置かれたノエル君の手に力が入った。
「じゃぁ、おやすみ、フィオナさん。また明日職場でね」
私だけににっこりと笑うとアルフレッドさんは踵を返した。
それをノエル君と見守る。
「行きましょうか、送ります」
相変わらずノエル君の声が固い。
私も見つかったタイミングが後ろめたくて、気まずくて何も言えなくなってしまう。
久しぶりに会えてたくさん話したいことがあったのはずなのに。
暗くなった街路を歩きながら沈黙が続く。
家の扉の前に着いた時、ようやくノエル君が口を開いた。
「フィオナさん、少しお話しをしたいのでお邪魔しても?」
ノエル君の目は薄明かりに昏い色をしていた。
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