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Ep.21 手紙の送り主

 耳元での説教はエグい。

 しかも馬の上で逃げられないし、がっちりホールドされてたし。

 何? 公開処刑か何か?

 隣で馬を進める騎士さんの生温い視線が忘れられないよ。

 こないだの立哨の騎士さんといい、なんでこんな「残念な子」扱いされないといけないわけ?

 

(世の中、理不尽だ!)

 

 そして、何故か私は王太子殿下の執務室に連行された。

 部屋めっちゃ広!

 そして、煌びやかなのかと思ったらそうでもない。

 重厚な執務机と趣味の良い調度類。

 シックな色合いで纏められて、実に趣味がいい。

 王太子殿下の好みなんだろうな。

 まぁ、そんな雰囲気の方ではあるけれども。


 部屋には執務机にカミル殿下が、応接セットに室長とアルフレッドさん、そこに私とノエル君が加わる。

 

「来たか。災難だったな、ベルウッド」

 

 まぁ、実に災難ではありました。

 殺されそうになった後、生殺しになるという意味で。

 

「当事者であるお前に概要だけでも教えてやらねばと思ってな、叔父上よろしいか?」

 

 カミル殿下はお茶を啜っていた室長に話をふる。

 室長はいつもの薬剤師のよれよれローブじゃなく、ぱりっとした服を着ていて、しかも眼鏡じゃない。そして、何よりぼさぼさだった髪が綺麗に整えられている。


(誰? これ?)


 さっきはばたばたしていたからスルーしていたけど、なんなのこの美男子。

 え? 毎日お茶してたけど、室長ってこんなだったっけ?

 あのヨレヨレってもしかしてわざとだったの?

 こんな美男子が病院にいたら、モテモテになるだろうにそんな話聞いたことないぞ。

 

「そうだね、まぁ犯人に誘拐されたからフィオナさんも分かってるとは思うけど、薬の件は王立病院の副院長と、薬学研究所の副所長が犯人だよ」

 

 あの人、高そうな服だなとは思っていたけど、薬学研究所の副所長だったのか!

 

「まぁ、色々聞きましたけど、その。

 若い院長が来て出世出来ないとか、その『妖精の小瓶』の件で逆恨みされてたみたいで……」

 

 ぽつぽつと馬車の中であった副院長の話をする。

 

「なるほどねぇ。まぁ、自己顕示欲と承認欲求の塊みたいだなと思っていたけど、そういうことだったのか……」

 

 室長はお茶を飲みながらうんうんと頷く。

 いや、飲み方めっちゃ品があるのは知ってたけど、美男子がそれはずるいわ。

 

「それなら時期的にも合うかな。今の院長が赴任した時から薬の在庫がおかしくなり始めたからね。

 どうも私を更迭して子飼いの薬剤師を室長にしたかったみたいだよ。後、研究所の方は所長が僕だからね。邪魔だったんじゃないかな? まぁ、ここらは派閥の話になっちゃうから、フィオナさんはあんまり知らないかな」

 

 あぁ、そういう事情は全く疎いので。

 ていうか、研究所って出向だって思ってたんですが所長もやってたんですか。知らなかった。

 医師だの研究所だの派閥とかなんとか末端の私が知るわけないじゃないですか。

 

「じゃぁ、タブロイド紙に記事が出たのも副院長ですか?」

 

 私が聞くと、室長はにっこり笑った。

 いや、いつも見てましたけど、誰ですかこの美男子。

 

「それは私だね」

 

 は?

 しれっと室長は言ったけど、何で薬剤師室の不利になるようなこと……

 

「副院長は私と君をハメるつもりだったんだ。君を巻き込む前にこちらから先手を打ったんだよ。

 前回のルピナスの件であそこの新聞はカミルに借りがあるからね。清算させてやった」

 

 あー。

 要するに、こういうことか。

 副院長と薬学研究所の副所長は共謀して、室長と私を排除したかったと。

 で、薬を横流ししてタブロイド紙にセットでタレ込まれる前に、室長が先に横流しの件を告発しちゃったから思惑を外されたってことなの?

 

「それは分かりました。でもその……私がなんか有名になったことでへんに恨まれていたのと、新しい病院がなんとかって……それもなんか理由の上乗せみたいな話だったんですが、身に覚えがなくて……」

 

「あー。それはねぇ、王太子妃の意向でね。君が『妖精の小瓶』の特許料をそのまま預けただろう? それを基金にして女性専門の病院を作ろうという話になってね。最初は王立病院の一部門としてって話だったのを、独立した病院にすることになったんだ。そこの薬剤師室の責任者に君を推薦した件かな?」


 な!

 そんな話今初めて聞きましたけど!

