92)犬猿の仲 = 似た者同士
「アンタはそれだけ美羽さんの事好きだって事でしょ。好きな女に利用されたなんてそれこそ男冥利に
尽きる位思ったらどうです?賢い頭が、狂った俺が美羽の傍に居るのは美羽を苦しめるだけだとか
そんな事思ってるんじゃないのっ?リハビリとか口実つけて籠城気取ってんなよ!」
「当事者でもねー癖にデカイ口叩くな1年?!」
「だから樋口だって何回も言ってんだろっハゲっ!!」
「ハゲてねぇしっっ!!」
あたしはとうとう吹き出して、あたしの左右に居る猛者を両手を広げて押し留める。
何処からか咳払いが聞こえた。
どうやら此処のスタッフらしき人がこちらに困り顔を見せる。
「岩崎君、本当に今日こそ退院して頂戴ね。子供達のお世話は良いから。」
「お世話?」
「・・・気持ちが落ち着いてきたからか、此処に居る理由が欲しくて子供達の遊び相手になってくれて
てね。殆どスタッフね、彼は。」
彼女は苦笑いをする。
蓮兄の顔を見るとバツが悪そうで、コーヒーを一気に飲み干した。
「ったくお前は何でこんな男連れてくんだよ。」
「え?樋口と一緒に行けばって言ったの、美羽っちなんだよ?」
あたしは施設の出入り口で、蓮兄と対面していた。
「美羽っち、解ってるんだよ。今、蓮兄に必要なのは何なのかって。今は樋口の喝が必要だったって
事なんじゃないのぉ?」
ケラケラと笑うあたしに対して、二人は仏頂面だ。
「明日には家に帰るよ、美羽に伝えて。」
「うん。了解。」
「そろそろ双葉、文化祭でしょ。遊びに行きますよ。」
「会いたくねーよっ。」
(ぷぷ、やっぱり犬猿)
「じゃぁ又明日ね、蓮兄。」
蓮兄があたしの言葉に頷く。あたし達が蓮兄に背を向けると、蓮兄が言った。
「来てくれて良かったよ、樋口。」
樋口は顔だけ振り返り、空いてる右手で蓮兄に向って中指だけを立てたリアクションをして見せた。
あたしは又、笑った。