Ep.01 不思議な手紙
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「国家薬師と秘密のお仕事」(N9044KY)
https://ncode.syosetu.com/n9044ky/
私、フィオナ・ベルウッドは品行方正をモットーとする善良な王立病院所属の薬剤師である。
私はちょっと前まで親の残した多額の借金を抱えていたため、職場に隠れて副業をしていた。だって、借金返済のためだけに職場と家の往復なんて、私の青春なんなんだろうって思うでしょ?
そしたら、バイトで私が作った薬と色も匂いも全く同じ偽物が出回って、それが四年前に世間を騒がせた麻薬・ルピナスだったの。麻薬の製造密売を疑われたり、王太子殿下のスキャンダルが持ち上がったり。挙句の果てには逮捕されて大ピンチ。
(結局、いろんな人の助けがあってなんとか事件は解決できたんだけどね……)
割を食った私のために王太子殿下が借金を全額肩代わりしてくれ、バイトで作ってた薬は公に認められて特許も頂けることになったし大円団。
私も今は無事に職場に復帰できているというわけだ。
後、事件をきっかけに知り合った、王太子殿下直属の騎士隊ノエル・グレンジャー君。
さらさらの白金の髪に春の空のような透き通った青色の瞳、女の子にも見える美青年で、最初は謎すぎてストーカーされてんのかと疑ったけど、実は私のために護衛してくれてた人だった。
(その……、私のこと好きって言ってくれて……。その……、今はお付き合いしてるんだよね……)
ノエル君はとっても優しくてスマートで、でも私が不器用なのも分かってくれてゆっくり交際をさせて頂いている。
そんな日常とプラスアルファが加わった私の毎日なんだけど、その日はオリヴァー・ドレイク室長が一人の男性を調剤室に連れて現れた。
室長は実は臣籍降下した王弟殿下で、見るからに風采の上がらない感じの風体なのだが、瞳は王族特有の紫をしている。
実はこの人王弟殿下なんだよーって言われてもまだ半信半疑なんだけど。
だって、ヨレヨレ白衣だし、丸メガネはズレてるし、「薬のマッドサイエンティスト」なんて呼ばれてるんだもの。
「アルフレッド・ロシュフォールです。よろしくお願いします」
その人は明るい茶色の髪をゆるく流した、灰青色の瞳をした優しげな雰囲気の男性だった。
そして何より身長が高い。それなりに男性としては身長のある室長と並んでも頭半分は高いんじゃないかな。端正な顔立ちなのだが、優しく微笑んでいるせいで柔らかい印象を与える。
「えぇっと、僕しばらく不在になるんで、その間の室長代理としてロシュフォール君にお願いするから。基本的には室長室かな。何か報告とかあればロシュフォール君通してね」
しばらく不在とは珍しい。
しかもそれを申告するところも珍しいな。
いてもいなくても分からないし、不在だったとして代理を立てたことなんか一度もなかったはずだが……。
「室長代理って……室長そんなに不在長いんですか?」
先輩が心配顔で問う。
室長はボサボサの頭をかき混ぜながら首を捻った。
「う〜ん。どこまでかかるかわかんないんだよな〜、それで一応代理なんだよね」
何か問題でもあったんだろうか?
そういや、室長は前回のルピナス事件の時も相当早くから事件に関わっていたような気がする。
今度もまた事件とかだったら嫌だな。
いや、今や借金も抱えてないし、やばいバイトもしてない。ちゃんと元の品行方正に戻ったから私は関係ないはず……。
「フィオナ・ベルウッドさん?」
いつの間にかロシュフォール室長代理が目の前に立っていた。
先輩方から順番に自己紹介を交わしていたらしい。
「あ、フィオナ・ベルウッドです。よろしくお願いします」
「『妖精の小瓶』のベルウッドさんでしょう? あの薬は素晴らしいですね。何より安価で広く婦人病に効果があるというのがいい。レポートは私も拝見しましたよ」
にこやかに手を差し出されたので握手を交わす。
骨ばった大きな手だ。
同じ男性でも剣を握るノエル君とはまたちょっと違うかな……
「えぇ、まだアジルスの栽培の研究はこれからだそうで、広く販売するところまでは出来てないのですが……」
とても親しみやすい人だな。顔が綺麗な人ってあんまり第一印象良くないことが多いのに、この人はあんまり苦手って感じない。
「騎士団の証拠品の解析もお手伝い頂けると聞いていますよ。その時にはよろしくお願いしますね」
証拠品の解析とか嫌な思い出しかないぞ。
しかもノエル君に超追い詰められたし。
まぁ、それもこれも早い段階でバイトを自白しなかった私が悪いんだけどさ。
全員と挨拶を終えたのだろう室長代理はドレイク室長と一緒に室長室に帰って行った。
さて、今日も薬剤師室の仕事が始まるぞ。
仕事終わりに、ノエル君とジュリーの店で合流した。
あれから時々、こうして夜ご飯を一緒に食べることにしている。
お互い仕事もあるから、そうそう休みを合わせてデートとか頻繁には出来ないしね。また、ノエル君も仕事によっては夜通し勤務とかあるみたいだから、先の約束を取り付けるのも一苦労だ。
王太子殿下め。ノエル君との交際を後押しした割にはこき使っている感は否めない。
「フィオナさん! 待ちました?」
そう、ノエル君は私を『フィオナ先輩』って呼ぶのを辞めた。っていうか、私から辞めてもらった。
大体もう職場の後輩じゃないわけだし、先輩って呼ばれるのはおかしいでしょ?