 驚きに呆然とする私に、室長はいたずらが成功したみたいに笑っている。


「だって、『妖精の小瓶』を広めたのは君で、君の特許料で出来る病院なんだよ? 君をそこのポストにつけるのに何も問題なんかあるわけないだろう」


 いや、そうは言ってもさぁ。

 薬剤師の仕事は現在進行形で頑張っているけれど、まだまだ半人前の私が管理職とか……。


「フィオナさんなら問題ないと思いますよ? どちらにしろ、病院自体まだ準備段階で出来るのは数年先の話になりますしね」

 

 今まで黙って聞いていたアルフレッドさんが言う。

 ていうか、アルフレッドさんも知ってたのか。

 

「後、教えて頂きたいんですが、アジルスの原液の件です。睡眠導入剤との併用で着色料が無くなる作用を悪用することを思いついたのは研究所の人なんですか?」


 私の質問に室長は唸った。

 

「う〜ん、それはアジルスの研究過程で分かったことだね。私も知ってはいたけど悪用するところまでは意識が及ばなかったな。うちの副所長か副院長か、どっちがそこに思い至ったのかはこれからの聴取してみないと、かな」


「それから、副院長が持っていた薬が小麦粉だったのは何でなんです?

 副院長は劇薬だって信じてたみたいなのに、なんで室長は知ってたんですか?」


「そんなの僕がすり替えたからに決まってる。病院から持ち出された薬のうち、睡眠導入剤は売られた後だったけど、他の薬は研究所の中に隠してあったからね。瓶だけそのままに、塩と砂糖と小麦粉にすり替えておいた。保管するだけならいいけど、使おうとされても困る」

 

 あの時の殺されるかもしれないという恐怖と、薬が降ってきた時の焦りを返してほしい。

 馬車の中でぶちまけられて、どれだけ怖かったと思っているんだ。


「いよいよ証拠も押さえて逮捕しようとしたら、副院長が先に告発していてフィオナさんは騎士団にいるって言うし。そこの能無しが身柄を押さえるのに失敗して逃がしてしまうし散々だよ。

 君には怖い思いをさせたね」


 カミル殿下の方を顎で指して「そこの能無し」とは辛辣な……

 ルピナス事件の時も殿下のことをこき下ろしていたし、元からそういう扱いなのか……

 いや、でも今朝私が親切心で女の子を先に出さずにそのままノエル君に会っていれば、誘拐もされずに副院長と副所長は逮捕されて、その後女の子の事情を私の口からノエル君に伝えていたらこんなややこしいことになって……いない……?


「あ……」


 そこまで思い至ってノエル君の方を見た。


「だから、言ったでしょう?」


 ノエル君の目が冷たい。

 えー、そんなの結果論じゃん!

 女の子かわいそうだって思ったんだよ!

 そんな、一瞬の時間差で自分が殺されるところだったとか、エスパーでもなきゃ分かるわけないじゃん!


(ぐぬぬぬ……)


 納得いかないぞ。

 一人唸っていると、隣のノエル君がアルフレッドさんを見た。

 

「私からも聞きたいことがあります。

 フィオナさんに不審な手紙を送って不安を煽ったのは貴方ですね、ロシュフォール」

 

 え?

 手紙を?

 確かにノエル君は最初からアルフレッドさんじゃないのかと疑ってはいたけど……

 

「ほう、よくわかりましたね」

 

 そんなさらっと、ってえぇぇぇぇ!

 だって! 報告しなかったって怒ってたじゃん!

 出した本人なのかよ!

 驚く私にもアルフレッドさんは別に悪びれる様子はない。

 

「うちのオリヴァー殿下がフィオナさんについた悪い虫をどうにかしたいというので」

 

 しれっと言い放ってお茶を飲むアルフレッドさん。

 

「私と別れさせるためだけにフィオナさんを弄んだんですか」


 そんなアルフレッドさんを見るノエル君の目が怖い。

 そして声にも隠す気のない棘がびしびし生えている。

 

「弄んではいないね。だって可愛いし、自分が立候補してもいいと思うくらいには。

 ね? フィオナさん。いつ返事を聞かせてくれるんだい?」


 いや、この状況で私に話をふらないで下さい。

 ややこしくなるから。

 

「ちょっと待て。アルフレッド、その話は聞いてないぞ」


 室長の茶器がかちゃりと音を立てる。

 そして、アルフレッドさんを見る室長の目が怖い。


「叔父上、人を使ってまでベルウッドにちょっかい出してたんですか?」

 

 そして、呆れ声のカミル殿下。

 何だ、この三すくみプラス一。

 なんで私を置いてこの人たち盛り上がってるの。

 怖いんだけど。

 

「だって、誰を選ぶかは彼女の気持ち次第でしょう?」

 

 アルフレッドさんの言葉に全員の視線が私に集まる。

 いや、待ってよ!

 こんなモテ期いらないよ!

 

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