91)一触即発
「相変わらず直球だな、紗羽は。・・・今はリハビリ中。」
コーヒーをちびりと口にして背凭れに凭れ、目の前の自販機を見つめる蓮兄。
「・・・あの時は狂ってたと思う。美羽が薬を自分から飲むって言って何錠も手にしたのを
見て俺は止めなかった。コイツ死ぬかもって思ったよ。だけど怖くなかった。コイツが
死んだら俺も後から逝けば良いって思った。本望だとも思ったよ。」
「・・・柊ちゃんの事は考えなかったの?」
「考えないよ。あいつさえ居なければ俺はとっくに美羽を自分のモノにしてた。」
「・・・。」
「でもあいつが居なかったら俺も居ない訳じゃない。悔しいけど柊は俺には不可欠な人間。」
「美羽っちは。」
「・・・美羽は・・・俺と柊が居なかったら幸せだったかもな。」
「そんな訳ないでしょ。」
あたしが言おうと思ったその台詞が樋口の口から飛び出した。
「病んでる振りしないで帰ってきたらどうなんですか。岩崎さんらしくない。」
それは思いもしなかった台詞で、あたしは思わず樋口に目を剥いた。
蓮兄が鼻で笑う。
「美羽さんに利用された事、赦せないんですか?だからこんな所に居るの?」
「リハビリ中だって言っただろ。お前はさ、紗羽が今死んだら全部自分の中に閉じ込めておけると
思うか?これで紗羽の目には他の男は映らない。紗羽が誰かの特別になる事も無いって思うか?」
蓮兄の質問に樋口が真っ直ぐな視線そのままに熟慮する。
「思いますよ。」
数秒後、樋口はそう答えた。
「俺が最後の男だったって何時か想いますよ。でも先ず紗羽が死ぬなんて考えない。考えたくもない。」
「・・・思うなよ。」
「だぁっっ!!アンタは何考えてんの?!ぐちゃぐちゃに考えすぎなんだよっ!」
(え、何で喧嘩腰?!)