「ノエル君!」
私の方はといえば、最初と同じ「ノエル君」って呼んでる。
「呼び捨てでいいです」って言ってくれたけど、そういうのってなんか抵抗あるっていうか、ねぇ。やっぱあるじゃん、そういうの。無理っていうか。
「いらっしゃい。二人とも、エールにする?」
酒場の女将ジュリーがカウンター越しに明るい声をかけてくれる。
ジュリーは元騎士でノエル君の先輩だったんだって。今はエプロンドレスで女将をしているけど、生物学上はジュリアンという男性だ。筋肉パツパツ系の。
「あー、私は明日休みだからエールにしよっかな。ノエル君は?」
「じゃあ、僕もエールで」
「はいよぉ」とジュリーが返事をして奥に引っ込んでいく。
「フィオナさん、その、しばらく連絡取れなくてすみませんでした」
ノエル君が長いまつ毛を伏せながら言う。
そう、今日は本当に久しぶりで、ノエル君には連絡しても応答はなく、今日になってようやく「今夜食事ご一緒できますか?」っていう言付けのメモを貰ったのだ。
ジュリーが「はいどうぞ」と言って目の前にエールの杯を置いてくれた。
乾杯、とノエル君と杯を合わせる。
「気にしないで。仕事忙しかったんでしょ?」
王太子殿下の直属の騎士隊だしね。エリート集団だって話だけど、それだけ仕事もハードなんだろう。
薬剤師室での仕事なんかぬるいレベルで。
「お気遣い助かります。それで、お話しがあって」
エールを口に含む。
いやぁ、仕事の後のお酒ってなんでこんなに美味しく感じられるんだろうねぇ。
染み渡るわー。
「ん? どうかした?」
言い淀むノエル君に続きを促す。
「その……、仕事がですね……ちょっとっていうか、もっと……忙しくなりそうなんです」
今でも相当忙しいのにもっと?
は?
カミル王太子殿下は鬼か?
自分は嫁も子供もいて家イコール職場みたいなもんだからいいだろうけど、部下にもそういうの考えてやれよ。
ていうか、私の恋路のために考えてくれよ。
「あー……それは、ちょっと残念……かな」
ノエル君がぱっと顔を輝かせる。
「あ、残念って思って貰えます? 嬉しい……」
いや、しみじみしているけど、感動するところそこじゃないから。
もっと労働条件について上司と話し合って欲しいわ。
にこにこでエールに口をつけるノエル君。
「でも、今日はこの後何もないんでしょう?」
「そこは大丈夫です。ちゃんと明日の朝までは休みを取り付けましたんで」
それって明日の朝は出勤するんかい。
やっぱり激務なんだなぁ。
(大丈夫なのかな? 体を壊したりしないのか心配になるレベルなんだけど……)
「あ、そうだ。今日ね、薬剤師室に室長代理が来たんだ。なんか、ドレイク室長が長期で不在になるみたいで、結構優しそうな人だったな」
気軽に言ったつもりだったのだが、ノエル君の目が不穏に光る。
「王弟殿下が、ですか……? 優しそうな人……?」
え? ちょっと怖いんですけど!
普通に職場の上司の話でも男アウトなの? 怖いって!
知らんふりをしてエールを飲み干す。
ノエル君、相変わらず執着溺愛系なんだよな。
「そうだ。フィオナさん、もし、なんですけど飲みに行かれる機会があったら、自分の飲み物にはしっかり注意を払って下さいね。フィオナさん、そういう警戒心ゼロだから心配なんです。でも、前みたいにずっとお守りするわけにもいきませんし……」
飲み物? どういうこと?
酒場で出すものに何かあるんだろうか。
いや、でも売り物に何か問題あるなんて話になったらもっと騒ぎになってそうだけど。
「最近、女性が酒場で意識混濁してその間に性被害に遭う案件が増えているんです。だからフィオナさんも気をつけてください」
なるほど、いわゆるデートドラッグってやつか。
そんなもん使う奴いんの。怖。
「あー、まぁ一人だとお酒飲まないし、でも一応気をつけるよ、心配してくれてありがと」
あ、ノエル君の目が不審そうである。こいつ信用してないな。
まぁ、バイトして麻薬疑われたり、証拠押さえようと娼館飛び込んだりして迷惑はかけてるしな。
その後はノエル君と美味しい食事を楽しんで、お家まで送ってもらって。
その……、おやすみのキスをして別れた。
玄関を開けたその時だ。カサリと音がする。
足元を見ると一枚の紙片が落ちていた。
扉の隙間に挟まってた?
開いて月明かりに書かれた文字は……。
「お前の秘密を知っている———————————」
あれ? 私って何か秘密なんてあったっけ……?
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